第十一章
「食べられちゃうよ!」
心は頭を抱え込んだ。
しかし、鉄は何かに気づく……。
「ちょっと……待て」
鉄は恐竜を疑わしげに見つめた。
「早く逃げろよ、グズグズしてないで」
賢はかなり慌てていた。
「よく見ろよみんな、こいつ動いてないぞ」
鉄は苦笑いで私たちを見て、恐竜の大きな顔を指さした。
「ホントだ!」
私は口を開けたままの恐竜を見て気が抜けた。
「動いてない? どういうこと?」
真紀は立ち上がって停止している恐竜をまだ怖そうに見ていた。
「つまり、ぼ、僕たちがいるのは……き、恐竜、じ、じ、時代のセットということ、で、で、すよね」
匠が嬉しそうに言う。
「ハハハ、君たちいいリアクションをありがとう! そうです。ここは、恐竜時代のセット。このセットで仮実践を行い、動きになれたり、その場所になれたり出来るように訓練出きるんです。過去の時代に行くと、なれない空気に重さを感じてしまう。ですから、この教室もそれをしっかりと再現しています」
教頭は木陰からヒョコッと現れた。
「じゃあ、この恐竜もセットで、先生が動かしてたんですね?」
賢が少し顔を赤らめて聞いた。
「その通り!」
教頭が頷くと慌てていた自分を悔やみつつ、賢は黙り込んでしまった。
「そ、それに、しても、リアルです」
匠は興味しんしんだ。
「さて、時間があまりない次行きましょうか」
教頭は私たちの反応も気にせずタッタと歩き出した。
次の部屋も言葉に言い表せられない別世界!
私たちはもうすでに過去に来ているかのようだった。
縄文・弥生・古墳・飛鳥・奈良・平安・鎌倉・室町・戦国・大正・昭和
次々に私たちは教室を回った。
どのセットもリアルに作られていて、教頭のスピードに追い付くのもかなり大変だった。
やっと全てを見終わった私たちは、疲れきってお腹もすいていた。
「さあ、お疲れ様です」
教頭は私たちを高級感漂う食堂に案内した。
「バイキング式ですので思う存分食べて下さい」
クタクタの私たちは、よろけながら夕食の置かれた台にお盆を持っていった。
「何から何まで悪い所がないよね」
心は長い台にズラッと並んだ食事を見て驚いた。
熱々の麺類から香ばしい香りのステーキ。
極上の海鮮料理や甘い匂いの様々な種類のデザート!
他にも数えきれない料理の種類……。
こんなにたくさん、私たちではとても食べきれない。
「ここは、なんでもありなんだな?」
鉄は苦笑いでピザを一切れ自分の皿の上にのせた。
「お金払わなくていいんでしょ? こんなに贅沢でいいと思う?」
真妃は不安そうだ。
「こんなに豪華に揃ってるんだ! 勿体ないから食べろよ」
鉄は相当腹を空かせていたらしい。どんどん皿にのっけていく。
「ホントよく作ったもんだ」
賢は感心している。
私も贅沢に食べよう……そう思い皿に料理をもった。
全員が黙々と食べ、沈黙が続いた。
30分ほどたった頃に心が沈黙を破った。
「ずっと気になってたんだけど……僕たちってどういう才能持ってるのかな?」
それは私自身も気になっていた部分だ。
本当にここにいる全員が特別なんだろうか。
「そうだよな、俺もよく分かんないけど……、何を基準にしてんだろ?」
鉄はポテトを口に入れながら言った。
「私思うんだけど、もしかしたらこの見学会も何か関係してるんじゃない?」
真妃が真剣な表情で言う。
「それどういうこと?」
私は真妃が言いたいことがよく分からない。
「つ、つまり、た、試されてる、という、こ、事ですよね?」
匠がボソリと言った。
「試されてる? 俺達が?」
と鉄。
「じゃあ、この見学会で僕たちの才能を試しているの?」
心の表情が曇る。
「私の勘だから……そうだとは限らない」
真妃が首を振る。
「でも、その考え間違ってないかもな。というか同感だね。用心しておいた方がいいような気がする。必ず何かあるさ」
賢は分かり切っているように言った。
「もう食事はすみましたか?」
教頭が音もなく現れた。
「まだ、何か見ないといけないものがあるんですか?」
鉄はあくびをしながら言った。
「何か不満でもおありですか?」
教頭が不機嫌になった。
「いえいえ、ただ今日一日長々と歩き回ったし、3日あるんですから……もう部屋に行って寝た方が明日のためにもと」
と鉄は言った。
「安心して下さい、歩き回りはしません。今からある部屋に移動してもらって、そこでラストです。」
教頭は鉄の意見に聞く耳を持たず私たちを冷たく見た。
私たちは今までで一番狭い部屋に案内された。
そこに6つ椅子が用意されている。
私たちは静かに座った。
この部屋は、何1つ不思議なものが置かれていなく、それどころかほとんど何もない部屋だ。
「少し待ちなさい」
教頭が部屋を出た。
「いよいよ何かあるかもね」
心はドアが閉まると同時に言った。
私たちは、それぞれに緊張感を漂わせて教頭を待った。
ガチャッとドアが開き、男がはいってきた。
明らかに教頭ではない……。
60代くらいの男で、目元に不気味な深い傷がある。
眼は鋭く、まばたきをほとんどしない。
スーツに身を包み私達の目の前に堂々と立つと、1人1人を見つめる。
私は目が合うとその不気味な傷に目がいき、思わず目をそらした。
6人全員を見た後、男は軽くうなずいて、深く頭を下げる。
「初めまして、私はジョニーだ!」
男はそう言うと鋭い目で私たちを睨んだ。
「そこは、笑うところだぞ? どう見たって私は日本人だろ? ジョニーって名前の訳がないじゃないか」
『…………』なんだこの人!
見た目と全然キャラ違う……。
「さてさて、本当の名は……明かさないとして、君たちの名前が知りたい。一人ずつ自己紹介してくれるか?」
この人は第一印象最悪だ。
「君からでどうかね?」
賢を指さす。
賢は慌てて立ち上がった。
「は、はい、賢と申します。えっと父は……」
「私は、名前を訪ねただけさ。君の父もよく知っている。結構結構」
男は頷いて真妃を見た。
「さあ、お名前は?」
真妃もゆっくり立ち上がる。
「真妃です」
そう言って頭を下げた。
「よろしい、真妃さん」
男は笑顔で頷く。
「君は?」
「しょ、匠です」
匠はサッと立つ。
「匠君か、よろしく。それで君は?」
「僕は心です」
心はちょこんと一礼した。
「なかなか礼儀正しいな心君。お名前は?」
男が私の方を見た。
「初めまして、みゆです」
私も慌てて立ち上がって頭を下げる。
「みゆさん……ふむふむ結構結構。最後に君が?」
「鉄です。あなたのお名前も是非とも教えて頂きたい」
鉄は落ち着いて立つと軽く頭を下げただけでそう言った。
「ハハハ、そうか鉄君すまなかったよ。だが、私が名を言わないことにも多少理由があるからね。知っているよ、君は用心深い少年らしいな? しかし、それはそれで素晴らしい事だよ。タイムガードになる上でその用心深さとやらも少なからず、ためになるだろうからね。」
男は温かな表情で鉄を見た。
それから、私たち全員をまた観察する。
「結構結構、賢君に真妃さんに、匠くんに心君、それからみゆさんに鉄君。君たちの名は今私の頭にインプットされたよ。さてさて、全員見る限りでは元気そうで才能も満ち溢れているようだ。今後に期待できそうなたくましさを感じる。前をしっかりと見つめる目も輝かしい」
男は満足げに頷いた。
「私は、君たち1人1人を把握しておかなければならぬ立場にある。安全を確保して見守るのも仕事のうち! 校長に託されている重要な役柄さ」
そう言うと賢の目の前立つ。
「賢君、好きなことはあるかね? 何でもいいよ言ってみなさい」
「え……好きな事ですか?」
賢はいきなりの質問に戸惑う。
「何でもいいぞ。例えば、そうだなぁマンガとかゲームとか」
「それなら……僕はオーケストラやオペラを見に行くのが小さい頃から好きでした。父の知り合いの方から招待されて、一番最高の席に座らせて頂き、美しい演奏や演技を見るのがすごく楽しいんです」
賢は自慢げに言った。
「ほほう、育ちが育ちだな! 好きなことも変わったもんだ。」
男は感心していた。
「好きな事があって、それを自信を持って口にできる! これは素晴らしい事だよ。これくらいの誇りや自信さえ持っていれば、強く生きていく力になる」
男はそう言って再び全員の目の前に立った。
「君たちにこの三日間で決断をしろとは言わん……。この仕事の危険性と犠牲については、よく知ってそれでも自らやり遂げたいなら入学したまえ。真妃さん、君はこの地球上の全ての人間のために死ぬ事が出来るかね?」
真妃は少し間を置いて
「そんな覚悟は完全には出来ていません。でも私は選ばれた人間であり特別な立場にあるんです。期待に答えるなら死を選ぶほかないでしょうね」
と答える。
「真妃さん、その考えはとても素晴らしいですね。ただ、いざその時になった時あなたは怖くなって、そんな考えは持てないはず! 今の状況とはかけ離れた瞬間でしょうし、頭は空っぽで恐怖心でいっぱいという状況だと考えられる」
男はキッパリとそう言った。
「なぜ、真妃がその時どうするかなんて分かるんです? 真妃とは初対面でしょ? 真妃はいつも真面目で落ち着いた奴さ、考えもしっかりしてる。状況が変わっても恐怖に打ち勝てる強い意志を持ってるかもしれないぞ?」
鉄は男に意見する。
「私は何百人と生徒たちを見てきた! 確かに真妃さんがその時どうするかなんて分からん。私はそんな能力持ってないしね。じゃあ聞くけど鉄君は仲間を犠牲にしても地球上の人間全てを守りぬけるかい?」
「それとこれとは、状況が違いますよね? だって仲間を犠牲にするくらいなら自分自身を犠牲にした方がいいだろ? ですから仲間を犠牲には出来ない。というか、俺ならそんな事しないね。自ら犠牲になる」
鉄は男にそう言った。
「なるほど、カッコいいこと言うな! だけども……この仕事は甘くない。仲間を犠牲にしなければならないこともよくある。もちろん自分もだ! そうやって命を落とした者たちはたくさんいた。そのくらいの覚悟がなくちゃ、やる資格はないだろう」
男は真剣な眼差しで言い切った。
「何か聞きたい事や相談があったら、私の所に来なさい。私は君たちを見守らなければならない立場だ、何度も言うがな……。私は今から仕事がある。もう遅いから君たちは明日に備えるといい」
男はそう言ってドアを開けた。
5人が部屋を出て私も後に続こうとした時だった。
「お父さんとお母さんは元気かい?」
男は私に問いかけてきた。
「父と母を知ってるんですか?」
「ああ小さいころからな」
「なぜ? 父たちもタイムガードだったんですか?」
「その事は今度話そう時間がないんだ!」
「今度っていつですか?」
「明日またここに来なさい。時間がある時でいいから」
男はそう言って別れを告げた。
「さっきの男の話を聞いた意味って何だ?」
鉄がきいた。
「よく分かんないけどたぶん重要人物で……だけど時間がないから、とりあえず挨拶に来たとか?」
私がそう答えると鉄は不満そうに
「何なんだよアイツ」
と呟いた。
私は正直あの人は何かを隠しているような気がした。
父と母の事を知っていたし、両親にも秘密があるらしい事が分かった。
「あの男性は、君達を担当する人なんですが今日は急用が入ったんです。ですから、私が代わって今日案内をさせて頂いた。あの方はベテランでして、空いた時間を利用し、わざわざ君たちに挨拶に来られたんです。」
教頭は部屋まで案内しながら言った。
私たちはそれぞれに案内されて自分の部屋に入った。
風呂に入って、今日見たことあった事を整理しながら布団にもぐりこむ。
気になることがありすぎてたくさんの事が頭をよぎったが、ぐったりと体が疲れきっていたので、いつの間にかぐっすりと夢を見ていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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