第十三章
私は今、心とともに薄暗い通路を歩いている。
校長の計画した迷路ゲームに参加中だ。
今のところ障害物はなし……。
「怖いね、いつ何が起こるか分からない」
心は慎重に歩きながら言った。
「うん、気をつけて歩かないと」
そう私が言った時、初めて分かれ道になった。
「どうする?」
心は少しためらった。
「う〜ん、右に行ってみる? 行き止まりだったら戻って左に行けばいいんじゃない?」
私が提案すると
「わかったそうしよう」
心は見渡してから右に曲がった。
2分くらい歩いた時
「ちょっと待って!」
私は突然、なんとなくではあるが壁が少しきしんだように見えた。
こんな固い壁がこんな風にきしむのは不自然な感じが……。
「どうかしたの?」
心は不思議そうに私を見た。
「なんかこの道間違ってるような」
私がそう言うと
「アハハ、いきなり何?」
心は笑う。
「いや、よく見たら壁がなんか……」
上手く説明できないでいると
「壁? 何もないよ。目大丈夫? さあ行こう」
心が笑いながら一歩進んだとき
『ガガガガ』
壁がうなりを上げた。
私はその音に耳を澄まし、壁をよく観察した。
「い、今すぐ戻ろう!」
私は自分でもよく分からないが慌てた。
「なんで? この音何?」
心は茫然と立っている。
私は考えるより先に心を引っ張った。
その瞬間に『ゴゴゴゴゴゴ』と大きな音とともに先の方から何かが迫ってくる。
「もしかして! 壁?」
心は私の手を振りほどき来た道を走る。
私も猛スピードで走った。
私と心がさっきの分かれ道の所まで来たとき
『ガッシャン』と壁が停止した。
「ハァハァハァ……右はハズレだったね」
私は座り込んだ。
「ハァハァ、それにしても、君って観察力あるね。それとも勘が鋭いのかな?」
心は私を真剣に見つめた。
「いや、なんとなく不自然だなって」
私は自分でも少し驚いていた。
「なんとか逃げ切れたし、左に行ってみようか」
心は会話を続ける気はないらしい。
私は心の後を追った。
「この迷路ほんと怖いよ! アハハ驚いた」
心はなぜか笑っていた。
私が口を開きかけた時、今度は叫び声が聞こえた。
『ギャー』
私たちは足を止める。
「あ〜あ、誰かやられちゃったかな……」
心がそう言って新たな道を進んだ。
「何があったのかな?」
私がそう心配していても
「大丈夫だよ! 鉄には真妃がついてるし、賢と匠は二人ともしっかりしてる」
心はそう言って平然としていた。
と、いきなり心が足を止めた。
「最悪だよ、この迷路複雑すぎるんだもの」
心はため息を吐く。
それもそのはず、前方には10本の道が立ちはだかっている。
「この……中から道を選ぶの?」
私はこの迷路のこだわりようと難しさに呆れてしまった。
「とにかく、この道のどれかがゴールに通じているのだとしたら、進んでみるしかないわけだね!」
心は腕組みをして1人で頷く。
とりあえず、考える時間を使ってはいられないので、右端から順序よく進んでみる事にした。
「ここの学校やっぱり変わってるよね」
黙っているのもなんだから、私は口をなるべく動かす事を試みた。
「うん、僕は最初から思っていたよアハハ」
心は相変わらずのんきな返事をする。
「心君は、タイムガードの仕事を将来しようと思ってるの?」
「僕は、そうだね。うん、やってみたいとは思うよ! こうやって特別な物を持って生まれてきたんだ。そのチャンスを存分に生かせる仕事なら、やる価値はかなりあると思うんだ。だから、今のところは希望してるよ」
「そうなんだ……、お父さんたちは反対してないの?」
「う〜ん僕の家は貧乏だからね。でも、やりたいなら好きなようにって。ここ授業料かからないし! 君はどうなの?」
「私は、まだはっきっりとは分からないんだけど……、親は反対してて、それにまだ自信がないから」
「そっか、それは自分次第だね。でもみゆちゃんは、すごく特別だと思うよ! だって教頭が噂とかなんとか言ってたし」
「そうなんだよね! 私自身、今でも何の事か分からない。だってそんなもの持ってないかもしれないでしょ? 自分でもまだ分からないし、期待だけされても答えられなかったら、すごく意味がないような気がして怖いし」
「意味? 意味はあるよ。君自身が少しでも変わったり変わろうとしたりすることでね! 期待されるのは、すごいことだ。それに持ってるよ! 何か特別な物……。僕は何となく分かる。」
そう心が言い終わった時、目の前に扉が現れた。
「もしかしてゴールかな?」
私が不安げに聞くと
「そうだといいけど、これだけこだわった迷路にこんなあっけないゴールがあるかな?」
心は首をかしげる。
「確認だけしとこうか」
心が扉を開けた。
扉の向こうにあったものは、薄暗い部屋。
そこにいたのは自分たちだ!
「鏡! そんな事だろうと思ったけどね」
心は肩を落として扉を閉めた。
と、その時!
「うわぁ!」「キャー」
と悲鳴が上から聞こえた。
見上げたと同時に天井に穴があいて、そこから人間が降ってきた。
『ドサッドサッ』
痛そうな音がして、天井の穴はふさがる。
「鉄君に真妃ちゃん何かのサプライズ?」
心が笑って言った。
「大丈夫?」
私は2人に声をかける。
「い、いや……、全っ然大丈夫じゃねぇよ」
鉄は腰を痛そうに押さえた。
「鉄が変なボタン押したからこうなったんでしょう……」
真妃も顔を歪めている。
「変なボタン! 馬鹿だね」
心はまだ笑っていた。
「じゃあ、ハズレ道だったんだ」
私の言葉に2人は頷いた。
「それなら、力を合わせて次行こうか」
心は来た道に体を向けた。
「おいおい、少しは心配ぐらい……」
鉄の声に耳を傾けることなく心は歩き始めていた。
2人は痛そうな表情で心に仕方なくつづいた。
「それで? あなた達もハズレ道だったってわけ?」
真妃は歩きながら言った。
「この道はね! でもまだ9本も道があるから」
私がそう伝えると
「勘弁しろよ! 9本? これ以上落とし穴があったら俺帰るぞ」
鉄は不機嫌になった。
そして、やっとその問題の所にさしかかった。
残り9本……気が遠くなった。
「マジかよ!」
鉄は茫然とした。
「ここは人数も増えたことだし、手分けしよう」
心は鉄を視界に入れていない。
「じゃあ、今度は鉄君はみゆちゃんと行動して」
心が淡々と決める。
「それから、僕は真妃ちゃんと。右端から2番目の道を僕たち、3番目を鉄君達で」
「ちょっと待てよ! チーム変更の理由は?」
鉄が聞いた。
「考えれば分かる。みゆちゃんは観察力があるんだ! ド派手に馬鹿やる君を少しは抑えられる。それに、真妃ちゃんは君に疲れてる」
心はあっさりと鉄に答えた。
こうして私は鉄と行動を共にしなくてはならなくなった。
すごく大変そうだ……。
「あいつ、嫌なやつだ」
鉄は3本目の道を私と進みながらブツブツと言う。
「俺の事は気にもかけない! 笑ってばっかだし」
私は聞き流しながらただ歩いた。
鉄がまだブツブツ言っている時先の方から鳴き声のようなものが聴こえた。
「あれ、なんの声?」
私は足を止めた。
「大丈夫だよ多分、この声もただの仕掛けさ」
鉄は聴こえないかのように先にすすんだ。
「でも気をつけた方が……」
そう言ったのもつかの間、鉄の足が止まった。
「あれはなんだ? 犬か?」
鉄は先に何か見えたようだ。
私は見る気にもなれない。
「も、もどろうよ」
小声で鉄に呼びかけるが、鉄は何を考えているのか突っ立ったままだ。
「そうか……そういう事だ! あいつ餌がほしいんだ」
といきなりそんな事を言い出した。
「え?」
「だから、あいつ餌が欲しいんだよ! そしたら大人しくなる」
私にはまだ理解できない。
「なんで分かるの?」
「凶暴な犬に見えるけど少しやつれてる。それに、あの仕草は腹空かせてるよ。俺の愛犬もあんな仕草をするんだ」
鉄は自信ありげだ。
「でも、餌なんて持ってないよ」
私が言うと
「探せってことだろうよ」
鉄は1人で納得した。
私はその凶暴犬を観察してみることにした。
鎖で1m繋がれ見た目怖そうだが、鉄の言う通り腹を空かせているかもしれない。
何か食べさせて大人しくさせ、先を進むしかないのかもしれない。
いや……よ〜く見たらある事に気づいた。
どうやら犬のいる先にはドアがある。
そして犬の首輪に注目した。
小さいが鍵が付いているのが見えた。
この鍵を使いドアを開けて先を進む!
そう解き明かし、私は鉄に向き直る。
「それで? 餌は?」
鉄は頭を悩ませていた。
「う〜ん、ここにはまずないだろう。だとすると、心と真妃が行った道か……それとも他の道かだ」
私はそれを聞いて考える時間はない事に気づき苛立った。
「もう、どうにか次の行動に移るしかないみたいだね。だとしたら違う道に行ってみよう! 何か見つかるかも!」
私が提案し、鉄は勢いよく頷いた。
道を引き返して、次の道へ向かう。
「全く変な迷路だな」
鉄が走りながら言った。
鉄は足が速い。
「うん、2時間でゴール出来るかな?」
私は必死で鉄に追い付こうとした。
「とにかくやるしかないってわけだ」
次の道を走っているとまた、先の方に何かを感じる。
「鉄! 引き返して!」
私はパッと足を止めた。
「な、なんでだ?」
鉄はスピードを緩めただけで足を止めない。
「いいから早く!」
私にはもう分かりつつあった。
「で、でも……わ、分かった」
鉄は私を信じて戻ってきた。
鉄の後ろからもうそいつが迫って来そうだ。
「逃げよう!」
私がそう言った時『バッシャ〜ン』と大きな音がした。
「ハズレか」
鉄が悔しそうに走り出した。
私も猛ダッシュでまたまた走る。
水の波が私たちの背中を追う!
『バタン』しまった!
私はこけて遅れをとった。
もうすぐそこまで、水は流れてきている。
「だ、大丈夫か? 行くぞ!」
鉄は走り戻り、私を勢いよく起こすと手を引っ張った。
鉄はすごいスピードで走る。
私はその速さに驚く!
足に冷たさを感じた時この道の出口まで来た。
『ガシャン』
私たちが出たと同時に後ろの方で音がした。
見るとそこに壁が出来ている。
水は壁にぶつかり、もう私たちを追っては来れない。
私も鉄も汗をかいて、その場にしゃがみこんだ。
「た、助かった」
「それに、しても、鉄って、足、速いね」
息を切らしながら私は言った。
「ああ、足には自信がある。体力も他の人よりはあるし! それより大丈夫か? かなり息切れてるぞ」
「ごめん、こんなに走ることあんまりないから」
だいぶ呼吸も落ち着いた。
「この迷路で俺達を殺す気なのか? このゲーム」
鉄は不安げに言った。
私は首をかしげることしかできなかった……。
確かにこのゲーム、危ないことだらけだ。
「よし、とにかく次行こう」
鉄は立ち上がってそう言った。
果たして時間内にゴールすることが出来るのか……。
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