第十四章
私たちは4本目の道を走っていた。
「ここの道は少し登りになってるな」
鉄は心配そうに先を見ていた。
私は黙って走った。
また何か起こるかもしれないと、先を見つめていた。
「どこかに落ちてたりしないのかよ!」
苛立ってきたのか鉄が怒鳴る。
自分たちの足音だけが響き渡っている。
そして、私はまた先の方に何かが見えた。
「何かいるかも!」
私は鉄に忠告する。
「おう、分かった」
鉄は頷き目を細めた。
「あれ? 鉄君じゃないか!」
前方に見えたのは心だった。
「え! 真妃はどこだよ」
鉄は足を止めた。
「実は真妃ちゃんとあの道ではぐれたんだよ。がむしゃらに逃げていたらね……。そしたら、違う道にたどりついちゃったみたいだね」
と心が説明する。
「じゃあ、真妃は今どこにいるか分からないんだな?」
鉄が心配そうに言った。
「うん、まあ……」
「とにかく先に進もうか」
私は2人にそう声をかけた。
2人も頷いてまた走り出す。
とその時地面がぐらつき始めた。
「今度はなんだよ!」
鉄が舌を鳴らす。
『ゴゴゴゴ』『ギーギー』『ガシャーン』
大きな音がして後ろに壁が出来た!
「ど、どうなってるの!?」
心が慌て始める。
「道が……ふさがった」
私はため息をついた。
「クソ! 帰れないってことか? それともこの先に何か手段があるのか?」
鉄が頭をかいた。
「どっちにしてもややこしい事になったね」
私は俯く。
「何言ったって、壁を崩すのは不可能だ! ゴールすることが先だからな。行き止まりでないことを祈って走るしかない」
鉄は私たちにそう言って歩き出した。
「行こう!」
心は私に声を掛けて鉄の後を歩く。
その後3人で先を見つめて走った。
すると前方に分かれ道が見えた。
「どうする?」
心がパッと鉄と私を交互に見た。
「よし、俺が左に行く。お前らは右に行け! ゴールで会おう」
鉄はそう言って左の道にすごいスピードで走っていった。
「大丈夫かな?」
私は不安になり鉄の背中を見つめた。
「たしかにね、鉄君方向音痴って聞いてるし……、でも大丈夫だよきっと」
心は頷いた。
「だといいけどね」
そして私たちは右の道へ……
しかし、すぐにそこがハズレの道であることが分かった。
10m程で目の前は壁だった。
「鉄君の道が正しかったようだね」
心が残念そうに壁を見つめた。
私が黙って頷き方向転換しようとした時だ!
壁の隅に何かが置かれているのを発見した。
「これ、何かな?」
私はそこに近づいた。
「箱?」
心が不思議そうに後ろから尋ねる。
心の言うとおり小さな宝箱のようなものが置かれていた。
「開けてみようか?」
私の提案に心が頷く。
私は慎重に箱を開けた。
……中に入っていたのは太い骨だ!
その骨にメモが貼り付けられている。
『凶暴犬を大人しくさせるアイテム』
と丁寧に書かれていた。
「これはまさしくゲームだね! アイテムがあるなんて」
心が少し笑いながら言った。
「変な校長だね」
私も少し笑うとその骨を箱から取り出す。
そして私たちはそこから引き返した。
鉄の進んだ道を2人で黙って走る。
すると『バタン』誰かと勢いよくぶつかった。
「いたたた、あれ? 君たちは!」
そこにいたのは賢だった。
「賢君? どうしてここに?」
賢は息を切らし、汗をかいていた。
「僕と匠君は、二手に分かれたのさ! そしたらここに着いた」
賢が額の汗を拭う。
「この迷路めちゃくちゃ! 早いとこでなきゃ」
私はため息交じりで言った。
「その通りだ……急ごう」
心は頷く。
賢と合流し、少し元気が出た。
でも、全員の安全はまだ保障できない。
「ところで、あんた何で骨なんか持ってんだ?」
賢が走りながら私に聞いてきた。
「ああ、これ? アイテムだから」
とだけ答えて走るスピードを上げた。
賢は不思議そうに首を傾げたが、もう何も聞いてこなかった。
3分ほど走った時、何かを叩いている音が聴こえた。
「なんだこの音は!」
賢が小声で言った。
「鉄君じゃない?」
と心。
少し行くと心の予想が当たっていた。
鉄がドアを必死に蹴っている姿が見えた。
「何してるの?」
私が声をかけると
「見れば分かるだろ? ドアをけってるんだよ」
鉄はただそう答えてけり続けている。
「このドアを抜けないと先に進めないってわけかい?」
賢は聞いたあと答えも聞かず、鉄と一緒にドアを蹴り始めた。
そのたびに『バキッ』と音がする。
さらに心も加わり、より大きな音でドアが軋む。
最後のひといきでドアは壊れて先に道が見えた。
私たちは4人で黙って走りだした。
そしてついに10本の分かれ道があった場所に戻ってきた。
「よし、もうちょいだ!」
鉄がやる気にみなぎり5本目の道に走ろうとした。
「待って、もうアイテム見つけたから」
私は手に持っていた骨を鉄に見せた。
「そうか! なら後は簡単だな」
鉄は頷く。
私たちはあの凶暴犬のところへと再び向かう。
犬は相変わらず唸っていた。
「こいつで本当に大人しくなるのか?」
賢は不満げだ。
「やってみるしかないだろ?」
鉄は賢を睨んでから私の持っていた骨を犬の近くに投げた。
一瞬沈黙が起こり全員が犬の様子を黙って見つめる。
犬は唸るのをやめて、ゆっくり骨に近づきやがてペロペロとなめ始めた。
「よし、成功だ!」
鉄はガッツポーズをする。
「安心するのはまだ早いよ」
私は犬の首輪を指さし、3人の反応を待った。
もちろん絶望的な表情だ。
「だ、誰が……鍵をとる?」
賢がひきつった顔で言った。
「賢君、君が取ってきてよ! 僕犬駄目なんだ。アレルギーもちで」
心は一歩下がった。
「何言ってんだ? ここは俺の出る幕じゃないぞ!」
賢も一歩下がる。
「だらしないぞお前ら! こ、ここは俺がやる。さっさと終わらせてやるよ」
鉄は1人前に進み出て、犬にゆっくり近づいた。
「可愛いな、良い子だ犬ちゃん」
そんな事を言いながら首輪に手を伸ばす。
「大人しくしててくれよ」
そう小声で言うと鉄は鍵をゆっくり掴んだ。
もう少し!と全員が思った時犬が鉄の手に噛みついた。
「ギャー! いってぇぇぇぇぇ」
鉄は悲鳴を上げて私達のところへ戻ってくると涙目で
「すまん! 俺は嫌われている。誰かほかの奴が行くしかない!」
といった。
「ふざけるな! 誰が行ったってきっと同じだ。目の前でお前が襲われるのを見たってのに、自ら行けって言うのか? 僕はごめんだ」
賢は慌てて首を振る。
「金持ちでナルシストで、偉そうな君が、なんで行かないんだよ! 僕はアレルギーだから無理だよ」
心は賢を睨みつける。
「馬鹿言うな! ぼ、ぼくは……うわ!」
鉄はいきなり賢を犬の方へ押した。
犬は骨をおいしそうになめている。
「お、おい、なんのまねだ!」
賢は腰を抜かす。
犬は目の前にいるのだ。
「早く取ってこいお坊ちゃま野郎」
鉄が賢に怒鳴る。
「む、無理だって! それにお、お坊ちゃまじゃないぞ僕は」
「だったらそれを証明しろ!」
鉄の言葉に黙って従う事にしたのか賢は一息ついてからゆっくり手を伸ばして、鍵を握る。
そしてまたも犬は今度は賢の手に噛みついた!
「うぃ! いっ! いうわぁぁぁぁ!」
変な悲鳴を上げたものの、賢は鍵を引きちぎり、なんとか逃げて帰ってきた。
私たちは笑いをこらえて黙って拍手した。
「ど、どどどどどうだ?」
自慢げに鍵を鉄に投げる。
「やればできるな!」
鉄は悔しそうに鍵を拾う。
「凄かったよ! いろんな意味でね」
心が笑いながらそう言った。
「いよいよゴールに近づいたか?」
鉄は嬉しそうに言った。
私たちは慎重に犬を通過した。
鉄は急いで鍵を差し込むとドアを開ける。
「急ごう!」
鉄は私たちに言うとドアをくぐろうとした。
……が
『ドシン』
そこにあったのはゴールでも道でもなく壁だった。
頭をぶつけた鉄はふらつき後ろに倒れた。
「アハハ馬鹿だね!」
心は笑う。
「僕の手に負った傷は! 何のためだったんだ!」
賢はショックを受けている。
予想外の展開に私も唖然とした。
「となると、無駄足をとったってことになる」
心は鉄を見つめて言った。
「おい、鉄! 起きろ方向音痴」
賢が気を失った鉄の腹を軽く蹴る。
「ん? んん! ここどこだ」
鉄が頭を押さえて起き上った。
「ここは、迷路だよ」
心が馬鹿にしたように言った。
「そんな事は分かってる!」
鉄は怒鳴ると立ち上がった。
「とにかく次の道に進もう! 惜しくもここはハズレだったみたいだね」
私は3人に声を掛けた。
「ていうか、このクソ犬! 大人しくならないじゃないか! ここの校長はマジで何考えてるんだ?」
鉄は犬を睨んむ。
私たちはまた分かれ道に戻ると今度も2チームに分かれた。
私はまた鉄と行動することとなった。
5本目の道を私たちは走る。
「ゴールはどこにあるんだ?」
鉄は答えられない質問ばかり投げかけてきた。
そう言いたくなるのも当然だが、言われる側は返事に困る。
「でも、もしかしたら真妃ちゃんか匠君が見つけてるんじゃない?」
鉄はあまり期待していないのか
「そうだな」
とだけ返事をした。
会話が途切れた時、前方に光が見えた。
薄暗い中を走り続けていたので、とても眩しい。
「ゴール……かな?」
希望が生まれた瞬間に期待は裏切られた。
私たちは『ツルン』と滑って、そこから急な地面を滑った。
ただただ、慌てるか叫ぶしかない。
『ストン』平らな地面に綺麗に着地!
「ったく、ゴールは遠いな」
鉄は肩を落とす。
「て、鉄君に、み、みみゆさん、じゃない、ですか!」
匠の声が後ろから聞こえた。
「え?」
私たちは同時に聞き返す。
「ぼ、僕です! こ、ここから、出れなくて、こ、困って、い、いたんです」
匠は嬉しそうに微笑んでいる。
「出れなくてって! もしかして」
私がその後の言葉を言う前に鉄が叫んだ。
「じゃあここは、行き止まりってことなのか?」
匠は残念そうに頷いた。
「も、もしかしたら、だ、誰かが、た、助けて、に来て、く、くれるんじゃないかと……思って、い、いたんですが、ど、どうやら、お2人も、と閉じ込められ、て、しまった、よ、ようですね」
私と鉄は愕然とした。
「本当に行き止まり?」
「は、はい」
ここまで来て、まさかの事態だった。
「でも、なんとかしないと……」
鉄は薄暗い中を歩き回った。
直径3mの薄暗い部屋は出れそうもない。
しかし……
「そうだ! 大山さんだ」
鉄が手をパチンと叩いて言った。
「で、でも、お、大山さんは、怪我、や事故、のような、き、緊急時にしか、た、助けて、く、くださらないとかじゃ」
匠は首をふった。
「それなら、なんとかなるさ」
鉄は自信満々だ。
「どうやって?」
私が聞くと
「大丈夫!」
とだけ答えた。
「お〜い、大山さ〜ん」
鉄は大声で大山さんを呼んだ。
これだけで来るのかと思っていたら、ドカドカ音がして、返事が返ってきた。
「はい、なんでしょうか?」
私たちはその速さに少し驚いた。
「え! あ! ええっと、助けてほしいんですけど」
鉄が見えない大山さんに向かって叫ぶ。
「何かあったのかい?」
「はい、閉じ込められてしましました!」
と鉄は素直に言った。
「それは僕にはお助けできないよ! 怪我じゃないんだろ?」
当然の答えだった。
「でも、俺『お助けアイテム』持ってるんだけど……?」
「ああ、それならいいよ」
大山さんはサッと滑り下りてきた。
「確認はさせてもらおうか?」
鉄はポケットから青いボールを取り出した。
「よし、良いだろう」
大山さんは頷いた。
「『お助けアイテム』って?」
私は尋ねる。
「ああ、これは1回限りのアイテムらしい。真妃と行動してた時に見つけたんだ」
鉄はにこやかにそう答えた。
「そ、それを、は、早く、い、言ってくださいよ」
匠もホッとしたようだ。
大山さんは変な機械を取り出した。
「それは……なんですか?」
私の問いかけに
「まあ、見ててくれ」
大山さんは機械のボタンを押した。
『ウィーン』そこからロープが出て滑ってきた坂のどこかに結びついた。
「さあ、全員つかまって!」
大山さんの言うとおり、私たちはロープにつかまる。
その瞬間『ヒュン』と引っ張られ眩しいあの道に着地した。
「うわぁお!」
鉄が感動の声を上げた。
大山さんもいつの間にか後ろにいた。
「なんだったんですか? あのロープは!」
私が聞くと大山さんは笑って答えた。
「この学校の秘密兵器の1つといったところさ」
「と、ところで、い、今、時間はどのくらい、け、経過しているんですか?」
匠が重要な事を思い出した。
「ああ、1時間30分だよ」
「1時間30分!」
3人で同時に驚いた。
「ああ、急いだほうがいいんじゃない?」
ラスト30分!
私たちにもう余裕はなくなった……。
大山さんに礼を言って、急いで走る。
「後30分でタイムオーバーか!」
鉄は悔しそうな表情をする。
分かれ道に再び戻るとそこには真妃が困った表情で立っていた。
「真妃! 残り30分らしい。先を急ごう」
鉄は真妃に会うなりそう言った。
「よかった! 全員いるんだね?」
と、今度は心の声がした。
6本目の道から出てくる。
賢も一緒で2人とも走り疲れた表情だ。
「そこもハズレか?」
と鉄。
「ああ」
「じゃあ、残りは3本の道」
私がそう言うと真妃が首をふった。
「後2本。私は、左から2本目の道から出てきたから……」
「じゃあ、ここは二手に分かれよう」
心が言った。
こうして、私は心と匠、もう1チームは、鉄と真妃と賢で行動する事になった。
私たちは左の道を進んだ。
進むうちに私はある異変に気づいた。
薄暗い明りがさらに暗く暗くなっていく。
ついに暗くなってしまった時私たちはついに足を止めた。
「く、暗いですね……」
「でもまだ道は続いているよ」
匠も心も戸惑っている。
「行くしかないね」
私は思い切ってそう言った。
3人でゆっくりと歩いた。
『ゴツ』
「痛!」
心が何かにぶつかった。
「な、何か、あ、ありますか?」
匠は心に向かって不安そうに聞く。
「う、うん。何か平らな壁があるんだけど、これ、押せると思うんだ」
心はその壁を押し始めた。
壁はきしんだ音がして目には見えないが、ほこりが落ちてくるのが分かった。
私たちは3人で押せる限り壁を押した。
『ギーゴゴゴ』
その音と共に壁が真っ二つに分かれて、奥に明るい部屋が現れた。
「もしかして……!」
私たちは目を輝かせて部屋へ飛び込んだ。
と思ったのだがただの映像だったようだ。
本物の部屋ではない!
「なんだぁ、偽物かぁ」
私はガックリした。
「ま、まあ、そこに、ほ、本物の扉がありますし……」
匠が指さした。
その先には真っ赤な扉がある。
私たちは今度はその扉の前に立つと、ゆっくりとノブを握り扉を開ける。
そこは長い長い先の見えない階段だった!
「気が遠く……なりそう」
私は微妙によろけた。
「時間がないよ! さっさと行こうか」
心はそう言って階段を駆け上がり始めた。
「し、仕方、あ、ありませんよ」
匠は私に頷いて心につづいた。
私はしゃがみ込みたい衝動を抑えつつ、階段に足を踏み出す。
「ハァハァ」息を切らしながらもドンドン足を上へ上へと運んだ。
どれくらい上がって来たのだろう……
そう考え始めた時ついに先に方に『ゴール』という文字が見えた。
「やった!」
目の錯覚でなければ、もうゴール達成だ!
私たちは一言も会話をせず、黙々とゴールに向かって重い足で階段を上がる。
ついに最後の一段。
そこをひょいっと上がると気が抜けて、バタリと倒れこんだ。
「終わった!」
ただその言葉しか出なかった。
しかし、次の匠の言葉で私は落胆した。
「こ、この、ゴールの、も、文字の隅に、び、微妙に、や、矢印が……」
心と私は信じたくないその矢印を見た。
矢印は右に向けられていた。
もちろん体力はつきかけていた。
「う、うそでしょ?」
本当に信じたくもない!
私はゆっくり立ち上がり、走る力が入らず歩き始めた。
心もよろよろと隣で歩いている。
匠だけは、走るまではいかないが小走りだった。
足が痛み始めた時、3m先に大山さんが見えた。
「ここがゴールですよ」
大山さんは私たちに手を振った。
最後のひといきだと思いながら、私は片方の足を引きずり歩く。
後1mもないとそう喜んだ瞬間だった!
「ストープ! タイムアウト! 残念ね……期待していたのに。でもそれぞれの個性・性格・行動判断力を少しは見せてもらいました。あなた達がゴール出来なかったのは残念だけど……まだまだ期待してるし、なかなかいいチームワークのメンバーだってこと分かりましたよ!」
校長の腹の立つ声が鳴り響いた。
あと、ほんの数歩だったのに!
私はその場にグタリとしゃがみ込んだ。
これにてゲーム終了!
なんてゲームだ……。
今までに体験したことのない悔しさと苛立ちが、このゲームによって私の中にわき起こった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回作も読んで頂けますと嬉しいです。
時間の方がありましたら、感想評価等をぜひお願いします。




