蝉
「なにが、終わらない?」
《だーかーらー、まだゲームは終わってない。私が生きているから。さっき死んだのはレオウの置き土産。私の、人形だから!》
支配人はその声の発生元を慌てて探し始める。
凛花は口の端を吊り上げ、閉じていた目をユックリと開けていく。
手には、王宮の警備室で見つけたトランシーバーが握られている。
そして支配人の視界の端、王宮の屋上にもう一台のトランシーバーが置かれていた。
「しぶといな……!!」
《あたしが死ぬわけねぇだろーが!バーカバーカ!》
トランシーバーからハウリング音が聞こえてくる。
顔を顰めながら、支配人は笑い、
「なら、今からここへ来い」
《行くかバーカ!どうせ、殺してゲームオーバーにする気でしょー?》
勿論、そのつもりである。
「ならば、どうする気だ?こんな事してなにをするつもりだ?」
《意味は無いよ。今、このゲームの参加者は何人になってる?》
「把握してないからな……お前だけだろう」
凛花は窓に手を当て、支配人を睨みつける。
ギリッ、と奥歯を音を立てて鳴らし、窓に手を当てる。
手に力が入る度に、窓が地震がきたかのように揺れ、音を立てる。
「私、だけか……とうとう」
《これから、どうする気なんだ?》
「もう、疲れちゃったよ。帰ったって、家にはもう、誰も居ないんだから」
家族はもう、鬼によって___________
そして、帰るべき家は火災により焼失してしまっている。
「だれも、待ってくれてない。帰りを」
帰っても、住む所もない。
待ってくれてる人もいない。
《なら……死ぬのか?》
その言葉は重たく、暗く……。
心に張り付いていく。
皆と同じ所に行けるのだろうか。
「逝けるのならば、ね」
《そうか……まぁ、もう道は無い。死か、翠の故郷へ行くか》
「もう、翠たちには逢わない。翠たちとはこの世界だけの………」
《つまり………》
「私は死ぬよ」
ペタリッ、と床に座り込み壁にもたれかかる。
「さっき、死なないって言ったけれどあれ、嘘だわ」
《………》
凛花は大きく溜息をつき、手元に置いてあった黒い悪魔、拳銃を手に取る。
弾丸は、一発分。
弾丸を込め、引き金に手をかける。
《本当は私が殺すつもりだったのに》
支配人は詰まらなそうに頭を動かす。
「美味しいところ、貰っちゃった♪」
凛花はそう、笑って指に力を込めた。
発砲音がして、窓に赤い点が浮かび上がっていった。
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「翠!焼けたー?」
「はいはいー!うわぁ!また、焦げた!」
翠は手に持った黒い盆に乗った真っ黒焦げなパンを悲しそうに見つめる。
その後ろからニョキッ、と茜が顔を出す。
顔に小麦粉をつけながら、頬を赤く染めてパンを見つめる。
「んじゃ、今日の昼食は焦げパンだな!」
茜は翠の手から焦げパンを奪い、口の中に詰め込む。
「ほひ、はふはふほー!」(よし、頑張るぞー!)
翠は苦笑いしつつ、もう一度パンを窯に入れてじっと、パンを見つめる。
しばらくすると、窯からは美味しそうな匂いが漂い、二人のお腹がパンの催促を始める。
茜は頬を膨らませ、パンを飲み込みながらキッチンを掃除していく。
「翠!剣術はやめたの?」
「必要ねぇからな!よし、店閉めて行くか!」
茜は大きく頷き、エプロンを外すと店のカウンターに置かれた花束を手に取り翠の後を追いかけていく。
二人は店を出てすぐの、坂を登り木が生い繁る林の中へ入っていく。
翠の手にはパンが入った紙袋が下げられている。
茂みを抜けると、光が差し込み、目の前には崖が広がり、芝生が目に入る。
そしてその上に灰色の石が2つ、置かれていた。
「市村紅」
「千光寺碧」
その2つの名前が石に刻まれていた。
「今まで、ありがと。決着、付かなかったな。でも………お前の勝ちだよ」
茜は花束を盛られた土の上にそっと置き、手を合わせる。
その時、土が蠢きいきなり土の中から何かが飛び出してくる。
それは、蝉、だった。
そして天へ上っていく。
太陽の光に照らされて、蝉の羽は煌めきダイヤモンドのように光った。
蝉が出てきていきなり飛んで行けるなんて、ありえないですね。




