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第十九章

「俺の透視能力はまだまだみじくなんだけど……熊の怪力ときたら2年でさえ首をひっこめる」


拓先輩は自慢げに語り、熊先輩の肩をパンパン叩いた。


私はそんな話を聞きながら、ふと周りの様子を観察した。


後ろにはジュースを飲みながら、熱心に勉強している3年生がいたが、果たしてこんなにぎやかな所で集中できるのだろうか。


右隣りにはヒソヒソと語り合う2人組、左隣りには生徒ではない大人の男性2人が真剣に話し合っている。


「ここには生徒以外にもきたりするんですね」


私が熊先輩に小声でそう言った。


「ああ、先生たちが来たりするんだ……」


熊先輩も小声で私の問いを返した。


「あれ? 匠君なんか変」


心がいきなりそう言いだした。


「そうですか?」


匠は自分で驚いていた。


「ホントだ! お前噛んでないぞ」


鉄は面白い物を見るように言った。


「なるほど、柴崎ルームの物の力はすごいなぁ」


拓先輩はフフフと笑う。


私も笑いながらなぜか左隣りを気にした。


時々聞こえる声がどうもどこかで聞いたような……もしかして……


そう思い私は「お手洗いいってきます」とみんなに告げ席を立つと、2人の男性の前をゆっくり通った。


「そうなんですよ、あの事件の話題を何度も持ち込んでは私に頭を下げてきました」


とサングラスをかけた男が言った。


「では気は変わらないのですか? ということは彼女自身が向き合って話をつけなければ説得は不可能か……」


もう1人の男はため息交じりで言った。


サングラス……最初にしゃべった男は確実に見たこと話したことがある。


そうあの人しかいない


「あの! お話し中失礼ですが……山田さんですよね?」


私は確信をもった瞬間にそう話しかけていた。


山田教諭、私をここまで案内した男その人に違いない。


「みゆさんじゃないですか! またお会いできて嬉しいですよ。山田です」


サングラス男は立ち上がり丁寧に頭を下げた。


「どうしてここに?」


私が聞くと


「何をおっしゃいますか? 私はここの教員ですよ」


山田教諭は当然とばかりだ。


「あ! そうでしたね」


私はそのことはすっかり忘れていた。


「どうです? すばらしい学校でしょう? 満喫していただいていますか?」


相変わらず落ち着いてしっかりした口調だ。


「はい楽しんでますよ」


私は正直に答えた。


「そうですか……それはよかった。お話し中失礼ですが、こちらにお座りの方は五島さんです。彼もまた教員であります。あなたに紹介をしておこうと思いまして、じきご入学していただくご予定ですので教員の顔と名前、ぜひとも覚えていただきたい」


山田教諭がそう言うと五島さんという男が立ち上がった。


「私は五島といいます。どうぞよろしくお願いします。私は時空クリーン隊を育成する教員です。みゆさんのご入学をお待ちしておりますゆえ、私に気軽にお話下さい。私の事は五島先生で結構ですので」


五島先生は顔の奇麗な若い先生だ。


「彼は私より3つ下ではありますが、有能な先生です。私の事も山田先生で結構ですよ。最初の段階で言っておくべきでしたが。改めて自己紹介させていただきますと、私は時空取締りタイムスパイという部隊の育成を担当する者です。今後よろしくお願いします」


山田先生はまた頭を下げた。


「先生たち堅い挨拶だな」


拓先輩が隣の席で笑った。


「拓君、明日はテストですが大丈夫ですか?」


山田先生はコーヒーらしき飲み物を口へ運ぶ。


「こいつは勉強したって同じです」


熊先輩は横目で拓先輩を見ながら言った。


「それもそうだな」


五島先生も頷く。


「勝手に言ってろ! 熊、お前なんかより点数取るぞ」


拓先輩は胸を張って言った。


「そうかい? 無理だね」


熊先輩は余裕の表情だった。




柴崎ルームを後にした私たちは先輩たちにお礼を言うと部屋に戻った。


私は今日を振り返り、走ってばかりだったとため息をついた。


明日で見学会も終わりだ。


両親の事もあるし、今日以上に明日は大変だろう。


風呂も食事も済ませた私は疲れていたので、すぐに布団にもぐると泥のような眠りに落ちた。




(翌朝)


「今日は最終日かぁ……」


そう呟き部屋をでた。


「みゆさん、おはようございます」


なぜか昨日から匠は噛まなくなっていた。


「あ、おはよう」


変な感じがしたがとりあえず挨拶はした。


他の4人は食堂でもう朝食をとっている。


「おそらく、僕の予想では今日は確実に過去へ行ける」


賢は確信をもった表情で言っていた。


「そうかなぁ、微妙な感じがする……」


心は相変わらず食い意地が張っていた。


皿には果物から肉から野菜からが、大量にのっている。


「ふぁ〜、眠い眠い。今日が最終日かぁ」


鉄は伸びをした。


みんなは聞こえてはいたものの黙っていた。



「私は、五島と言います。時空クリーン隊教育担当の教員です。今日はよろしくお願いします」


最終日の今日は昨日会った五島先生だ。


「今日は私についてきてください」


五島先生はそう言って私たちをある所へと案内する。


「ここである人と合流しなければならないのですが……」


五島先生は腕時計を確認していた。



……とそこへ


「すまん、遅れた」


目元に深い傷のある男が現れた。


「ああ、隊長! よかった間に合いましたね」


五島先生はホッとしたようだ。


「やあ、君たち。2日間とも充実していたかい?」


そうあの男だ。


「あなたは、一昨日の夜にお会いした!」


匠が最初に声に出した。


「その通り、覚えていたね? 君たちの安全を守る役割を果たされているんだ。今日ばかりは重要な仕事も抜け出してきた」


男は微笑むがなんとも無気味であった。


鉄は疑わしげに男をみた。


「隊長ってどういうことですか?」


真妃が問いかける。


「ああ、彼は偉大な人ですよ。何十年もタイムーガード隊の隊長を仕切っているんです。でも教員ではないんですよ残念ですが」


と五島先生。


「何言ってるんだ? 俺が教員だったらいい迷惑だろ? 生徒はこの顔で全員逃げてくぞ」


男はクククと笑う。


「そうでしょうか? あなたは最高の隊長ですよ」


尊敬のまなざしで五島先生は男を見つめていた。


「それで、名前は教えてくれないのか?」


鉄は相変わらず口が悪い。


「ハハハ、お前そんなに私の名が知りたいか?」


男はニヤッとして鉄を見つめた。


「ああ」


鉄は冷たく頷く。


「それよりも今日は重大な事をする。それも危険で普通はできないことだ。私の名前なんか気にしないで、そっちに集中するんだな、ぼうず」


五島先生がゴホンと咳払いをした。


「隊長のおっしゃる通りです。我々は用心せねばなりません。気を抜けば大変なことです。私たち指導者の言うことをよく聞き、行動を正しく取ってください。ではいきましょう」


五島先生は背筋を伸ばしてそう言うと先頭をきって歩いた。



私たちは頑丈な扉をいくつも通り抜け、不思議な部屋へやってきた。


「ここで3年生の最終実技試験が行われる。実際に過去にいき、経験を生かして任務を遂行する。失敗は許されない!」


男はそう説明した。


五島先生は中央にある大きな装置の所まで走った。


「あれは?」


賢がとっさに聞いた。


「ああ、あれか。何だと思う?」


「あれは、間違いなくタイムマシーンでしょう!」


匠が興奮して声を上げた。


「やった〜、早く乗らせてよ」


心も続けて興奮する。


「まあ、そう慌てずに……説明を聞いてから乗れるさ」


と男はにこやかに言う。


「大丈夫なのか?」


鉄は意外に不満げだった。


「少しは信用しなさいよ。過去に行けるチャンスが手元にあるのに」


真妃は小声で鉄に言った。


「うるさいな〜、だからこそ信じられないんだ。だって時空を飛ぶんだぜ?」


鉄は信じられないとばかりに首を振った。


「それも今からいよいよ明らかになることじゃない?」


私も少し信じていない部分があった。


「そうだよ馬鹿、嘘だと思うならこの目で確かめればいいんだよ」


賢が冷めた目で鉄を見た。


「はいはいそうですか、楽しみだよホント」


鉄は賢をにらんだ。


「見学生のみなさんこちらへどうぞ。近くへ来てこの実物を見てください」


五島先生が手招きをする。


私たちはタイムマシーンの目の前へとやってきた。


「君たちは今実物を見ているんだ」


男が私たちのリアクションを待っている。


「僕の想像とははるかに違ったよ」


心は嬉しそうだ。


「こんなに複雑な部品が取り付けられているんですね」


匠は眼鏡をしきりにあげている。


「こんなのそうそう見れるもんじゃない!」


賢も感動している。


「すげぇなぁ」


と鉄も素直に驚いていた。


真妃は小声で「すごい」とだけ言ったがみんなに聞こえていた。


私はというと声に出さずただ感激していた。


「まだ、触らないで下さいね。説明を行いますので少し待ってください」


五島先生は私たちがドンドン前に進んだので、それを手で制した。


「早く早く」


心は我慢ならない様子だ。


「え〜、今からあなた方を実際に過去へと連れて行くつもりですが、過去へ行くということは、あなたたちの想像しきれない大きなことです。それは一つ間違えば死にいたる危険な行為でもあります。簡単に考えてはいけません。浮かれすぎて行動力を失ってはならないのです。問題が起きてしまってからでは遅いのです。あなただけでなくこの世界の何万人の人を死に至らしめることだってありうることです。いいですか? 他人を巻き込まないよう注意をはらってください。」


五島先生は熱心な表情で言った。


全員に緊張が走った。


「さて、早速説明に入る。タイムマシーンは普通3人しか乗ることができない。1台のタイムマシーンに乗れる点員数は3人であるということ。そしてここには1台しかない。ということはどういうことかね、みゆさん?」


男は真面目な表情で問う。


「えっと……3人しか乗れない」


「その通り、ただし1度に3人は無理ということだ。君たち全員に体験してもらわなければならないのだが、3組に分けなければならん。つまり2人づつだ。私と五島先生のどちらかがその2人に付いて一緒に時空を飛ぶ。注意事項としては勝手な行動はとらないこと。我々のその時その時に応じた指示に従うことだ。ここまでいいかね?」


私たちは頷いた。


「では3組に分けましょうか」


と五島先生。


タイムマシーンは私の想像とは異なっていた。


三脚の椅子が何本ものコードにつながれて並べられ、ピカピカと点滅する頑丈そうな台の上にのっていた。


コードのいくつかは隣にあった四角いボタンだらけの装置につながれている。


また違うコードは大きなレバーにつながれている。


さらに別のコードは上へと伸びている。


上には透明なパイプが設置されていて、見上げると天井を突き破り、はるか上の空に通じていた。


実物を見ている私たちはまだ信じられない気持でいっぱいだ。


これから過去へと飛ぶとなると緊張してならない……。


不安と緊張とわくわく感に包まれた見学生全員、さて何が待ち受けているのか……。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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