見えました
「あっ………」
目が覚めると、いつの間にか道場へ帰ってきていた。
どうやら手術が行われて________あれ?記憶がない。
でも、確か退院してから………。
あれ?
「あっ!碧……目、覚めた?」
目の前では紅がパンを片手に笑顔を向けていた。
あ………。
私、生きてるんだ。
ふと、腕を見ると切断面は包帯が巻かれている。
血が少しだけ滲んで、痛みがある。
「………腕」
「腕の一本や二本なくなったって、生きてるんだからいいだろ?」
アハハ、と紅は笑う。
でも腕がなければ戦えない。
不利になるんだ、負けるんだ。
「ダメだよ、私は負けたくない。そして相手が、私の腕を見て手加減とかしたら本当の戦いじゃない。嫌なのよ………」
「うるせーなー。ゴタゴタ、言ってねぇで生きてる事に感謝しろっつーの」
あぁ?、と碧は声を出しながら、「お前は無傷でいいなぁ!」と叫ぶが………。
紅は指を伸ばして、自分の目を指す。
「視力落ちた。Aだったのに………」
「うるせぇな!視力なんて失明してないからいいだろ!」
バッ、と碧は布団を跳ね除け、体を起こして紅に飛び掛る。
紅はパンを口に放り込んで、頬をリスのように膨らませる。
体は宙を舞って目の前は天井が広がっていた。
投げられた………!
慌てて体勢を立て直し、畳の床に手を付いて紅を睨む。
パン食いに、負けただと!?
「視力落ちたら、相手の動きが見にくくなる」
「動きなんかで相手を確認すんじゃ、ねぇんだよ!音と殺気だろ!」
うぎゃあああゝ!と碧は叫びながら紅の首に向けて蹴りを入れるが、やっぱり足を掴まれてそのまま、畳へ落とされてしまう。
腕がないから、バランスがうまく………取れない。
身体中に激しい痛みが響いてくる。
畳に擦れた頬は赤くなり、跡がつく。
「はうぅ、くぅ……」
頬を撫でながら碧は体を起こして、立ち上がり布団の中へ戻っていく。
「もう、剣士やめようと思ってるんだ。だからさ………」
「お前さ、辞めたら何も特技なくね?」
カァァァ!と頭に血が昇ると碧はムキャアアアアと叫び、紅に……飛びかからない。
どうせ飛びかかってもまた、倒されるだけだ。
でも、特技がないのは確かだ。
否定できない。
「わかったわよ。辞めませーん!さ、道場道場」
碧は着ていた服を脱ぎ始めて……ん!?
「は!?何やってんの!?」
「サッサと出て行け!道着に着替えるから!」
ドカッ、と蹴られて紅はゴロゴロ、と転がっていく。
畳の上をサッカーボールのように進んでいく。
そしてそのままピシャッ、と襖が閉じられ目の前には襖が広がる。
白い壁……あ………なんで、こうなった?
俺、なんで蹴られないといけないの?
その時また目の前が広がり道着を着た碧が目の前に現れてまた、蹴りかかってくる。
バッ、と足を掴んで倒そうとするが今度は掴んだ右足とは逆の左足が飛んできて顔面にドガッとヒットする。
「いったぁい……!」
「あー!何処まで見えた?」
紅は鼻血を拭きながら、えっと……、と声を出してさぁ?、と曖昧に答える。
本当の所はバッチリ見えましたけどー!
碧ははぁ?、と声を出して本当は全部見たんでしょ?、と問う。
いやぁ、確かに見えましたよ。はい。
でも、正直には言いません。
「いやぁ?さー?どーかなー」
「あああああ!紅が居ること忘れてター」
俺、そんなに存在感ない?




