第二十二章
賢がドサッとひざをついた。
呼吸を荒げている。
撃たれたのか……よく見えない。
『ドサ』
後ろにいた男が倒れた。
「た、助かった……」
賢のホッとした声が聞こえた。
私も心の底からホッとする。
「撃たれたのが、君じゃなくて本当に良かったです」
先生は腕を押えて言った。
「す、すいませんでした」
賢は棒を地面に落した。
「たしかに、もう少しで君は死んでいましたね。しかし、私も同じ事でした。君が途中で入ってこなかったら……」
五島先生はしゃがみこむと腰から包帯を取り出し腕に巻きつけた。
「先生腕の怪我、早く包帯を巻くだけではだめですよ」
賢は立ち上がった。
「ああ、帰ってから手当てするつもりですから」
先生はそう言って銃を腰にしまい込む。
私は急いで2人の所へ走った。
「大丈夫ですか?」
五島先生は驚いたようにこっちを見た。
「君まで、隠れていなさいと言いつけたにも関わらずここまで。これではタイムガードになれませんよ! 一番上の者の言うことをしっかりきかなければ」
「僕が悪いんですよ先生。みゆさんについてくるように言ったんですから」
賢が申し訳なさそうにする。
「それでも駄目ですよ! 君たちの行動は危険すぎます」
先生は立ち上がりきつく言った。
「すいません」
私と賢は同時に謝った。
「とにかく、私は助けられてしまいましたので説教を長々とするつもりはありません。賢君ありがとうございました」
賢は俯きながら
「こちらこそどうも」
と言った。
五島先生は丸い装置を3つ取り出し、3人の男に1人ずつ投げつけた。
するとたちまち網が飛び出して、男たちを閉じこめ縛り付けた。
私たちは林の方へと戻った。
先生は痛そうに腕を押えている。
「こちらタイムマシーン室。五島無事か?」
先生の胸元から声がした。
「こちら五島、無事任務完了。3人の男を捕まえましたが放置しています。武士どもに手をつけさせぬように安全装置も設定しておきました。私は腕を負傷しました。2人の生徒は無事です。どうぞ」
無線機に先生が応答する。
「了解! ただちにこっちへ向かってくれ。そこは危険だ! 時空クリーン隊が急行する」
ハキハキとした声が返ってくる。
「了解!」
先生は無線を切ると、着物を脱ぎ、普段着に戻った。
私たちも急いで脱ぐ。
「では、帰りましょうか」
先生は汗をかきながら少し微笑んだ。
「でもどうやって? マシーンはありませんし……」
と賢。
「今日来た場所にまだ時空空間が残っています。それをこっちに持ってくるんです」
先生はそう言うと、球体の装置を取り出した。
「これがその装置」
先生はそれについていたスイッチを押しいて、上空に投げた。
球体は空中でピタッと止まり、すごい速度で回り始めた。
「もうすぐです。少し下がってください」
私たちは2歩下がった。
その瞬間……
真上に透明な球体ができた。
「3566148」
先生は球体に向ってそう言った。
「なんですそれ?」
私は不思議に思い聞いた。
「これはタイムマシーンを呼び出す暗号ですよ。万が一のためですが」
『ウィーン』先生がちょうどいい終えた後に最初に乗ったあのタイムマシーンがゆっくりと降りてきた。
「さあ、帰りましょうか」
先生は汗をかいていた。
相当痛みを我慢しているようだ。
私たちは椅子に座り、いくつかの装置を装着すると、出発した。
ゆっくりと上昇し、また呼吸がしずらくなった。
と、思ったらまた急降下……
地上に降りたとき、隣に座っていた五島先生が気を失っている事に気づいた。
「早く、治療室に連れて行け!」
男の声がした。
先生は知らない人たちにより、どこかへ運ばれて行った。
私と賢は、装置を外すと帰ってきたことにホッとした。
「長旅、御苦労! 休憩室で体を落ち着かせなさい」
男は優しくそう言った。
休憩室とかかれたドアから、鉄と真妃、心と匠が出てきた。
「敵と戦ったって本当か?」
鉄は目の前に来ると言った。
「そんなことより、怪我とかないの? 五島先生腕を撃たれたんでしょ?」
と真妃は鉄を押しのけた。
「大丈夫、僕ら2人とも無事だ。先生は結構出血してたけど、今運ばれた」
賢が説明する。
「い、一体、な、何があったんです?」
匠の口調は戻っていた。
「柴崎ルームのお菓子、効き目切れだ」
心が呟いた。
「何か手違いがあったらしくて……」
と私。
「手違いって?」
すかさず鉄が聞く。
「間違えて危険区域に僕たちを送り込んだってことじゃないか?」
賢はさっきの急降下で乱れた髪をなでつけながら言った。
「敵の数は?」
真妃は心配そうにする。
「3人だった」
「て、敵も、こんな時にやりますね」
匠は眼鏡をクイッと上げる。
「匠君と鉄君、君たち準備をしなさい! 今から過去へ行くぞ」
「だ、大丈夫、な、なんでしょうか?」
匠は私たちの話を聞いたからに違いない嫌そうだ。
「安心したまえ! 今度は場所を変えておいた。さっきより100%安全だ」
「なら、決まりだぜ! 匠行くぞ」
鉄が匠を引っ張った。
と、そこへ山田先生が勢いよくドアを開けて現れた。
「どうやら問題があったようですね……隊長」
山田先生のサングラスはいつもと違い傾いている。
慌てていたのが明らかだ。
「ああ、司令部による手違いだよ! そう俺を睨むな山田」
男は苦笑いだ。
「睨んでませんよ隊長!」
山田先生はそう言って、タイムマシーンの椅子に座った。
「だが、あまり落着きがないように見えるぞ? 大丈夫か?」
「問題ありませんよ隊長。任務はこなします! ほら君たち」
先生は匠と鉄に手招きする。
「頼むぞ! 仕事に集中しろ……」
「もちろんです」
俯きかげんで先生は言うと匠と鉄に準備をさせる。
「何回も言うが、五島の事は心配ない。もう過去の恐怖心は忘れろ! もし何かあれば……」
「隊長! もう充分です。私は先輩とは違います……。恐れなど振り切っている」
山田先生は力強く言ったが、私たちには何の事なのかさっぱりだった。
「そうか……そうだな」
男は頷くと3人をタイムマシーンで過去へと見送った。
その後、私と賢は休む間もなく、教頭に呼ばれた。
教頭は私たちを狭い部屋へと連れて来た。
「2人ともそこに座って」
教頭は険しい表情で置かれているソファーに座らせた。
教頭は近くにあった机の椅子を引いて座る。
まるで校長室だ。
「諸君! 大変なめに合わせてしまったことを深く謝っておく」
教頭は立ち上がると頭を下げた。
「でも先生の誤りではないと聞きました」
賢は言った。
教頭は顔をあげて、表情を曇らせた。
「まあ、司令部のほうで手違いがあったのは確かですが、責任者は私ですから」
私たちは黙った。
教頭は「すまない」と呟き椅子に座りなおした。
「君たちのご両親にも連絡した。それがこちら側としての義務でもあったからです。君たち2人ともご両親は激怒していた」
教頭はだいぶ疲れた様子だった。
うちの親が激怒するとはあまり思ってなかった。
謝り続ける教頭を想像すると、気の毒に思った。
「君たちが助かって本当に良かった。我が校は、これまでに命を失った生徒が何人もいる。それが現状だ。タイムガードとは危険な仕事だ。普通じゃない……。君たちが今後どのようにするかは君たち自身が決めることだが、入学を希望しているならこの仕事の貴重さと重みを分かっている上で、入学してほしいと思っている」
教頭は机の上をみつめながら言った。
すると『プルルル』と机に置かれた電話が鳴った。
「こんな時に」
教頭は呟き受話器を耳に当てた。
「はいこちら教頭室です。こ、校長! いつお帰りに? はぁ、なるほど。はい……わかりました」
教頭は受話器を下ろした。
そしてパソコンを引き出しから出すと机に置いた。
「校長からもお話があるそうですので」
教頭は画面をこちらに向けた。
しかし画面は青色で特に変化はない。
「もしも〜し♪ 聞こえますかねぇ教頭?」
声だけがパソコンから聴こえた。
教頭は眉間にしわを寄せる。
「相変わらずですね校長! たまには普通にしてください。今回は深刻ですよ。我々大人の手違いでこの子たちが……」
教頭は眉間にしわを寄せる。
「分かってますよ教頭! 4代目校長です。ちゃんと連絡は受けています!」
この声は2日目の迷路で聴いたことがあった。
そういえば校長は少し変わり者の女だったのだ。
「では、しっかりお願いしますよ」
教頭は小さくため息をついた。
「了解です! 賢君、それからみゆさん、今日は本当にごめんなさい。教頭に続き責任者の私からも深くお詫び申し上げます」
いきなり校長の口調が変わった。
私と賢はお互いに顔を見合せた。
どう反応していいか分からない……。
「ところで校長、先ほど司令部から連絡が入りました」
教頭は咳払いをした後言った。
「え? なんで私に連絡がないのかしらねぇ。それでなんと?」
校長は迷惑そうだ。
「はい、この子たちの推薦入学許可を取り消せとのこと……」
教頭は言いにくそうにこちらを見た。
「なるほど、嫌な連中だこと」
校長は迷いもなく本音を言った。
「どうするんです?」
と教頭。
「ちょっと、待ってください! 僕たち入学できないんですか? ち、父上は? 僕の父は司令部Aの総監督です。父が許すわけが……」
賢が慌てて立ちあがった。
私もそれに続いた。
「どうしてです?」
「答えは簡単だ。君たちは上の者の命令を無視し、敵に自ら立ち向かっていった。自殺行為、そして未来も危うく変わるとこだった。そんな子供を2人入学させれば、被害者が出るという可能性を考えての事だろう……。いかにも司令部らしい。それに賢君、君の父上は大賛成したそうだ。息子を危険なめに合わせるくらいならと」
教頭は当然とばかりだ。
「それだけじゃない! あなたの父親が反対したところで結果は変わらなかった。最後に責任取るのは自分たちだからって。慎重すぎて逆に考え方が不十分! 全くそんなんじゃタイムガードは成り立たない。この仕事の厳しさと貴重さを学ばせるのが、我が校、タイムガード育成校だというのに」
校長、深いため息をつく。
「そうですよ! 第一僕たちは被害者だ。どうして司令部の誤りを僕らのせいにされなきゃならないんですか? 危険なことだなんて! タイムマシーンに乗る時点で危険じゃないですか」
賢は許せないとばかりに声を張り上げた。
「しかし、司令部は決定した」
教頭は仕方のないことだという表情だ。
「そんな事許されませんよ。こっちは命を失いかけたんです」
私ももちろん許せない。
せっかくのチャンス……
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