師匠
「なにそれ!それじゃあ、犯人は一向に分からないままじゃない!」
ガルルル、と碧は唸り紅を睨みつける。
「俺らが犯人を捜すなんて不可能だ。警察に任しとけ!」
「このど田舎に警察はいません!お巡りさんさえも居ないのよ?」
うー、と紅は唸ると碧を見る。
碧はあぁ?、と声を出して服の襟を正し立ち上がる。
「よし!お散歩行ってきまーす」
「おぇ!?怪我はどうするんだよ!?」
ギリッ、と碧は紅を睨むと「大丈夫よ」と叫んで部屋をズカズカ、と出て行った。
ポカーン、と拍子抜けしたまま紅はその場から動くことができなかった。
本当、めんどくさい奴。
「ん?碧、散歩行ったの?元気になったんだね!」
「あぁ、元気過ぎてほんっと、腹たつわ。アイツ」
翠はニコニコしてパンに噛り付く。
パリッと外側が音を立て、小さな皮が落ちていく。
紅もパンに噛り付き、顔色をサァアアアアアアア、と変えてしまった。
「翠!まさか………これは……」
「あぁ、クリームあんパン?」
「なんで、クリームパンとあんパンを混ぜるんだよ!こいつとこいつはバラバラに食べるべきなんだよ!」
「しらねーよ。でさ……犯人についてなんだけど」
紅は愚痴を溢しつつも、クリームあんぱんを口の中に放り込む。
噛まず、飲み込むと今度は顔を真っ赤にしてバタバタ、と暴れたり喉を叩いたりしている。
あ、詰まった。
*
「犯人が誰なのか、全然分からないんだ」
「あったりめーだろ」
「いや、見当はつくんだよ。でも……証拠がない」
「ケントウ?」
翠はうんうん、と頷きながらパンを齧る。
パリッと心地よい音がまた、響く。
「きっと、師匠なんだ」
「知ってる」
翠はえええええ!、と叫んで紅を見る。
ポロッ、と地面にパンが落下する。
「俺らはみんな、師匠が犯人だって思ってる。
でも、お前の言う通り証拠がないんだ。
そして、俺にはもう時間も無いんだよ」
そっか、と翠は呟くと足元の木の枝をとって土に文字を書く。
何を書いていたのか確認しようとしたが、すぐに靴で消されてしまう。
ザザッと砂の波に文字は飲み込まれていった。
一体何を書いていたのだろう。




