紅の衛生上心配すぎる料理!
ドスン、ドスン・・・
また、あの足音が鳴った。紅は叫びながら走り出す。
凛花の目の前で紅の大きな背中が揺れていた。
「鬼だ!逃げろ!」
紅が刀を抜きながら叫び続ける。
赤い髪の毛には汗が張り付いていた。
「えっ!!」
突然の出来事に頭の整理が追いつかない。
只々ひたすら足を動かし、音との距離を取って行った。
クラッ
急に目の前が暗くなる。頭の中がグルグルと回っている感覚に襲われた。
視界がぼやけ、言葉を発せない。
助けを呼びたくても呼べない。
頭を残った力を振り絞り動かし、紅の方へ向いた。
足音が止まったため、振り返り辺りを見渡す。
そして凛花の元へ駆けてきた。
(くれない……)
「おい!凛花!おい!」
耳の中へ紅の言葉が入り込んでくる。
返事をしたいが、体が重く口も動かなかった。
バッ…!、という音と共に凛花は体を起こした。
背中に当たっていた硬いものはなくなり、冷たい風が体を包み込んだ。
_____夢?今までのは……
ということは、仲間の死や鬼は《空想》だったわけか。
紅も、夢の住人って事になるのかな?
凛花は、ホッと胸をなでおろした。
「じゃあ、ここは家なのかな?」
と、思いもう一度寝転がろうとした時、手の下の冷たい物に違和感を感じた。
(ベット、こんなに硬くないよね…)
暗闇で何も見えないのだが。
仕方なく、雲から月が出るのを待つことにした。
10分ほどで月は雲を抜け、黄色い光を大地に落とした。
辺りを見渡すが、やっぱり自分の部屋ではない。
コンクリートの灰色の床に、トタンの壁。赤錆がつき、所々穴が開いていた。
扉には鉄製の物が使われ、鍵が掛けられている。
今いる場所は、倉庫なわけだ。
何に使う倉庫かは分からないが、段ボール箱があちこちに積まれ山ができている。
段ボール箱の印字は食品名が多かった。しかし、この倉庫の正体を示すものは見つからず、大きく溜息をついた。
ふと、見渡すと隣には、1人の男が横になっていた。
黒いコートを掛け布団代わりに、顔には帽子を乗せて眠っていた。____市村紅だ。
「なんだ……まだ、この世界に居たんだ、私」
何故か、安心する。グイッと伸びをして、凛花は手を枕に横になった。
まだ、3日しか経っていないがもう、1ヶ月逃げているような気分になる。
ギュルルル…
3日間何も食べていない。胃の中は空っぽ。そのせいか、少し吐き気がする。
なんで、ずっと寝てたんだっけ?全然覚えてないや。
腕を伸ばし横になったまま伸びをした。その時、手に何かが当たる。
カツン
「ん?」
指先に、固いものが当たった。その、『固いもの』の端に指を引っ掛け月明かりの当たる場所まで運ぶ____
光に照らされた硬い物は姿をあらわす。
「紅・・・ありがとう」
自然と笑みがこぼれた。恐怖しかないこの世界に、優しさがあった。紅は、凛花が寝てる間に食べられる物を集めてくれていたのだ。
その隣には、白いカードが置いてあった。
『食べて元気になれ。全員で『現実』へ帰ろう 紅』
書く物を持っていたのか知らないが、嬉しい。
凛花は、そのカードをギュッと抱きしめた。
「うん・・・帰ろう。紅。みんなで」
カードをポケットにしまうと食べ物を掴んだ。全てを月明かりに照らし、じっくり観察していく。
「フキだ!」
その他、ローズマリー、どこで盗んで来たのか白菜など。
どれも美味しそうな物ばかりである。
しかし調理しないと食べられない気がするのだが…
ヤレヤレ、無理矢理紅を叩き起こし、調理について問う。
「紅!ねぇ、食べ物。調理しないと食べられないよね?」
ゴロン、とこちらを向き大きく欠伸をする紅。
「………食べとけ」
・・・・生のままで野菜や植物を食べろだと!?
絶対お腹壊してゲームに支障が出るよ。
まぁ、そんな風に叫び続けていると紅は諦めたかのように、起き上がり術を使い調理を始めた。鍋を術でだし、火も刀を使い、出す。
ゴォゴォ、と燃える炎で野菜に火を通し、(いろいろ斬った)刀で刻んでいく。
「作業中、悪いけどその刀衛生上良くないと…」
「食べられればOK」と紅は話し調理をして行った。
しばらくすると、紅は皿に炒めた白菜を乗せて凛花の前に座った。
「白菜炒め」
「味付け無いし、炒めただけだし……美味しいわけないじゃん」
そう言いながら、口に運ぶとアレレ?アレレレ?
「美味しい」
紅は少しホッとした。ええ、まぁ思いっきり思いつきの料理ですし。
凛花の中にはイライラが募っていく。
なんで、美味しいの?
なんで、美味しいの?
「紅・・・食べたのかな?」
手に置いた皿に目を落とす。半分以上まだ残っている。
紅用に少し残しておくようにした。
「紅、ありがとう。まだ残ってるから、紅食べてないでしょ?」
「ん。んん」
無愛想だなぁ。面白くない。そして食べていないなんて、危ない。
食べさせなければ!
「紅、絶対逃げ切ろうね」
「あったりまえだろ。グカァ_____」
「今の寝言?起きてるの?」
紅の顔を除けば、まだ幼さが残っていた。
半開きの口が妙に気になるが、置いておくか。
紅って、ちょっとムカつくけどいい奴なんだよね。
「まぁ、好きだよ……」
(※誤解禁止。誤解禁止。誤解禁止。誤解禁止。誤解禁止)