第二十一章
「ここが都です。かがんでくださいね」
私たちは林の中に潜みながら、江戸時代の都を見ていた。
武士や商人たちが慌ただしく動いている様子を眺め、改めて過去に来たことを実感する。
「この時代は、身分ごとに異なった生活をしていました。少数である武士が民衆を支配する身分であり、武士の中でも細かく身分は決まっています。それらは役職や住居、衣類が決まられていました。民衆もまた、住む場所によって百姓や町人の身分に分けられていますが、それとは別に、えた・ひにんという低い身分もいました。それらの人々は大変さまざまな差別を受けていたのです。また、身分の上下関係が厳しいなかで女性の地位は男性よりも低いとされてもいました。これもまた差別です。身分の低い人たちは他の身分との交際も厳しく制限されています」
と五島先生は説明する。
私と賢は道を歩く人々の格好を観察しながら、学校の教科書で出てくる身分制度を思い出していた。
「今の世の中、差別が完全にないとは言い切れませんが、少なくとも江戸時代の身分制度のような厳しい物はないんです。そう思うと現代に感謝すべきであると考えが持てます」
先生は最もなことを言った。
「さて、もう少し間近に行きましょうか」
「でも危険なんですよね?」
と私。
「いえ、これがあります」
先生はいつの間にか両手に黒い袋を3袋持っていた。
「なんですかそれ?」
「何って……服です」
先生は袋から着物を取り出した。
「あるなら早く出してくださいよ」
賢はあきれ顔で言った。
「恥ずかしながら、どこに入れたか忘れてまして」
先生は苦笑いした。
私たちはカツラをつけて着物を着た。
ものすごく動きずらい格好だ。
「もっといい物なかったんですか?」
金持ちの息子だけある、見た瞬間に言った。
「すいません。これぐらいじゃなくては目立ってしまいますし、それに昔の服です。丈夫な質の物はそうある物では」
先生は少し困った。
「いや、丈夫なものぐらいあるはずですよ!」
賢は汚らしそうに袖を見つめている。
「そこは我慢を……」
先生はそう言って頭を下げた。
賢は髪型を異常に気にしていた。
休むことなく片手で頭を触り、「気持ちが悪い」などとぼやいた。
「さあ、歩きましょうか」
先生は笑顔でそう言うと私たちの先頭に立ち、都を歩き始めた。
「だんな〜、うちで一杯どうじゃ?」
愛想のよい男が店から出てきた。
「遠慮しておこう」
先生も微笑んで手を振った。
「お前さんら、どこぞの者じゃ?」
身分が高そうな者が歩み寄ってきた。
「怪しい者ではございませぬ。急用で知人に呼ばれていまして、旅の途中であります。この辺の宿でもお借りしようかと……」
先生は落ち着いた口調でたんたんといった。
「そうかそうか、怪しむのも仕方のない事なのじゃ。最近盗人がうろついていると聞いておる。用心せねば」
そう言ってどこかへと行ってしまった。
「あの人は?」
賢が小声で聞く。
「身分的には高い方でしょう。都には、天皇も住んでいます。この辺一帯に身分が高い人々はすんでいると思われます」
先生も小声で答えた。
と『ピピピピピ』近くで音がした。
「な、なんてことだ!!」
先生はとても驚いた表情だ。
「どういうことですか?」
私は先生の慌てた姿に戸惑った。
「2人とも戻ってください!」
先生は胸元から四角い装置を取り出した。
「どういうことなのか説明していただけますか?」
賢は顔をしかめて言った。
「手違いが起きたようです……」
先生は装置のスイッチを切った。
音は止まった。
「手違い?」
私たちは同時に聞く。
「はい、敵がこの近くに! 危険です。腰を低くして急いで林の方へ戻ってください」
先生は腰から長く太い銃を取り出した。
「僕たちも戦います!」
と賢。
「何を言ってるんです? そんな事は許されません!」
先生はそう言うと銃を肩にかけて、また腰からスイッチだらけの装置を取り出した。
「敵はどこにいるんですか?」
私は周りを見渡した。
「それは私にも分かりませんが……、いいから腰を低くして林の陰へ!」
先生は装置のスイッチを5ヶ所ほど押す。
『ピー』と音がして、装置のモニターに緑の点々が何ヵ所も映り、赤い点々が3か所ほど映っていた。
「急ぎなさい!」
先生は怒鳴りつけると、手首に取り付けてある緊急時装置の赤いボタンを押した。
「こちら五島、隊長応答願います」
あの部屋に繋がる無線だ。
「こちらタイムマシーン室、どうかしたか?」
隊長の声がした。
「何かの手違いでしょうか? 近くに時空犯罪組織が潜んでいるようです」
先生は見渡しながら言った。
「何!? そんなはずは!」
隊長は驚いていた。
「出来る限り、抑え込むつもりです」
先生はそう言うと私たちの背中を思いっきり押した。
「急いで!」
私たちはかがみながら走った。
賢は少し迷いながらも走る。
林の陰に隠れると先生は武士たちに囲まれていた。
怪しいと思われるのももはや仕方がない。
先生の持っている銃は、どう見てもこの時代の人に不信感を与える。
先生は腰から別の小さい銃を取り出すと早業で囲んでいる全員を撃った。
私が驚いていると賢が横から小さな声で説明した。
「麻酔だよきっと……」
何人かが慌てて家の中へ逃げ込んだ。
先生はそれを確認し小さい銃をしまうと、大きな銃をかまえ走り出した。
「よし、追おう!」
賢はそう言って腰を低くしながら林を出た。
「ちょっと! どこ行くの?」
私は慌てて賢の腕をつかんだ。
「追うんだよ! このままじっと待っておくのは僕は嫌だからね」
賢はそう言うと走った。
「待ってって」
私も慌てて追っかけた。
銃声がきこえて、賢が建物の裏にかがんだ。
私もその後ろにかがむ。
そーっと銃声のきこえる方を見た。
先生が3人の銃を持った男たちと銃を撃ち合っている。
「これが……タイムガードかぁ」
賢が目を輝かせて言った。
先生は敵の視覚に入らないところを探しながら、逃げ回り始めた。
「先生、大丈夫かなぁ」
私は心配になってきた。
先生は敵の足に一発弾を命中させた。
賢と私は思わず力が入る。
先生は建物の陰にサッと隠れると弾を補充した。
その間に2人の男が先生に近づいた。
先生は建物の蔭から自ら飛び出すと、また銃撃戦が始まった。
「やっぱり3対1は無理があるみたいだ」
賢の表情は険しかった。
私も緊張しながら先生の様子を見守った。
足を撃たれた男は引きずりながらも先生を狙っていた。
先生が息を切らしながら走った時、足を撃たれた男は先生の腕に向けて発砲した。
私は思わず目をつぶる。
しかし先生の低いうめき声はしっかりと聞こえた。
先生は腕を押えて、血を流しながらも麻酔銃を取り出して男に発砲した。
男はうめき声を上げて手から銃を放した。
残り2人は容赦なく先生に発砲する。
「このままじゃ……確実にやられる」
賢はそう言って立ち上がった。
「何する気?」
私は賢が何をしようとしているのか大体分かった。
「僕は、父上と約束した。必ず正義は守る」
少しイラッとくるようなセリフを吐くと、賢は走り出した。
止めようにもすごいスピードだった。
先生は何とか逃げ回っているようだ。
しかし腕の痛みで、呼吸がかなり荒くなっていた。
もう1人の男が先生に撃たれた。
これで1対1に……賢はどこへ?
先生は腕の痛みに耐えながら、もう1人に銃を向ける。
が、さっき倒れた男は先生に銃を構えている。
先生は気づいていないようだ!
危ない!
「先生避けて!!」
私は思わず叫ぶ。
だけど先生には聞こえていなかった。
もうだめだ……。
「この野郎!」
『ガコン』
賢の声が響いた。
賢は太い棒を片手に立っている。
地面には気を失った男がいた。
助かった……と思った瞬間だ。
後ろに最後の1人が現れた。
賢に銃をパッと向ける。
『バーン』
「くそ!」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この話も21話に突入しました。長々と書いていますので読者の方には読みずらいものかもしれません。すいませんm(_ _)m これからもまだまだ続きますがじっくり読んでいただけると嬉しいです。
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