悪夢の始まり始まり
オレンジ色の薄いカーテンの隙間から朝の日の光が眩しく差し込む。
雀、だろうか。小鳥の囀りが耳に響いた。
今日も、新しい1日がやってきた。生まれたばかりの新しい1日。
いつも通りの平凡な生活が始まる。普段であれば、特に、することもなく部屋の真ん中で、テレビを見たり、音楽を聴いたり……
凛花は重い体を、ベットから起こし、カーテンを開ける。窓を開け、心地良い風を部屋に招き入れる。服を着替えて、脱いだパジャマはベットの下に隠す。
さぁ、新しい1日の始まりだ。窓を開けた後は、またベットに戻り、ヘッドホンをして、お気に入りの音楽を聴く。
_______いや、始まらなかった。
1つのアナウンスが、様々な人間の人生を狂わして行く。
『恐怖のゲームを始めましょう!』
そんな、アナウンスが家中に響いた。その声は、楽しそうで、ワクワクしているような…中藤凛花は、ベットから起き上がった。もしかすると、妹が変なアニメでも見ているのだろうか。それともまだ、夢の中なのだろうか。
『今から、恐怖のゲームを開始します。ゲームの内容は、ただ鬼から逃げるだけです。もし、捕まり5日いないに誰も助けに来なければ檻が潰され死にます。では、スタートです!』
「何!?ふざけてるの?」凛花は、疑った。
こんな、非日常的な事、信じれるわけがない。
しかし、その考えをグチャグチャに打ち壊す『キャー』という甲高い悲鳴が聞こえた。
この甲高い声は、間違いなく妹、涼香だった。
普段から、聞き慣れた声は、瞬時に涼香のものと、分かった。
部屋の扉を少し開け、外の様子を伺った凛花の目に信じがたいものが飛び込んできた。
「嘘・・・」
赤鬼が、金棒で震える涼香を殴り続けている。
殴られた涼香は、ピクリとも動かなくなってしまった。
しばらく鬼は殴り続け、そのあとは麻の袋に詰め込み重たげに担ぎあげた。
凛花は恐怖に足がすくんだ。その時、鬼は凛花を見つけこちらへ駆けて来た。目に涙を浮かべながら凛花は扉を閉め、鍵もかける。
ガタガタ・・・ガコッガコッ
扉が、揺れる音がする。けれども、まだ鍵は壊されていない。
涼香はどうなったのだろう・・・殺された!?あれ、殺されたの?
ブンブン、と首を振り頭の中の嫌な考えを打ち消した。ありえない、ありえない。ただの遊びでしょ?
しかし、今考えるべきなのは部屋の扉が壊されかけている。鍵も、もうすぐ外れてしまうのではないだろうか……ガタガタ・・・
扉がぁぁぁ!もうだめだ・・・扉が、開いてしまう。死んじゃうんだ。もう、生きられないんだ。
「シッ!」
いきなり誰かが、耳元で声を出した。隣から、荒い呼吸が聞こえてくる。自分以外の・・・背筋が凍るような気がする。しかし、その恐怖は次の一声で消え去った。
「俺だよ!颯斗だよ!」
声変わりのせいか、少し大人っぽく感じる。昔は、高かった声が少しガラガラ声になって低くなっている。昔の方が、可愛かったのに……
「田村颯斗?」
田村颯斗は、幼馴染だ。幼稚園からの付き合いで学校も同じ。家も近所で小さい頃はよく遊んでいた。が、最近はいろいろ習い事が二人とも忙しくなり会えていない。
「そうだよ。今、アナウンスあったよな?《恐怖のゲーム》ってなんだよ!」
「なんで、あんたがここにいるわけ?」
颯斗の質問に答えるよりも先に、凛花の方が質問を返した。
「ん?今日、回覧板を届けに来ただけ。それで、帰ろうと思ったときに・・・。おい、妹は?てか、俺が質問してるんですけど」
凛花は申し訳なさそうに顔を下げ、「涼香は、捕まった。鬼に。」と話した。すると、慌てて颯斗は叫び続ける。「5日以内に助けないと、死ぬんだぞ!はやく____」
颯斗の声をかき消すかのようにバン、と音がして部屋の扉が破壊されていた。
「ヒッ!」
凛花が短い悲鳴を上げた。颯斗は、ため息をつき、
「俺が、鬼を引き付ける。その間に逃げろ!」
そう指示をした。凛花は、もう放心状態。涙目になりながらいつの間にか颯斗の背中に自分の背中を押し付けていた。
「颯斗は?」
「俺は、多分死ぬ。どうせ、勝てねぇ。お前は逃げ切れ!まだ、仲間はいる!」
「そんなの嫌だ!2人で逃げようよ!」
凛花の目に涙が浮かんだ。
「2人で逃げるのにはリスクがある。見つかりやすい!だから・・・」
一瞬、颯斗の顔が曇った。凛花は颯斗の顔を覗き込む。
「颯斗?」
「俺は、大丈夫。さぁ、今のうちにそこの窓から!」
颯斗は、押入れの扉を開け凛花を押し出した。目の前には、半開きの扉がある。背後からは鬼が襲ってきていた。
「颯斗も逃げて」
ピピピピ・・・
「何の音?」
凛花は、颯斗に問いかけた。颯斗は押入れから顔を出し、凛花の後ろの方へ目をやる。そこには時限装置付きの爆弾がドッシリと身を構えていた。
「爆弾だ!早く!」
凛花は、恐怖に震える足を先に出すと、窓から外にピョンっと飛び出した。屋根を滑り降りて行くのは、スリル満点!ガコンガコンと、音を立てながら屋根を滑って行きそのまま庭へ。そして、一度玄関を開けて靴を履き、そして、道路に出た。庭の門をしめた、その瞬間!
ドカァァァァァン!
目の前が、白く光った。それと、同時に油のような匂いが、風に乗って凛花の元まで運ばれてきた。熱風に顔を歪めながら、手で顔を守る。
「イッ家が・・・」
家が赤い炎に包まれた。我が家が、黒く炭となり崩れ落ちていく。窓から覗く凛花の部屋も赤く染まっていた。ガラガラと音を立てて、家は崩壊して行く。真っ黒に焼け焦げた、木材が目に入ってくる。
「嘘だ…………颯斗!」
必死に颯斗の名前を叫んでいた。あの爆発で、普通の人間は生き残れないだろう。が、希望を胸に颯斗の名前を呼び、待ち続けた。その時_______
炎の中から、「あっちい」と叫びながら、黒い人影が飛び出す。______颯斗だ。
生きてたんだ……
顔中、真っ黒だけれども、生きてた。服は、特に変わってないかな?
「早く、逃げよう。ここももうじき、炎が回ってくる」
いつのまにか、隣に着地していた颯斗は、スニーカーの靴紐を直しながら話す。顔を服の袖で拭きながら、立ち上がった。
「何なの・・・このゲーム。そうだ、涼香は?」
凛花は、思い出したかのように颯斗に問いかける。妹を忘れていて、申し訳なく思う。
「こことは違う、何処か特別な施設に閉じ込められてるはずだ。俺に聞くな」
「ごめん。それは・・・」それでも、聞きたい。
「この町の中心となる建物_______教会あたりが怪しいかもな」
颯斗は、西の方角を向いた。西の方向に、教会があるのだ。教会はこの風ヶ丘で、1番大きく、中心に建てられたシンボル的存在。
「教会!?」
「ああ、でも、必ず助け_______」
「鬼!」
路地から赤鬼が現れた。見上げても、頭が見えないほどの大きさだ。あゝ、首が痛い。赤く木の幹よりも太い足でこちらに向かってくる。ありえない、空想上の生物が、何故ここに。
「俺が囮になる!俺が捕まったら、鬼は少しの間停止する!その間に何処かに隠れろ!」
凛花は、ばっと目を見開いた.
「嫌だ!」
キッパリと言い放ち、颯斗の首を掴む。
「誰か、仲間を探せって。何処かで逃げてるだろ?俺らだけのわけ、ないから」
「颯斗!自らを犠牲にするのは、良くない」
颯斗は、唇を噛んだ。
「俺だって・・・嫌だ!死にたくない!誰も助けに来なければ____。それに、このままだと、全滅だ」
「分かったよ。助けに絶対行くから!5日以内に絶対、颯斗を助けに行くから!」
私達は、ゆびきりげんまん、をして別れた。
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助けに行かないと・・・教会に行けばいいんだよね・・・他にも助けないといけない人がいるんだよね!教会、教会、教会・・・確か、町の中心ーー頭の中で颯斗のいった言葉を繰り返す。
ドスン、ドスン、ドスン・・・。この足音、もしかして___ 「中藤凛花、みぃ~つけたぁ!」
不気味な声で、鬼は言葉を話した。「鬼・・・」(教会へ走らないと!!)捕まったら、そこで終わりなんだ!!!喰われて、即死だ。パタパタパタパタ!私の足音だけが、この世界に響くって、私だけじゃない!ドスン、ドスン!重い、足音_____(鬼が来てるぅ!颯斗ぉ!絶対助けにいくからァァ!)
バコンッ!アイタタ……凛花は、顔を真っ赤に腫らした。痛い部分を撫でながら目を動かす。
何かにぶつかったーーーー白い壁。見上げれば、十字架がみえる。
「教会だ!」
教会に着いたんだ!鐘の音がする。こんな時でも、鳴っているのか。そうだ、扉を開けるんだ!ガタン、ガタン。硬い扉は、前後に動くだけ。?何で開かないの?そうか、内側から、鍵がかかっているんだ。
「開けて!開けて!開けなさい!」命令口調になりながら、叫び続ける。ガコッ!内側から鍵が外れる音がする。しかし、重心を傾けたままだった凛花は転倒してしまう。
ドスン!
地面が、揺れた。まぁ、それは言い過ぎだけれど。そこまで、体重重くないし、鬼レベルの揺れでもない。軋み、嫌な音を発しながら、扉は静かに開いた。
(いったい!やっと開いたよ!コケちゃったし、最悪!)
「やっと、来ましたか_______」
呆れたような声がした。溜息交じりの失礼なセリフ。
「えっ!」
『待ってましたよ?凛花さん。』
「誰・・・」
今までに、聞いたことのないような声_______地の底から響くような、アニメでいう悪魔的な存在の声のようだった。