第十六章
「では昼食をとりましょうか」
大山さんに連れられて、私たちは食堂へ行く。
食堂には朝食の時とは違い、生徒たちがわいわいと座ってにぎやかに昼食をとっている。
特別な生徒だけの学校……それを改めて実感させられた。
その人数は普通の学校でいう1クラス。
これが全校生徒だと考えるとこれだけ広い校内をもったいなく感じた。
「さあ、先輩たちもいるからコミュニケーションうまくとって入学準備だ! 分からないことや迷っていることがあるのなら、誰よりも先輩に聞いたほうがいいぞ」
大山さんはそう言って、どこかへ行ってしまった。
「おお! 来たか来たか、待ってたぜ新入生」
目の前にヒョコッと現れたのは、どこかで会った人だ。
えっと……
「あ! あの時の先輩か? 俺達まだ入学してませんよ」
鉄はすぐに思い出したようだ。
「おいおい、先輩にその口のきき方はよせ。俺は拓っていうんだ。えっと、さっきぶつかって悪かったな」
拓先輩が私の顔を見て言った。
『あ!』私は朝のことを思い出した。
「こちらこそすいません……私の名前は」
「ああ、知ってる知ってる! お前らの名前みゆに鉄に真妃に心に匠に賢、だよな?」
私たちは仰天した。
私たちならまだしも、心と匠は会っていないはずだし、私たちもあの時自己紹介なんてしなかった。
「驚いた? 俺さこう見えて透視ができちゃったりするんだ。大山さんとさっきすれちがった時に、ポケットに入ってたメモ帳に名前が書かれてたからいっきに覚えた。だけど……誰が誰かは把握してないからなぁ」
拓先輩は腕を組んで少し私たちを見下げた。
「すっげぇぇぇ! 透視ですか? お、俺鉄です」
鉄は目を輝かせて拓先輩をジロジロ見た。
「でもまだまだ、特訓中なんだ。それに透視って言っても体力使うし、集中力いるしうっすらとしか見えない。人間には限界があるからなぁ、大人になってもせいぜい体力は使わなくて済むと思うが、やっぱうすさは変わらないんだ。お前らの見えない才能という力も人間の限界までは特訓しだいで発揮できるんだぞ」
拓先輩は自慢げに語った。
「あんたね、透視下手くそなくせに自慢してんじゃないの」
横からまたあの時の女の先輩が現れた。
「あ! どうも」
私は軽く頭を下げた。
「名前……なんだっけ?」
「えっと、みゆです」
「よろしく見学生さん。あたしは静香」
「よろしくお願いします」
静香先輩と握手したとき、この先輩はどんな力を持っているのか気になった。
「あの静香先輩、僕心です。先輩の力って?」
心がわりこんできた。
「ああ、こいつの力は俺より格好悪いんだ」
拓先輩がニヤニヤしながら言った。
「あんたの下手くそな透視に比べたら全然ましまし」
静香先輩は拓先輩を睨みつける。
「ほらほら、ごたごた言うなって! 見学生の前でみっともないよ」
睨みあう2人の背後に背が高くて、大柄な人が現れた。
「おい、熊! お前こそ見学生を怖がらせるぜ」
拓先輩は後ろを向いて言った。
「ああごめん。僕は熊っていうんだよろしく見学生」
熊先輩はそう言ってズカズカと歩み寄った。
「そのままだな……名前」
鉄は呟く。
「すいませんが先輩方、僕たち昼食がまだなんです」
賢は不機嫌そうに言った。
「それなら、俺達1年のテーブルに来いよ」
拓先輩は私たちをすぐに案内してくれた。
「おお! 来た来た」「6人いるのかぁ」「よろしくね」
いろんな声が飛び交う中、私たちは座るように勧められた。
「ここが1年のテーブルだ。にぎやかだろ?」
拓先輩はそう言っていろんな食材をテーブルにバンバン置いていく。
「うるさくて少し落ち着けないね」
真妃が小声で私に言った。
「おい1年! 誰がお前らに見学生の席を独占しろと言われたんだ」
隣のテーブルから怒鳴り声が聞こえ、騒がしかったテーブルが静かになった。
「文句ありますか?」
拓先輩は自ら立ち上がる。
「拓! 調子に乗るな、いくら後輩ができても俺達はこれから先もお前らの先輩だぞ」
長い髪で金髪の人が堂々と座っている。
顔がどこか誰かに似ているようなと思わせた。
「いいだろ別に、俺たちだってあんた等2年のテーブルに近寄る気もないんだよ」
鉄がいきなり立ち上がって拓先輩の横に並ぶ。
「あれ? 鉄じゃねぇか! なあ鉄、俺とお前偉いのはどっちだったっけ?」
金髪の先輩も立ちあがる。
「お前ら知り合いなのか?」
拓先輩が驚く。
「鉄、ほっといたほうが……」
真妃が鉄を止めようとするが、鉄は全く聞いていなかった。
「俺もお前も臆病者の馬鹿だ」
鉄は今までに見たことのない怖い顔をしていた。
「鉄、お前と一緒にされるほど俺は馬鹿じゃない。それに親から見放されてもいないしな」
金髪の先輩はニヤッとする。
「そうかよ。じゃあどっちが強いんだ?」
そう言って鉄が飛びかかる。
……が、すぐに投げ飛ばされた。
今や食堂の誰もが2人の様子を見ていた。
「臆病者? 悪いが弱いくせに偉そうな態度を取らないでくれるか?」
金髪の先輩は鉄を持ち上げて、腹部に蹴りを入れた。
「和先輩! まだ入学もしてないこいつに手出ししていいと思ってんのか?」
拓先輩は鉄を起きあがらせる。
「悪いが兄弟の喧嘩だ。問題にはならない」
和先輩はそう言ってまた椅子に座った。
「おい鉄、今のはお前のためだ! 分かったら丁寧な言葉使いをしろ」
「すいませんが、何様のおつもりで?」
なぜか賢が立ち上がった。
「お前は関係ないだろ! 鉄と同じ目にあうか?」
和先輩の脅しに迷いもなく賢は前へ進んだ。
「や、やめ、やめたほうが」
匠は後ろから小さな声で呼びとめようとする。
「兄弟喧嘩ならここではなく、よそでやってください。食べ物が喉を通りませんから」
賢は鉄の腕を乱暴につかんだ。
「早く戻れよ馬鹿、僕はお腹がすいて仕方ないんだ」
そう言って鉄を思いっきり私たちの方へ押した。
「では失礼します先輩」
賢は丁寧に軽く頭を下げて、戻ろうとした……しかし
「ちょっと待て」
和先輩はまた立ちあがった。
「久々に会った弟だ。他人のお前がなぜ突き放す権利がある?」
賢は勇敢にも振り向くと
「お腹がすいたからです。ここにいる人たちの食事を邪魔しているんですよ? あなたたちが兄弟だからという問題ではなく、マナーの問題です」
と言ってスタスタと戻る。
「おい! 話はまだ終わったわけじゃ……」
「マナーぐらいは守れ。学校の恥になりたいか?」
和先輩の背後に身長の高いクールそうな人が現れる。
「に、兄さん!」
和先輩の顔が青ざめた。
「生徒……会長!」
拓先輩も一歩下がる。
「鉄と和、2人とも反省しろ。そして黙って食事するんだ」
生徒会長はそれだけ言って食堂から出て行った。
それから沈黙の後、また再びがやがやと食事が始まった。
「鉄君ってお兄さんが2人もいたんだね! 1人は怖かったけどもう1人は生徒会長かぁ」
心は肉にかぶりつきながら言った。
和先輩は向こうの席で黙り込んでいた。
鉄も同じく黙っている。
「ごめんな、そもそも喧嘩をかった俺が悪い」
拓先輩は謝る。
「すいません悪いのは俺でした」
鉄は俯く。
「そんなことない。だってあの人たちが悪いんだもん」
静香先輩が和先輩を見て言った。
「そうだよ、僕らはしょっちゅう言い合いするけど、あまり関わらないほうがいいよ」
熊先輩も頷く。
「俺なんて入学式の日に殴り合いしたんだぜ」
拓先輩は自慢げに言う。
「負けたけどね」
ついでに熊先輩が付け足した。
「そ、それに、し、しても、け、賢君が、か、かっこよかったです、ね」
と匠。
「そうそう、まさかの活躍ぶりだった!」
心も頷く。
「あ、あれは……」
賢は少し照れていた。
「ありがとな」
鉄がそう言ったが、そっけなく
「マナーの悪い学校だ」
とだけ言って水をいっきに飲んだ。
「食事はどうだった?」
大山さんは機嫌がいいらしく笑顔でそう聞いてきた。
「おいしかった」
心はまたアイスをなめながら言った。
「そうかそれはよかった。それでコミュニケーションはとれたかな?」
大山さんは何も聞いていないらしい。
「はい、まあまあでしたが」
とそこは真妃がフォローした。
「今から少し君たちの腕を試させてもらうぞ」
大山さんは何も気づいていないらしく、先に進んだ。
「またですか? 朝済んだはずです」
賢は顔をしかめる。
「今回は違うんだ。今日は君たちを試す日なんだよ」
私たちは少し緊張しながら部屋に入った。
また薄暗い部屋だ。
「これをつけてくれ」
大山さんは私たちにどこかで見たことのある物を手渡した。
「これって……」
真妃がそれを見て呟く。
「聞いてるよ、君たちはバーチャル映像室でこれと似たものを使ったらしいね?」
「似てるも何も同じものじゃないのか?」
鉄は不思議そうにそれを見つめた。
「たしか3Dメガネじゃなかったっけ?」
と心。
「その通り! だけどそれは1年生ようだ。これはそのスペシャル版ってとこかな……」
大山さんは手に持っていた3Dメガネを掛けた。
「さあ、君たちも」
そう言われ私たちはそのスペシャル品を掛けた。
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