第二十六章
「この学校の先生だけど……愛想がないな。俺はもうちょっとにぎわった学校かと思っていたが」
トムが足組みをして匠に言っているのが聞こえた。
「どいつもこいつも呆れる奴ばかりだ」
トムは何かにケチをつけないと気が済まないようだ。
「こいつ鉄よりムカついてくる」
賢が気に入らないとばかりに睨んでいた。
「よし、君たち教室まで案内します」
と、現れたのはタイムマシーンに乗った日腕を負傷した五島先生だ。
私たちは先生について行った。
この学校は生徒数がかなり少ないので教室も普通よりは少し狭いが、この人数なら十分だった。
「さあさあ、入って下さい」
五島先生に手招きされ全員が教室に入る。
「狭いな」
トムが顔をしかめた。
「この人数です。ちょうどいいですよ」
五島先生は少し冷たく言った。
「それでは担任の先生がいらっしゃいますので……お! いらっしゃいました」
五島先生が向いた先には小柄な男がいた。
「五島先生ご案内どうも」
その男は頭を下げて教室に入る。
小柄な男は眼鏡をかけて眠そうな顔つきだった。
「え〜、私が君たちの担任、細田です……担当は日本史」
しゃべり方も割と弱々している。
「日本史ですか?」
真妃が普通すぎる学科に驚いたのか聞き返した。
「はい。もちろんです! 1年生の基礎ですからね」
真面目に答えると細田先生は黒板に早速文字を書き始める。
『1年間で学ぶこと』
「君たち1年は基礎を学んでいくわけだが、歴史は得意な方か?」
目をこすりながら先生が尋ねる。
『まあ』と答える人もいたが、だいたいが『微妙』と答えた。
「では、これからきっちりやっていこう」
そしてまたチョークを握る。
『その1 暗記』
「君たちは日本史を学ぶわけだが、そこで1番重要なものは何だと思う?」
先生は私を見て聞いた。
「え……っと、暗記ですかね」
黒板を見て遠慮がちに答えてみた。
「その通り! 暗記だ」
先生は満足げに頷いた。
そして教壇の引き出しから分厚い本を取り出した。
「これがその教科書! ページ数はなんと1,000ページ」
使い古されたのか少しボロボロだった。
「おっと! 君たち席についていないな。適当に席へ」
私たちは支持されるがまま適当に席に着いた。
「机の引き出しにこれと同じものが入っているか?」
私は引き出しを覗く。
たしかに太い物が入っている。
「これが教科書!」
心が愕然とした表情で教科書を取り出す。
「もちろんです。分厚いですがこれぐらいしなくては、人の命を救えませんよ」
細田先生は毎年この生徒の反応を聞きなれているらしい。
「でも1年間で全部じゃないでしょ? 無理ですもんね」
賢がパラパラめくりながら言った。
「いえいえ、全ページ1年間です。そして3ヵ月に1度の単元テスト。この学校はほとんど休みもなく、寮生活のため普通の3倍勉強します。朝、昼に限らずです」
厳しい先生の言葉を聞きながら私もめくってみる。
絵の説明もあるがほとんどが文字で埋め尽くされていた。
「いくらなんでも不可能じゃ」
さすがの真妃でも否定する。
「先輩方もそうして来たんだ」
先生は当然とばかりだ。
「まさか……これを暗記しろと?」
トムが不満たっぷりに聞く。
「その通り! いい事を聞いてくれた。今日からの課題すなわち」
先生はそう言いながら『暗記』の文字に赤いチョークで丸をつけた。
「毎日100ページずつ読むことだ」
……え!
「ひゃ、100!」
全員が大声をあげた。
「そうだ、じゃなきゃ間に合わん」
先生は眼鏡の奥から不気味に笑う。
「毎日……」
ため息が聞こえた。
「毎日読むぐらいなきゃタイムガードになれんぞ! 毎日読めば暗記も可能だ」
先生は満足げに頷く。
このセリフが言いたかったようだ。
「君たち、まだ話は終わっていない。落胆している余裕はないぞ」
細田先生はまた黒板に向き直る。
『その2 基礎体力』
「脳みそを動かすのも重要! ただ、体力は付けておくべし」
先生は大きな用紙を引き出しから取り出した。
「腹筋、背筋、腕立て、もも上げそれぞれ50回! ランニング校庭30周、ストレッチ朝と夜の2回! これを目安として体力はつけておけ」
「ま、毎日ですか!」
匠が声を上げる。
「もちろん! これぐらいなら簡単だろ?」
先生はフフッと笑って、黒板に向き直る。
『その3 集中力』
「これは最も重要だ! なぜだかわかるか?」
賢の方を見て先生が尋ねる。
「え……おそらくですが、タイムガードは命の危険を伴う仕事です。ですから集中力を高め、敵から身を守る武器となるように身構えるためじゃないでしょうか?」
賢は真面目に答える。
「まあ最もだ。君たちは1人1人才能を持っている。その才能は集中力を高めることにより、成長する。今はほんの不十分な力でも、集中力を高めることで必要なだけ強くなれる」
先生はそう言って黒板の『集中力』を赤いチョークで囲んだ。
「白い紙に丸い点を書いて10分間集中してそいつから目を離さないこと! これが集中力を鍛える上でいい練習になる。毎日寝る前に必ずこれをするんだ」
細田先生はそこまで言うとまたこちらに向き直る。
「全てを毎日継続的に行うこと! これこそが1年の基礎的能力を身につける重要なことだ。授業で習った事をその日のうちに頭に入れる事も忘れないように」
私は力が抜けたようだった。
そうか……やっぱり努力はつきもの
「辛いが選んだのは君たちだ! もちろん勉強ばかりじゃない」
先生は黒板を消すとまた新しく書き始める。
『4月……新入生歓迎会』
「4月には新入生歓迎会がある。何をするかって言うと……まずレベルの高い先輩方が能力を披露してくれる。これがまた感動的なものでな。それから部活動紹介!」
「部活動?」
トムが馬鹿にしたように聞いた。
「人数が少なくとも部活は少しならある。それから……」
『5月……クラスマッチ』
「クラスマッチは盛り上がりますよ。なぜなら校内で大きなことをするんです! まあ普通じゃないことですかね……まだ教えられませんが」
『6月……テスト&パーティー』
「テストは置いといて、パーティーというのは、柴崎先生特製の豪華な食事と校長が用意されたゲームを楽しむものです。これはテストや勉強でのストレスを吹き飛ばすようにと校長の提案です」
『7月……学校内祭り』
「これはたくさんの出店が学校中に開かれます。校舎も全て! 毎年出るものがパワーアップ状態なので飽きません」
『8月……1週間の夏休み』
「外出許可です」
『9月……テスト&パーティー』
「これは6月同様です」
『10月……文化祭準備期間』
『11月……文化祭』
「体育祭がない代わり文化祭は手の込んだ素晴らしいものです。普通の学校では見ることのできない物もありますし、体験もできます」
『12月……1週間の冬休み』
「夏休み同様です」
『1月……進級審査試験』
「これは進級できるかの貴重なテストになります」
『2月……パーティー』
『3月……クラスマッチ&卒業式』
「最後のクラスマッチもかなり盛り上がります」
行事すべての説明を受け、私たちはただただ驚いた。
中でも『パーティー』というのは想像もつかなかった。
「こんな感じで1年間頑張っていただきます。いいか、楽しい事もきつい事もある。だから精一杯頑張ってください。1年間よろしく」
先生はそう言って一礼した。
「待ってくれよ! このメンバーでずっとやるのか?」
トムが気に入らないとばかりに黒板を見つめる。
「行事も多いのになんでこいつらなんかと行動しなきゃならないんだ!」
トムは机をたたく。
「納得いきません」
匠は隣から
「ト、トム君、い、いくらなんでも!」
と必死に止めようとしている。
「なんだよ!」
トムは匠を睨みつけた。
「嫌なら退学だ」
先生は冷たく言うと教室を出て行った。
「なんだ! もう終わりか!」
トムが時計をチラッと見て怒鳴った。
「不十分な説明を受けて、どうしろっていうんだ?」
「うるさいぞ、トム」
賢が立ち上がって怒鳴り返す。
「なんだよ!」
トムも立ち上がった。
「喧嘩したって無駄だよ」
心が賢の腕をつかんだ。
その時……
「1日の流れの説明をしに来たぞ! こっちむけよ」
入口から声がした。
「た、拓先輩!」
そこにいたのは見学会で知り合った拓先輩だった。
「よう、お前ら久し振り」
拓先輩は相変わらず元気がいい。
「何しに来たんです?」
私が尋ねると、自慢げにニヤッとする。
「俺は風紀委員になった身なんでな! ま、1日の流れをお前らに説明するよう頼まれてだな」
「なんで風紀委員が?」
真妃は疑わしそうに聞く。
「この学校とにかく先生たちも忙しくてな! だから規律を守る宿命にある俺が先生の代わりにお前らに指導するというわけだ」
拓先輩はどうだとばかりだ。
「へぇ〜」
心がどうでもよさそうに言った。
「と、とにかくお前らついてこい」
拓先輩は私たちに呼びかける。
私たちはとりあえず拓先輩に従うことにした。
「まずここ寮で一晩を過ごす」
拓先輩に連れてこられたのが寮だった。
設備の整った、1人1部屋の寮だ。
「寮生活においても注意する点は多い……中入って」
拓先輩は持っていた鍵でドアを開けた。
「自分の服の管理はしっかり自分ですること! 洗濯機も学年に一台ずつ設置されている。隣の部屋は洗濯機と乾燥機と、アイロンが置かれてるから自由に使って。それから冷蔵庫だけどここにある小さなのがそうだよ」
拓先輩は入るなり部屋の台に置かれた小型冷蔵庫を指差した。
「入れていいものは飲み物限定! 食べ物は売店にあるけど、出来るだけ買わないようにしてくれよ。体調管理はしっかりと行うことだ。それからなるべく部屋の掃除はしょっちゅうすること! ホテルじゃないんだから、ちゃんと掃除機から何から自分でだ。俺の同級生で足の踏み場もないほど散らかしてた奴がいたが……先生に不衛生状態が見つかって、校庭にテント張って一週間寝泊りさせられてた!」
拓先輩は思い出し笑いをする。
「バカバカしい」
トムが小声でそう言ったが拓先輩は笑って
「ああ、まあな」
とだけ言った。
さすが先輩だ。
「6時にモーニングコールが鳴る。そしたら準備を済ませて、7時までには朝食を終えてくれ! 7時半から各学年各教室で授業開始」
「7時半から!!」
心が信じられないとばかりに叫ぶ。
「じきに慣れるもんだよ。俺も最初は遅刻ばかりだったからな。そして、1時間授業を受けて、15分休憩。そして2時間目も1時間受けて15分休憩。3時間目も1時間受けて30分休憩。4時間目も1時間受けて、そこから昼食と昼休み。ここまでOK?」
「あんまり喜ばしくない時間割ですね」
賢がため息をついた。
「でもしょうがないよ、さっき先生も言ってたように勉強を重点に置いてる」
真妃が正しい言葉を返す。
「その通り! そしてここがまた変わってるんだが3時までは自由時間だ。3時から6時まではぶっ続けで実技などの勉強が入る。そして夕食が6時半! 7時半から1時間の授業、それで強制授業は終了。その後は部活に所属すると10時まではだいたい部活動だ。そんで1日は終了! 個人的に部屋で勉強するもよし、遊ぶもよし、寝るもよし」
拓先輩はザッと説明する。
「つまり、8時半までが学校で活動する時間ですね?」
匠が分かりやすくまとめる。
「そうだ! 部活生以外はな」
拓先輩は自分が役割を果たしたことに満足しきって何度か頷く。
「ふ〜ん、もっとカッコイイ説明できないのか?」
トムが嫌みたっぷりに言う。
「おい! 先輩に失礼だろ」
賢がトムの腕を掴んむ。
「はなせ!」
トムは賢の手を振りほどく。
「先輩に意見しただけさ」
トムは賢を睨みつけた。
「まあまあ、俺はこの扱い慣れてるし、いいんだよ賢」
拓先輩はにこやかに2人の間に入った。
「俺の説明に文句があるようだな? もう一回言い直してやろうか?」
「結構だ」
トムはそっけなく言うと壁にもたれる。
「……え〜と、それから授業に遅刻しないようにしてくれよ! 俺はこっそりとチェックする場合があるから、ま、日頃からしっかりしてくれれば問題ない」
拓先輩はそう言って、腕時計をチラッと確認した。
「ん〜、時間だ! よし、今から柴崎ルームにお前らを連れていく事になってる」
トムは『なんだそれ!?』と匠に問いかけていた。
「柴崎ルーム? そこで何するんですか?」
と私は先輩に尋ねる。
「飲み会だってよ! 入学祝いのな」
「くだらない、参加しないといけないのか?」
トムは不満そうに聞く。
「さあな! そんなんじゃ友達できないぞ」
拓先輩は冷たくそう言って、私たちを移動させた。
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