第二十五章
新しい登場人物!しかし……
「早く起きなさい! 今日は肝心な日なんだから」
母が私の布団をガバッと引っ張った。
「まだ眠い……」
私は起き上がり目をこする。
「あんたねぇ、新入生なんだから遅刻するわけにはいかないのよ」
母はそう言うと居間に行ってしまった。
父から許可が出たあの日、私はタイムガード育成校に入学することを決めた。
中学の友達に別れを告げて、普通の高校生活とはかけ離れた、未知の世界へ足を踏み入れることとなる。
「この日がついに来ちまったか……」
居間へ向かうと父が似合わないスーツ姿になって立っていた。
「あれ?」
私は妙な光景に驚く。
「俺は入学式に呼ばれてるんだよ。みゆ、俺に恥かかせんな」
父はそう言って鏡の前に立った。
「どうだ? イケてるか?」
母はテーブルに朝食の皿を置くと
「昔は似合ってたんだけど、なぜかしらねぇ。たぶん太ったからよ」
とため息をついた。
私は笑いをこらえた。
「ババアに言われたくねぇよ! みゆもさっさと着換えろ」
私は頷いて、パジャマから着替えた。
「制服がないのがめんどくさいのよね」
母は昨日服をバックに詰め込むのに苦労していた。
「寮生活ってのも結構なストレスだけどな」
父は味噌汁片手に言った。
私も急いで茶碗を手に取った。
「え〜と、忘れ物はないわね?」
母は落ち着かない足でウロウロした。
「落ちつけよ! おめぇ母親だろ?」
そう言って父は食べ終わると急いで歯を磨き始めた。
「寮生活なのよ? 心配にきまってます!」
母は父に怒鳴りつけて、またバックの中をチェックし始めた。
『ピーンポーン』
家のベルが部屋に鳴り響いた。
母は顔をあげて固まった。
父は歯磨きを済ませ、髪を気にしながら玄関へと慌ただしく走った。
私は少し緊張し始めた。
「山田です。おはようございます」
玄関でそんな声が聞こえた。
「おお! 上がってくれ」
父はそれだけ言って居間に走ってきた。
「馬鹿野郎! 2人とも固まってないで準備終わらせろ」
父は母のチェックを何回も受けたバックを背負う。
「あの〜、川下さん。もう出なくては間に合いません」
山田先生の声がした。
私は立ち上がると、少しふらつきながら玄関へと向かった。
「お久しぶりです。さあ急いで」
山田先生はいつもどおり落ち着いている。
「よし、行くぞみゆ」
父も似合わない格好で外に出た。
「待って!」
私は先生と父を止める。
そして母の方を振り返った。
「じゃあ行ってくる」
私は母に笑いかけた。
「手紙……書きなさい。必ずよ! それから……ちゃんとしてなさいね! 休みの日は会いに来て、少ない日数だけれど。それから風邪ひかないように体調管理も怠らないで。それから、人様に迷惑かけないように考えて行動しなさい。あと……」
「あほ! もう娘はガキじゃねぇぞ。それに遅刻しちまう! 言いたいこと長いなら前日にまとめとくとか手紙書くとかしとけよ」
父が外の方から怒鳴った。
「と、とにかく、連絡だけはとって。それから、無理だと思ったら帰ってきていいからね。母さんはいつでも帰ってきて大歓迎! でも適当にやってはダメ。一生懸命やりさえすればそれでいいの」
母は私を真剣な表情で見つめていた。
「みゆさん、時間ですよ」
山田先生が背後からそう告げた。
「じゃあ、母さん手紙も書くし、またちゃんと帰ってくるから。頑張ってきます」
私は母に笑顔でそう言って車に乗った。
道のりは見学会の時と同じで、まず不思議な木の装置まで車で向かう。
それからT・Tに乗った。
「ご両親に了承が出てよかったですね」
T・Tに乗っている時山田先生が小声で言った。
しかし、父には聞こえたようだ。
「おい山田! 俺が反対すると思ったのか?」
「ええ、当り前ですよ。あなたは最初ものすごく反対していましたし」
山田先生は少し笑う。
「山田、そろそろ呼び方を昔に戻してくれないか? なんか馬鹿丁寧で気持ちわりぃんだ」
と父。
「そうでしたか失礼しました。川下先輩」
私は山田先生が父のことを先輩と呼ぶことにものすごく違和感を感じてしまった。
「昔はこう呼ばれてたんだよ」
父はそんな私に気づき、自慢げに言った。
T・Tから降りると山田先生は任務があるからと別れを告げた。
私と父は、証明書を女の人に渡し機械に通してもらった。
ドアをくぐると、懐かしいメンバーが勢ぞろいだ。
「やあ、みゆちゃん! 入学決めたんだね。よろしく」
心が最初にやって来て握手を求めた。
私も久しぶりに会ったので喜んで握手する。
「私も入学するの。これからよろしくね」
続いて真妃もやってくる。
後ろには母親らしき女の人がいた。
こちらに丁寧に頭を下げてきたので、私と父も同じように頭を下げる。
「ぼ、僕もです。クラスもみんな、お、同じですし仲良く、や、やっていきましょう」
匠が心の背後からスッと出てきた。
「き、君は!」
私が『よろしく』と言おうとしたとき父が声を上げた。
「知りあいなの?」
と私。
「い、いや俺の知り合いによく似ててな。まあ関係ないが……」
父は意味深に答える。
「僕初対面です。勘違いですよ、き、きっと」
匠が遠慮がちに父にチョコンと頭を下げた。
「お揃いだね! 諸君久し振り」
賢が声を張り上げて近寄って来た。
後ろにはスーツ姿の金持ちと思わせる格好をした男がいる。
「私の息子がお世話になります」
父親だろう男が礼儀正しく一礼する。
私たちも頭を下げた。
「これはこれは、古き英雄! 川下君ではないか?」
頭を上げた賢の父親が、父に向って言った。
「英雄なんかじゃ……たしかに俺ですが」
相変わらずの口調の父には気品さがない。
「いや、あなたは未だに誇られています。友人の方ももちろん語り継がれるタイムガードの英雄です」
賢の父親は本当に見た目からすごいのに……うちの父ときたら。
でも誇られるほどすごい人なんだ!
と私は内心思った。
「どうも、そこまで言われるほどじゃないんですが。ありがとうございます」
父のお辞儀は浅い。
「そういえば、鉄君まだ来てないね」
心がキョロキョロしながら言った。
「た、確かに! 彼がいないと、な、なぜか物足りない気がします」
匠は眼鏡をあげながら呟く。
「鉄は、来ないの」
真妃が小さな声で言った。
「え!」
賢と心と匠と私は声を上げる。
「『俺は好きなようにするんだ』って家出ちゃったみたいだから」
真妃は俯いていた。
「なんで? 真妃さんがそれを?」
賢が髪型を気にしつつ尋ねる。
「あの子が家出した時うちが引き取ったからなの」
真妃の母親が答えた。
「じゃあ鉄君はこないんだね」
心が低い声で言った。
「だけど、人数はこのままだ」
どこからか知らない声がした。
振り返ると茶髪でブルーの瞳の男の子がポケットに手をつっこんで立っていた。
「俺はトム。アメリカ人と日本人から生まれたハーフ。見学会には出席しなかったが入学するんだ。ここじゃ少し浮くけどよろしく」
どこか冷たい眼が私たちに向けられ、トムは握手を求めた。
「トム?」
匠が疑わしそうに見つめる。
「何か文句でもあるかい? 匠君。差別はよくないよ」
トムが近づくと私はいやな予感がした。
なぜか冷たい感じが気になる。
「さ、差別では……まさかハーフの子がいるなんて」
匠は少し怯えていたが、何か嫌そうにもしていた。
「そうかい? 別に構わないだろ? 仲良くしようぜ」
トムが手を差し伸べてきた。
匠はゆっくりと握手を交わす。
「じゃあ、このメンバーで三年間やってくわけだ」
賢が見渡して言った。
「君がリーダなの? 僕はいやだね」
と心は相変わらずだ。
「悪いけど俺は君たちみたいなレベルの低い人と会話は成り立ちそうにないな……匠君、話があるんだちょっと来てくれ」
トムは冷たい笑みを見せて、匠を引っ張った。
「ちょっと待って! それどういう意味?」
真妃がいきなり前に進み出て怒鳴る。
「俺と格が違うのさ」
トムはまた不気味に笑った。
「いやな奴」
心が小声で言った。
「あんな奴相手にするのはやめよう」
賢は真妃に頷いた。
「でも匠は気にいられちゃったね」
私がそう言うと、みんな匠を見て、ため息をついた。
「なんか仲間を奪われた感じがする」
心が残念そうに呟く。
「なんであんな人が……」
真妃は納得いかないのかトムを不審そうに見つめた。
「保護者の方々、それから新入希望生のみなさん。わざわざ遠いところから、長旅ご苦労様です。我が校の入学式は、後五分ほどで始まります」
出てきたのは、あの教頭先生だ。
「え〜、我が校の入学式の事ですが、かなり単純かつ短いものとなっておりまして……普通と少し違った部分もありますが、こちら側でスムーズに進むよう計画も万全で、プログラムもきっちりと作られております。我々教員の指示に従い行動してください」
教頭はそこまで言うと別のドアから出て行った。
「あの野郎教頭になってやがったか」
父が後ろから舌打ちした。
「知ってるの?」
気になって尋ねる。
「ああ、俺に歴史を教えた野郎だからな……性格悪いぞあいつ」
父は嫌みたっぷりに答えた。
私は『へぇ〜』と頷いたチラッとトムと匠の様子を見た。
彼らは何か言い合っているのか、深刻そうに小声で語っている。
匠は何やら怒っているようにも見えた。
「みなさん、式の準備が整いましたので、保護者の方はこちらへ」
と叫んでいたのは大山さんだった。
大山さんは見学会の時迷路で私たちの式を取った教育実習生だ。
父とその他の保護者が言われるまま、ドアの方へと入って行った。
「きっとすごい設備が整っているんだよ」
賢がいかにも分かりきったように言う。
「どうかな、お坊っちゃま。偉そうな言い方だな! 金持ちだとそこまで偉そうに出来るのかい?」
トムがニヤついている。
「なんだと! この……」
賢が拳を振り上げたが私と真妃がとっさに止める。
「どうせ、口だけ達者なんだろうけどな。殴ってみろよ! 俺にかすりもしないだろうけどな」
トムは大声で笑う。
嫌な笑い方だ。
「おい、茶髪! チリチリのその髪の毛何とかしろよな。あとポケットに手突っ込むのよしなよ。まあ意地汚い奴だから仕方ないか」
心がいつもの笑顔でガツンとトムに言い放つ。
トムは心を睨みつけ、舌打ちをした。
「俺はお前みたいな低レベルなガキが一番気にいらねぇ」
「勝手に言ってろ! 心のすごさは人にいちいちレベルをつけるお前には分からないさ」
賢が拳を下ろすとトムに怒鳴りつける。
トムが賢に向き直った時、大山さんがまた出てきて叫んだ。
「お〜い、君たち式が始まる。急げ」
「覚えとけ!」
トムは賢と心を交互に見て小声で言った。
私たちは少しドアの前で待たされ、それから広い部屋に入場した。
在校生と保護者、教員と両脇に座っており、目の前の舞台には教頭が立っていた。
私たちは用意されていた椅子に腰掛けた。
「これより第●●回入学式を始める。一同……礼」
教頭はマイクに向かって開式の言葉を述べた。
その後私たち入学生の名前を1人1人紹介し、教員の名前と教科、学校の仕組みなど教頭が読み上げて行く。
「それから校長先生より式辞を預かりましたのでこれを私、教頭が代理とし読みます」
教頭は長々と式辞を読み進めたが、私の耳には入らなかった。
私はトムの事がただ気になっていた。
あの冷たい表情と態度……。
なぜ彼はあんなに自分たちを嫌っているのか!
それに鉄……家出という決断は正しかったのだろうか。
そんな事を考えている間に式辞は読み終わった。
「それでは生徒会長挨拶」
教頭がマイクに向かってそう言うと在校生の中から返事が聞こえた。
そしてその人物に私たちは凍りついた。
長い髪の少年は舞台に上がると一礼する。
「僕は生徒会長の和と申します。これから君たちの、いえ学校の中心として活動していく者です。ですので、これから述べるこの学校の規則について耳を傾けてください。もし規則を守れないものがいれば我々生徒会が罰を与えます。僕たちにはそのような権限があるからです」
そう、少年は鉄の兄、和先輩だった。
「どうして? あんなに喧嘩っ早いひとが?」
真妃が私に小声で言った。
しかし和先輩は金髪ではなくなっていた。
髪を黒く染めなおしていたし、前に会った時より優等生っぽくなっている。
「どんな手を使って生徒会長なんかに!」
賢が嫌そうに言っている。
「まず、立ち入り禁止である場所への立ち入りはもちろんいけません。もし行った場合は一週間の休み時間の草取りと、売店の立ち入り不可です。次に不要物ですが、授業に関係のない物や食料などの持ち込みなどは認められません。よって生徒会より没収と、こちら側で罰則を与えるつもりです。さらに学校からの不許可の外出は禁止です。これを行うと教頭先生からの罰則を受けます」
和先輩は止まることなく読み進めた。
「規則を守れないものを見つけた場合、生徒会は容赦しません! 我々は日々見回りを行い、厳しく校内を取り締まります。これも安全のためです。よき学校生活をみなさんが遅れることを我々在校生一同願っております」
和先輩はそう言ってまた一礼した。
「それではこれより入学式を閉会します。一同……礼」
和先輩が座った瞬間に教頭が挨拶をした。
本当に短すぎる。
「新入生は少々お待ちください」
教頭がマイクを通して告げた。
新しい同級生に、生徒会長は鉄の兄、そして鉄もいない……。
なんだか気分が上がらない感じのスタートを切ってしまった。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
まだまだ書き続けますがどうぞよろしくお願いします。新しい登場人物も出てきて、読みずらいという方もいらっしゃるかな……すいません
感想と評価お願いします。
では次回へ




