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第二十四章

ついに父の口から例の事件が語られた。

父さんは相変わらずの態度で、冬休みは家にいることが苦痛だった。


親友の家で勉強をしたり、図書館に通ったりして一応受験生として過ごしているが……


先の事は全く予想できない。


「ねぇ、みゆってS校受けるんだよね?」


友達にそう聞かれて、最近よく返事に困った。


「ん〜、行けたら」


なんて答えて、その場を逃げ切る毎日。


「一緒の高校で頑張ろう!」


同じ高校を受ける予定だった友達にそう言われることもあって気持ちが重くなっていった。




そんなある日……


「おい、みゆ! じいちゃんの家行くぞ」


父が顔も見ないで言った。


正月もくるので当たり前だ。


私は支度を始めた。


「それと、あっちに行って時間があったら、話がある」


深刻そうにそう告げて、父はどこかへ出かけた。



祖父の家は自分の家から、30キロ程先にある。


超田舎だ。


「よく来たな、みゆ!」


祖父は父とは違って、素直で優しい人だ。


「どうじゃ? 勉強の方は調子いいか?」


祖父は優しく微笑んだ。


「まあまあかな……」


私はそう答えて、家の中へ入った。


祖母は2年前に他界していたので、祖父は一人で暮らしている。


「わしは孤独で寂しくてなぁ、だから高校生になったらここから学校に行くといい」


祖父は本気で言っているのかよく分からなかった。


私は軽く「いいよ」とは答えた。


父は祖父と顔を合わすと


「親父、余計なこと言うなよ。こいつは遠くの学校に行くんだ」


と愛想なく言った。


「お前は相変わらずじゃな。そんなんじゃ娘に嫌われるぞ」


祖父はそう言って、私の方を見てニッコリ笑った。


「もう嫌われてる。それに娘は高校に行かない」


と父は言った。


何も知らない祖父はもちろん驚いた。


「どういうことじゃ!?」


私を見つめている。


「俺と親父の進んだ道と同じ道を進むらしい」


父はドサッと座りながら言った。


「おいおい、冗談じゃろ?」


祖父は力が抜けたように言った。


「嘘に聞こえたか?」

それよりも祖父もタイムガードであったという事実に唖然とした。


「ほほう! やるなぁみゆ。お前ももう大人の仲間入りじゃ」


祖父は反対するどころか嬉しそうだった。


「親父なら反対すると思ったが……。賛成なのか?」


父は不満そうだ。


「もちろんじゃ! 孫が誇り高きタイムガードになりたいというのじゃぞ? 反対などする訳がなかろうが」


祖父は私の前に立ち父と向かい合った。


「俺のときゃ、反対したじゃねぇか!」


父は手に持ったチラシを床にたたきつけた。


「お前だからだバカ息子! みゆはわしの妻に似て頭がいい。お前とは違う! エリートになったのもバカが負けず嫌いだったってだけじゃ」


祖父はそう言ってチラシを拾った。


「俺は親父に似たんだよ。みゆ、墓参り行くぞ!」


父は私に冷たく言った。


「え! さっき行ったじゃん!」


そう、祖母の墓はもう行った後だ。


「もう一回行くんだよ」


父は玄関へ向かう。


「なんで?」


私の質問に小さな声で父はただこう答えた。


「いいからついてこい、行けば分かる」



祖父の軽トラックに乗って、私は父と二人っきりで墓へ向かった。


沈黙が続き、我慢できなくなった時、なぜか父が口を開いた。


「おめぇが、家を出て行く前に、話さなきゃなんねぇ事がある」


そう言って口に煙草をくわえる。


「何?」


一体何が言いたいのだろうか……。


もしかして、学校で聞いた事件のこと?


そう思いつつ父を見つめる。


「今から行く墓は、毎年俺が1人で行っていた。だが、こうなった以上お前も行く必要はある」


父は真面目な表情で言った。


私は「分かった」とだけ返事をした。


今まで来たことのない場所でトラックは止まった。


軽トラックから降りた私は、黙って父に続いた。


墓が並ぶ中奥の方へと進む。


「ここだ……」


父は重い口調でその墓を見つめる。


そこには『池田家』とかかれていた。


「こいつぁ俺の戦友でもあり、命の恩人! 感謝しろよ、こいつが死んでなきゃ、おめぇも俺もここにゃぁいねぇんだ」


「この人が命の恩人?」


「そうだ。あれは何年前か……計算すんのもめんどくせぇが、俺があの学校を出て、タイムガードととしてエリート隊で働いてた時代だ。池田は一年の時からのライバルで、一番の親友だった。エリート隊に入った時も、常に競い合っていた。どっちが活躍するかってな」


父の口から煙草の煙が悲しげに出された。


「池田と俺のそばにはいつも小林っていうクールな男がいて、俺達3人はタイムガードの頂点に立っていた。もちろん母さんもエリート隊に属していた。そして全員が信頼し合い助け合い、日々厳しい訓練にも耐えた。……そう思っていたが」


間があき、虫の鳴き声だけが耳に響く。


「いつものように任務を遂行したつもりだった。俺と池田が本部に連絡を入れようとした時だ……。小林は俺達に銃を向けた。俺と池田は最初笑った。小林が似合わん冗談をしているとそう思って。だが違った。奴の顔は本気そのもので、口元が微妙に震えていた。奴は無線機を取り出しこう言った。『2人はここにいる。ただちに行動を開始する』。俺達は戸惑ったがあいつは迷いもなく俺達に銃を向けていた」


「池田と俺は状況がうまくつかめなかったが、あいつが自ら全てを打ち明けた。小林は、時空犯罪組織として属していた。しかし才能が認められて、タイムガード育成校から推薦入学の連絡が届いた。組織の人間たちはスパイとして潜り込むよう命じた。小林は敵である学校に入学し、スパイとして、活動を始めた。しかし厄介なことに、俺達と仲良くなってしまい気づけばエリート隊にまで属していた。だが犯罪組織はそれを許さなかった。タイムガードをどんな手を使ってでも潰すのが、奴らの狙いだった」


「小林はエリート隊の頂点に立つ連中をつぶすよう命じられた。つまり俺と池田だ。そして1人を殺し、1人を人質に取るという任務だ。これに失敗すれば、犯罪組織は小林の家族を殺すとまで言っていた。小林の家族は代々犯罪組織に属していた。だから、すぐに殺されてもおかしくない。だから奴は仕方なく俺を殺そうとした。だが人質になるはずの池田は、自分が殺される身になると俺の前に立った。小林は『どちらでも構わん。すまない』と、俺が止める言葉さえ耳に入れずに発砲した」


「池田があの時俺の前にいなかったら、俺は今頃墓の中だった。池田は撃たれた時俺に小林の作戦を阻止するよう合図をした。小林は手が震えていたし、自分がやっている事に耐えられず目をつぶり、呼吸を荒げていた。俺は銃を取り出し、小林に向けた。小林は俺に銃を下ろすよう怒鳴りつけたが……俺は発砲した。小林は心臓の所に弾があたった。そして俺に感謝のまなざしを向けて死んでいった。俺は戦友であり、長い間親しみあってきた2人の親友の遺体をただ茫然と見つめた。なぜ、タイムガード本部はスパイの存在に気付かなかったのか……なぜ池田が身代りになるはめになったのか。俺は責任を感じた」


「俺が気付いてやれれば良かったんだ。池田が前に出たとき、俺が池田を押しのけて撃たれれば良かった。俺は、責任を持ってタイムガードをやめた。もう大切な人たちが死んでいくのも見たくなかった。だから、おめぇにこんな危険な思いさせたくねぇんだ! タイムガードってのは、誇り高い仕事だ。素晴らしい組織だ。だが、命の危険度は高い」


父はまっすぐ私を見つめた。


「お前には関わってほしくなかった……」


私は父の恐怖心を感じたような気がした。


父は墓の前に座り、手を合わせた。


「池田、許せ!」


そう言って私に向き直る。


「お前は小さい頃から、才能があった。俺と母さんは気づいていたが、あの1件以来タイムガードとは関わりを持たねぇようにしてた。だから誰にもばれないようにしてたんだ。パズルをやらせりゃ3歳なのに1000ピースを三日で完成させて、迷路もスイスイといてた。おめぇは天才なんだみゆ。娘の頭の良さに普通の親なら大喜びだったろうが……俺たちゃ、嬉しい気持ちを押しこんで誰にもこの才能をばれねぇようにした。そして一番恐れたのがみゆ自身が気づいてしまうことだ。おめぇは好奇心も強い! 自分の才能を知ったときどう出るかは頭に浮かんでた。親が反対しようが挑戦的な態度で1人で突っ走るって」


父は俯いている。


私は聞いた事もなかった事実に聞き入った。


「それを避けようとついつい娘をバカ呼ばわり……許されることじゃねぇなみゆ。憎んでるだろ? だけど俺も母さんも、お前がタイムガードの世界に足を踏み込む事はして欲しくなかったし、もう辛い思いしたくないんだ。だから、才能なんかどうだっていいんだ! 平和な環境で育ってほしい。だから馬鹿でいい! 十分だって……。でも違う。俺はお前の態度を見て感じた。俺達親が娘の自由を奪うのはおかしい。自分たちが逃げたいだけなのに、娘の望みを押しつぶすようなことしていいはずねぇんだ」


「俺はおめぇの土台になってやらなきゃなんねぇ。だからやりたいことをやれ! きつけりゃ帰ってこい。俺は父親として今更ながら、娘のために尽くそうと決めた。いいな、これから先何が起こるか分からん。自分の命、人の命自力で守れ」


父はそこまで言うと黙った。


私はその数秒後父が涙を隠そうと手を動かしている事に気づいた。


父はつらい思い出が忘れられずに、ただ不安と責任だけを持ち続けていたのだ。


私をバカ呼ばわりしていたのも、不安から逃げるため……。


父は涙を拭き取っても目を赤くしている。


でも私の方を向いて優しく笑いかけた。


「タイムガードは危険だが、自分の娘がたくさんの人たちのために尽くして、精一杯守ろうとする姿を後ろから見んのも悪くねぇ」


私も視界がぼやけたが「ありがとう」とだけ言うと父の友人の墓に向き直った。


手を合わせて目を閉じた。


この人がいなければ私も父もここにいなかった……。


そう思うと感謝の気持ちをどう表現していいか全く分からない。


でも私はこの人の分も頑張ろうと心に決めた。





ここまで読んでいただきありがとうございます。

次回からいよいよ主人公がタイムガードの世界へ……

それでは今回はこの辺で

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