第十八章
私は壁に背中をピッタリくっつけて。
息を切らしながら身を潜めていた。
遠くから『パンパン』音が聞こえている。
それでもいつ来るか分からないため銃はしっかり握っていた。
しかし……
弾が私の目の前に映り、パッと右を向くと鉄が立っていた。
「悪いけど、俺こういうの負けたくなくてな」
真剣な表情で銃を構えている。
「負けず嫌いは同じくらいかもね」
私も銃を向けていた。
「もし、俺が今撃ってお前に当たれば、こっちの勝ちだぜ」
鉄はニヤッと笑う。
「でも私が避けたら?」
私は自信があった。
「俺は必ず当てる!」
鉄は宣言した。
そして私に発砲。
私はそれをなぜか余裕で避けて、素早く鉄を撃った。
鉄も軽々避けた。
「タイムガードの訓練っていつもこうなのか?」
鉄は疲れたとばかりだ。
「だとしたら1年もつか分からないね」
そう言って鉄がまた撃つが私も軽々と避けた。
いくら撃ち合ってもきりがなく、だんだんと疲労がたまる。
「ここにいましたね」
匠が現れて鉄に銃を向けた。
「僕たちは後1発です。手加減するようなことはしません」
匠の手は震えていた。
「じゃあやってみてくれよ」
鉄は挑発した。
匠が撃つがそれを鉄は簡単に避けた。
匠は悔しそうに何発も撃つ。
しかし現れた賢が匠を吹っ飛ばした。
「賢君、あいてしてやるよ」
今度は心が現れ、賢と心は撃ち合いになる。
私は体制も取り戻し、油断した鉄を撃つ。
「くっそ〜」
鉄は右肩に弾が当たり尻もちをつく。
銃を構え、私はゆっくりと後ろに下がった。
鉄は立ち上がり銃をこちらに向けた。
「下がってどうする? 俺はいつでも撃てるぜ」
私はジリジリ下がる。
「どういうつもりだよ」
私はまた下がった。
「撃たないの?」
私の挑発に鉄は何も考えずのった。
「おお! お前が準備OKならな」
鉄が発砲した……が、私はそれを避け、心が鉄に向って銃を撃つ。
『パン』
鉄は弾が来たのをすぐに避けたが、私がすばやく鉄に銃を構えた。
「俺は……そんなに単純じゃねぇ」
しかしバランスの悪い体制にも関わらず、鉄は勢いよくジャンプした。
「わりぃ!」
私は鉄が撃った弾に当たり、吹っ飛ぶ。
私が倒れた直後、『ピッピー』
「ゲーム終了! えっと、何色だったけな? まあいいや、鉄チームの勝利」
大山さんはいつの間にか笛を首にかけて、私たちの前に立っていた。
「ハハハハハ、俺がうわてだぜみゆ!」
鉄は笑う。
私は悔しかったので黙っていた。
「あ〜あ、鉄君みゆちゃん相手に手加減なし?」
と心。
「こういう時は手加減する方が失礼だろ? だいたい学校側が俺たちを試すためにやらせているんだ」
鉄は腕組みをした。
「ま、負けは、まけ……ですね」
匠は悲しそうに呟いた。
「なんか、疲れっちゃった」
真妃はため息をつく。
「そうだ、僕銃撃戦の最中に思ったんだが……匠君は闘っている間は全く言葉を噛んでいなかったようだけど」
賢は匠に向って言う。
「あ! 言われてみれば……」
全員が匠に注目した。
「あ〜、はい、よ、よく、分からないんですが、ぼ、僕、しゅ、集中しますと、ああ、なるようなんです」
匠は恥ずかしそうに小声で言った。
「いいじゃないか、集中していたということだしな」
大山さんが満足そうにうなずいた。
「さてさて、今日はいろいろ疲れただろう?」
全員がぐったり頷いた。
「部屋に帰って寝るもよし、校内を散歩してみるのもいいし……1年生はたしか、この時間は暇なんじゃないか? まあ明日テストだから部屋に帰らないといけないが、君たちが来ている事もあって先生たちも目をつぶってくれているはずさ! だけど静かにな」
大山さんはそう言って私たちを解散させた。
「よう、みゆ! 俺たち今から柴崎ルーム行くんだけど行かねえか?」
と声をかけてきたのは拓先輩だった。
「柴崎ルーム? なんですかそれ?」
「俺達1年生は休みの日や暇な日はほとんどそこへ行くんだ」
「柴崎ルーム? 名前が変っすね」
鉄が会話に入ってきた。
「ああ、お前も誘おうと思ってたんだよ!」
拓先輩は鉄を見てにっこり微笑む。
「先輩ぶって道案内もいいけど、明日テストなのよ。あんた大丈夫なの?」
静香先輩は拓先輩の頭を軽く叩く。
「なんだよ! 勉強は昨日徹夜でしたよ。今日は息抜きさ」
拓先輩は伸びをして見せた。
「拓、今日は柴崎先生不機嫌らしいぞ」
熊先輩が背後にヌッと現れた。
「ああ、聞いたよ。あの人もよく災難にあうもんだな」
拓先輩は全くと呟く。
「とにかく忠告はしておきましたから……あたしは部屋に帰って勉強します! あんたたちに付き合ってたら最終試験に合格できないもの」
静香は呆れて立ち去った。
「くそ真面目なんだからよ!」
拓先輩は静香先輩を顎で指すと苦い顔をした。
「あの……僕もいいですか?」
匠はいきなり隣に現れた。
「おお、いいぞ! 他の奴らも全員いくか?」
拓先輩が後ろで話をしていた賢と真妃に向って言った。
「僕は少し用事がありますので、先輩方にはせっかく誘っていただいたのですが、ここで失礼させてもらい……」
「ああいいって、そんな固い断り方しなくてさ。行って来いよ、今度お前も連れてってやるから」
と拓先輩。
「私は疲れたので部屋に戻ります。すいません」
真妃は軽く頭を下げた。
「おつかれさま」
熊先輩はそう声をかけた。
真妃がいなくなると、今度は心がヒョコンと柱から顔を出した。
「せ、先輩……僕を、誘ってくれませんでしたね」
心は恐ろしい顔で拓先輩を睨んだ。
「違うんだ!! 俺さぁ、全員の事把握してないもんだから、ほらお前のことを……」
拓先輩は慌てて言った。
「ひどすぎます! きっと素晴らしい所なんでしょうね、何とかルーム! 僕も行きたかったのに〜」
心の笑顔はもはやその顔から消えていた。
「最初から連れていくつもりだったんだよ、黙ってついてこい」
拓先輩は私たちを連れてエスカレータを使い、下へ下へと下りて行った。
「柴崎ルームって?」
私が尋ねると拓先輩はフフフと笑う。
「拓はじれったいから説明してあげようか?」
と熊先輩は素早く声をかけた。
「そうしてください」
鉄は拓先輩をあきれ顔で見てから言った。
「じれったいとは何だ?」
そんな先輩を無視して、熊先輩は口を開いた。
「柴崎ルームってのは、その名の通り柴崎っていう先生の部屋の事! 柴崎先生は僕らが普段食べている食堂や売店の料理長であり、調理部のこもんを担当する裏方の先生なんだ。柴崎先生は僕らに息抜きの場を与えるために、自分の部屋に店を開いた。他の先生はそんなものいらないって反対したんだ。そんな設備はとっくに整っているからね」
「しかし! 柴崎先生はちょいと変わった先生でね……それはそれ、これはこれなんて言って店開いたわけ」
拓先輩が熊先輩に負けじと言った。
「店って……お、お金が、ひ、必要なのでは?」
匠は不安そうに言った。
「そこがまたあの先生も考えたもんだよなぁ」
拓先輩は頷く。
「どんな考えっすか?」
鉄は興味しんしんだ。
「ポイント制作戦だ」
「なんですかそれ?」
私たちは同時に聞き返す。
「先生達が授業中にポイントを付けるようにしたんだ。上手くできたり、よい行いをすればポイントをもらえる。逆に居眠りしていたり、授業妨害するとマイナスポイントになる」
と熊先輩。
「そのポイントによって柴崎ルームの物が買えるんだ。だからだいぶみんなが集中するようになって成績が上がったし、学校側としても効率が良くなったんだ」
と拓先輩。
「じゃあ、ポイントのない私たちは?」
「ああ、心配いらないよ。君たちは見学生だろ? 柴崎先生はポイントなかろうがくれるはずだ」
「先輩、売ってるものってなんですか?」
心が聞く。
「それは見てのお楽しみってわけさ」
拓先輩は私たちを話し声の聞こえる廊下へと案内した。
楽しそうな話し声や笑い声の聞こえる扉を開ける。
「いらっしゃい」
中年の男の声が聞こえた。
「柴崎先生、見学生を連れてきました」
拓先輩は周りの声に負けじと声を張り上げた。
「ほほ〜う、良かったな後輩ができて」
コップを拭いて立っているその男は若いとも年とも言えない。
柴崎ルームは入口から甘いにおいが漂っていた。
天井には袋に包まれたグミっぽいのがぶら下がり、部屋の隅々には棚が置かれ、透明な引き出しは何種類ものお菓子が入っている。
中央には椅子とテーブルが置かれ、何人かの生徒や見たことのない大人たちが座って、何かを口に入れながらガヤガヤと語り合っていた。
「今日のオススメは?」
拓先輩は柴崎先生に1番近い席に座った。
「オススメ? 自分で食べたい物食べなさい」
柴崎先生はそっけなく言った。
「見学生たちは……タダですよね?」
と熊先輩。
「お前たちがおごってやったらどうだ?」
と柴崎先生は拓先輩の顔を見て言った。
「なんなら、俺達がおごってやってもいいけど」
しかし、私たちの背後からそんな声がした。
「いたんですか? 先輩方」
拓先輩が言った先には、金髪の和先輩がいた。
「拓! 俺の弟たちを犬のように連れまわしてんのか? 成績悪いくせになぁ、ポイントないんだろ?」
「黙れ! 俺は兄貴なんかいない」
鉄が一歩前に出た。
「お前みたいなチビとつまらん言い合いなんかするつもりないぞ!」
和先輩は怒鳴った。
そして部屋全体が静まる。
「和と拓と見学生! 他の客に迷惑だ、喧嘩なら外でやってくれ」
柴崎先生は鉄と和先輩の間に入った。
「先生、喧嘩じゃないです。見学生におごろうと思いまして」
和先輩は拓先輩をにらみながら言った。
「その事ならもういい、先生がサービスするから」
柴崎先生は落ち着いた口調だ。
「そうですか……明日テストなので俺らは帰ります」
和先輩は2、3人の仲間を連れて出て行った。
「気にするなよ鉄、いつも俺と和先輩は会うたびに言い合ってる。その中にお前が入ってくる必要はない。鉄のせいで喧嘩してるわけじゃないんだ」
拓先輩は顔をしかめている鉄に優しく言った。
「俺も個人的にあいつにむかついてるだけです」
鉄は愛想もなく呟いた。
「そうか……柴崎先生! 柴崎小ビール下さい」
拓先輩いきなりそんな注文をした。
「柴崎小ビールだね? 了解」
柴崎先生は頷いてカウンターの方へ向かった。
「柴崎小ビール?」
心が興味しんしんで聞く。
「柴崎先生が作った、子供用のビールだよ」
熊先輩が説明する。
「あれを飲むとムカムカした気分がスカッとするんだ」
拓先輩がにこやかに言う。
「じゃ、じゃあ僕も、い、いただきます」
匠は思い切ったようだ。
「了解! じゃあどうせだから全員で」
拓先輩は満足そうにうなずき
「柴崎先生、それと同じもの俺達全員分で……」
「はい了解」
柴崎小ビールのうまさは口では説明ができない。
そのあと出てきた次々のお菓子も今まで食べたことのない味だった。
全てに柴崎●●と名前が付いており、全部先生が発明した食べ物らしい。
柴崎ルームという名前だけでも変だが、この店はどんな店より変わっているといえる。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
更新大変遅れました!
すいません……




