犬猿の仲?
ナニッ!?と紅は目を吊り上げ、反論する。しかし、その反論もすぐに言い返されてしまった。
「俺がサボってるわけねぇだろ。遊んでたんだよ」
冷たい視線を送る凛花に、紅はブルリと体を震わせる。子供の視線って、大人の視線よりも痛いんだよなぁ。
「サボってるっていう意味で受け取ってよろしいですね?」
次の言葉に、返す言葉を頭の中の引き出しをあさりまわって、探す。
「遊んでなんかない!俺は・・・その、あの、えっと修行期間が短かったんだ!」
「怪しいです。なぜ、それだけの能力で卒業できたのでしょう?」
腕を組み、紅を凛花は睨んだ。それだけの能力しか持っていない男をなぜ卒業させたのだろう。紅は俯き、プルプルと震えていた。
「ちげーよ!」
ドスン、ドスン、ドスン___
重たい足音が、地を震わしプレイヤーを恐怖に陥れる。奴らが、襲ってきた。逃げなければ、餌食になってしまう。
「鬼が来たぞ!」
紅は黒いコートを揺らしながら、前を行く。刀を抜く気配は感じられない。
「紅さん?鬼を、足止め出来ますよね?30分」
知っている。勿論、彼が1分も止められない事を。30秒という、カップラーメンも出来上がらないような時間しか彼が止められないない事を。
「サッ30分!?」
俺、30秒しか止めれないんすけど。
「鬼よ、止まれ!」
と、叫びながら刀を抜く時間を稼ぐ。刀を抜き、頭の中で呪文を思い出す間もこのセリフを繰り返した。
「中二病ですか?」
横から小学生が、呟いている。
「技だよ!ワーザ!」
怒りながら、刀を振る。
「鬼よ、止まれ!」
「中二病ですよね?」
「ちげーよ!ゴチャゴチャ、さっきからうっせ~んだよ!」
「ムカッ」
凛花は、そう言うとしゃがんで、紅の足に細工をし始めた。足に何かをまかれたような感覚がある。そして、『重い』。
「おい、ガキ!何してんだよ!」
刀を下し、作業中の凛花の頭を掴み無理やり引きはがす。
「中二病、うるさい」
凛花は、細工をし終わると紅から離れた。そして後ずさりをして紅から距離を置く。
「おい!待て!一人じゃ危ね__!」
手を伸ばし、凛花を追いかけた時、カラカラカラカラカラ・・・と何かが地面を回転するような音がした。
「まさか、この音は・・・」
さっきの細工は、足に空き缶をくくりつけていたようだ。歩けば、音が鳴る仕組みだ。
「おい!凛花!音!音!鬼に見つかるだろ!」
「死ね」
死んだ魚のような目で紅を眺めている。
「仲間に向かって、年上に向かって何言ってんじゃい!」
腕を振り上げたが、直ぐに腕を掴まれ背中に回されてしまった。
「お前が死ねば、世界の中には喜ぶものがいる」
「それ、お前の事だろ!喜ぶ奴って!おめーしかいねーよ!」
「うん」
「うん!?てか、この缶、どうやって集めてたんだ?」
凛花は、顎でクイクイと何かを指した。きっと、その先に何か手段があるのだろう。
「てめぇ」
本当に最悪だ。凛花が差したのは、プラスチック製の大きな四角い箱。
全てのものが最終的に行くところ___ゴミ箱だった。
「汚いだろ!ゴミ箱から出してくるとか!!」
「どうせ、死ぬんだ。先に死んだ方が楽だとは思わないか?」
「思わねぇーよ!俺は、死なない!てか、話噛み合ってない!」
「生きてどうするんですか?」
「そりゃ・・・」
「修行して腕を磨くんですね?」
また、血管がブチギレル。ガキは、ウザイウザイウザいウザいウザい__
「その事に触れんな!」
刀を抜き、凛花の頬に刃を当てた。脅しである。
「触れます。あと、それ銃砲刀剣類所持等取締法に引っかかりますよ」
刃を手で押し返しながら、サラリと話す。
「ったく」
ドスン、ドスン、ドスン____
「鬼だ!逃げなきゃ!」
凛花は、紅を置いて素早く身を翻し、走り出した。紅は刀を納め、石垣の上を走っていく。
「置いてくなぁ!!」
「知らない」
「ぶっ殺すからな」
「刑法199条。殺人罪。死刑または、無期若しくは5年以上の懲役です」
なんで、こんなに詳しいんだよ。このガキ。