第二十三章
「教頭先生! 今すぐ司令部に電話して」
校長は落ち着いた口調で言った。
「ではなんと?」
教頭は戸惑う。
「何って決まってるでしょ?」
と校長。
「そんな! 僕たちにもう一度チャンスを下さい」
賢が慌てる。
「取り消しですか?」
教頭は見えない校長に向って言う。
「何言ってるの? あなた教頭でしょ? お断りよ、お断り!」
校長ははっきりとそう言った。
私たちはホッとして座り込む。
「し、しかし……校長。それでは彼等をまた遠ざけてしまう! あなたはご自分の事もお考えになった方がよろしいのでは? いつもいつも自分ばかりを犠牲に……」
「犠牲? 私は堂々と正当な校長の義務を果たしてるだけ! それにこの子たちを入学取り消しにする権利が誰にあるっていうの? 私はむしろ五島先生が救われたのだから、それに感謝し、また彼等のその腕の良さと頭の回転の良さを生かしていけるよう、さらに期待して入学させるべきだと思う。腕を磨けば想像以上の者を持っているはず!」
と校長。
「分かりました。連絡入れておきます。司令部からまた訴えられますよ、本当によろしいんですか?」
教頭は受話器を手に取る。
「言われたとおりに、責任は私が……その前にこの子たちを最終ルームに案内して! 見学会ももうすぐ終わりだから」
その言葉を聞いた時私は少しさびしく思った。
帰らなければならないのか……。
「分かりました。君たち急いでついてきてくれ」
教頭はパソコンを閉じるとドアを開けた。
私たちは「ありがとうございました」と言って部屋を出た。
最終ルームとは最初に説明を聞いた、大きなモニターのある部屋だった。
「ここが見学会の最終ルーム! ここで他の参加者待ちなさい」
教頭はそう告げるとどこかへと慌てて走って行ってしまった。
「みんなはタイムマシーンで楽しんでいる事だろうね」
賢が言った。
「賢は、この学校に入る予定なんでしょ?」
と私。
「ああ、もちろんだ。父上を尊敬しているが、僕はその上を目指すつもりさ」
賢は自慢げに言った。
その時ドアが開いて、鉄と匠が入ってきた。
「よう、説教されたのか?」
鉄がニヤニヤしながら近づいてくる。
「君と一緒にするな、説教なんてされちゃいない! 司令部から報告を受けただけだ」
賢は鉄が気に入らないようだ。
「おぼっちゃまはいいよな? 甘やかされて」
鉄は鼻で笑う。
「いいか! 君みたいな何も知らない馬鹿はタイムガードになんかなれないんだよ。自分勝手に突っ走るだけの脳なしが」
賢は鉄の目の前で怒鳴りつけた。
「い、いいすぎです……2人とももうすぐ、お、お別れ何ですから、な、仲良く!」
匠は慌てて2人を止めた。
「そうだな賢、こんな頭のかったい仕事はお前に似合う」
鉄は負けじと言った。
「お前なんかにタイムガードの凄さと貴重さ、分かんないだろ? お兄さんにも嫌われるわけだ」
賢は嫌味っぽく笑った。
だが鉄は何も言わなかった。
ただ賢をドンと押して、部屋の隅っこに座った。
「言いすぎだよ……」
私と匠は賢に囁いた。
と、またドアが開いて今度は心と真妃が入ってきた。
「このムード! さては何かあったね?」
心は嬉しそうだった。
「また喧嘩? もしかして鉄!」
真妃はサッと鉄を見た。
「こっち見るなよ!」
鉄は真妃に大声で言った。
「諸君、喧嘩はよくないな……もう二度と会えない人だっているかもしれないぞ!」
男が現れた。
「ここにいる全員が入学するとは限らん」
それを聞いて私たちは互いに顔を見合わせた。
「そう、ちゃんと顔覚えとけ! さて、全員ここに座れ!」
男は私たちを下に座らせた。
「よく聞け! 俺は、いや私は、たくさんの生徒を見てきた。実力を上げ今でも働き続けている者もいるし、卒業したのちやめた者、卒業せずに出ていった者。事故で死んだ者、仲間を亡くした者、敵に破れた者、裏切った者、裏切られた者、歩けなくなった者、動けなくなった者、自由を失った者、たくさんの利益を得た者、信頼され愛された者、憎まれた者、勇者とたたえられた者。たっくさんいた。犠牲者から英雄まで幅広く! 私の教え子が全員エリートというわけでもなく、道から外れた生徒もたくさんいた」
そこで少し黙った。
それからまた話し出す。
「だが……どんな生徒も初めは多少の純粋さと輝きを持っていた。期待に応えようと精一杯尽くしてくれる。でも残念な結果もある! 大事なことは人を守りたい気持ちを忘れないことだ。人を守ることが俺達の仕事であり最大の任務! それを忘れてはならん……」
そしてパッと鉄を見た。
「お兄さんが嫌いでも倒れていたら救いの手を差し伸べろ!」
次は賢を見た。
「周りを見つめ、上に立つのではなく、仲間と肩を並べて歩け!」
そして心。
「笑うばかりがいいこととは言えん。時には一緒に悔しがれ!」
そして私を見る。
「両親の偉大さを見つめ、その大切さを忘れるな!」
次に匠。
「堂々と立ち、堂々と自分の気持ちを口にしろ!」
最後に真妃。
「その人の悪いところだけを見ていても、何の得もない。たまには励ましたり褒めたりしろ!」
一つ一つの言葉が力強かった。
「人間は与えられた可能性や未来があり、時の流れは平等であり、道には障害物がある。知恵だけでは生きていけん! どんな能力があっても、そのうち押しつぶされるだろう! 人から守られ、人を守り、与えられた物を精いっぱい使い切ることこそが大事なことだ。タイムガードでなくとも、共通する、勇気を忘れるな! 希望と感謝を持ち続け歩き続けろ! 俺はお前らの今後の事は知らんが、お前らが望むなら手助けはするつもりだ。自信を持って中学を卒業してこい。新入生をここで待っている。なりたくなけりゃ、ならなくていい。賢く生きろ! 以上だ」
男は言い切ると笑顔になった。
「これで見学会を終了とする! 解散」
私は全員に別れを告げ、山田先生に連れられてT・Tに乗った。
「どうでしたか? 見学会は?」
私は笑顔でこう答えた。
「楽しかったですよ!」
私は家の前まで送られた。
「ご両親とよく話をしてください。私たちは学校で待っていますよ。我が校への進学期待しています! それでは失礼します」
先生は車に乗るとお辞儀をしてドアを閉めた。
私もお礼に頭を下げた。
車は遠くへと行ってしまった。
重い足取りで階段をのぼった。
両親がどんな顔で出迎えるのかは想像がつかない。
「ただいま〜」
私はドアを開け小さな声で言った。
すると……
「楽しかった?」
母が出てきた。
「え! うん」
私は少し動揺した。
母は黙って荷物を持ってくれた。
私は玄関に呆然として立っていた。
「早く上がって、夕飯の手伝いしてくれない?」
母は荷物を部屋に置いて戻ってくると優しく言った。
私は頷いて居間へ向かった。
居間には父がいた。
新聞で顔を隠し、私に気づいているようではあったが、声をかけてこない。
「あんた勉強しときなさいよ」
母は湯のみにお茶をいれた。
「勉強してて損はないんだから……これ父さんに持って行ってあげなさい」
母は湯のみを私に渡す。
私は父のいるテーブルに静かに持っていった。
「行くのか?」
いきなり父が言った。
「どこへ?」
私は聞き返す。
「育成校に行くのか?」
父の声はなんだか暗かった。
「そのつもりでは、いるけど」
顔が隠れた父をまっすぐ見つめて、私は言った。
「危険だぞ? 楽しいだけじゃない」
「知ってる」
「いや、おめぇにゃ分からん。分からせたくもねぇ」
「帰って来たばかりの子に、そんな事ばかり言ってないで、お帰りの一言ぐらいかけてあげたらどうなのよ! 心配してろくに仕事に集中できなかったくせに、偉そうに言うんじゃないの」
母が横から入ってきた。
父は腹が立ったのか、新聞を勢いよくたたみ、テーブルに叩きつけた。
「俺は寝るぞ!」
そう言って立ち上がると顔も見ずに部屋を出て行った。
「昼寝もほどほどにしなさいよ!」
母が大きな声で言った。
「2人とも反対してる?」
私は母に聞いてみた。
「反対だけど……あなたの意志がそうなら母さんは味方する! あたしたちの子供だから、絶対そういう意志を持つだろうって、内心思ってた」
母は意外な返事を返してきた。
「でもお父さんは……」
私は新聞を見つめた。
「そのうち、降参すると思う。自分に似たからしょうがないってね」
母は少し笑った。
「似てるの?」
「そうよ。でも父さんみたいな頑固者のバカはそれに薄々気づきつつも、素直になれないの」
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