パン屋の剣士さん
「あー!サ、イ、ア、ク!」
紅はポカーン、と歩いていく碧を目で追っていく。
ドスドス、と畳を伝い、音が響いてくる。
でも、やっぱり________
ドスッと碧は廊下に出た時、体が床に倒れてしまっていた。
紅はハッ、と碧に駆け寄り頬をパシパシ、と叩く。
「おい!さっきまでの元気は何処行ったんだー!」
「うるさい!単細胞は黙って!」
ガッ、と紅の腕を掴んで足を掛けてドサッ、と廊下に叩き落とすが、紅は落ちる寸前に碧の足に自分の足を掛けて道連れにする。
ダンッ、と同時に廊下に2人は落下して痛みに顔を歪めながらギロリと睨み合う。
横を見れば、直ぐそこに憎い紅の顔がある。
ダッと起き上がって距離を取りながら碧はベー、と舌を出して廊下を駆けていった。
「倒れてもしらねぇぞ!」
「倒れるわけないでしょー…………______」
ドサッ、と碧はまた、廊下に力を失って倒れこむ。
紅は呆れながらペタペタ、と廊下を歩いて碧に肩を貸すと碧の部屋へ戻っていく。
ドスッンと布団の上に体を投げると碧の両頬を摘んで横へぐいぃー、と引っ張って。
「ほら、倒れた。今みたいな感じで試合中に倒れてみろ!負けて、本当の戦いなら死んでるからな!」
ムスゥ、と頬を碧は膨らませると布団の上でバタバタと手足を動かして暴れ始める。
布団を引きちぎり、羽が宙に舞っていく。
2人の間を白い羽がチラチラ、と雪のように落ちていく。
「せいぜいリハビリで、パンでも焼いてろ。単細胞」
「それはお前だ!この単細胞!下手くそはパン焼いてろ」
「俺は天才〜」と紅は手を振って去っていった。
紅が居なくなると、シュー、と空気が抜けた風船のように小さくなっていく。
布団の上で蹲って膝の間に顔を埋める。
下手くそ………正しいよなぁ。
碧は体を起こして、真っ白なシャツに着替えると紅が歩いて行った方向とは反対の廊下_________
紅の奴、何処へあるへ歩いて行ったんだ!
出口はこっちだぞ!?
あいつー、普段は普通なのに何かに夢中だと方向音痴でるよなぁ!
「紅ぃぃぃぃぃぃぃぃい」
_____________________
「んで、碧は本当にリハビリでパン焼いたんだ」
「だって______」
碧は生地をこねながら、翠をチラリと見る。
口にロールパンを咥えてニコニコと笑う。
薄い黄色の生地を千切って伸ばしながら、大きく溜息を吐く。
「あー、溜息パンは食べたくないなー」
ハッ、と入口の方を見ると紅が店のドアを開けて入ってきている。
「うるせぇ!お前だろパン焼けっつったの!」
「それを本当にするなんて、お前馬鹿か」
ギャオギャオ言い合いながら、また1日がすぎていく_____