毒使いの茜と翠
そして、颯斗。
気がつけば______迷子になっていた。
広い宮殿内の今、何処にいるのかさっぱり分からない。
どこも同じような家具が並び、まるで大迷路。
振り返れば、先程倒した兵士がもう、起き上がっている。
「うわぁ!襲って来るんじゃなくて、道案内してくれる兵士なら良かったのにぃ!」
と、叫びながら右手を出し、獣化させて兵士に立ち向かう。
兵士はヨロヨロ、と体を揺らしながらこちらへ歩いてくる。
身体中から血が流れ、顔色はとてつもなく悪い。
「気持ち悪りぃ」
まず、一体がこちらへ飛んでくる。
瞬間移動したかのように1秒も経たずに目の前へ現れ、殴ろうとする。
今来た一体以外、剣や32口径のピストルを手にしている。
颯斗は後ろへ飛び退き、ゾンビが瞬間移動する時を空中で飛び上がったまま待つ。
そして、その時はすぐにやってくる。
ゾンビは颯斗との距離を縮めようと、瞬間移動を使った。
瞬間移動した先は颯斗のすぐ目の前。
しかし、颯斗は笑う。
黄色い壁に手を当てた後右足を大きく横に回し、ゾンビを窓の外へ蹴り飛ばす。
バリィーン、と大きく音を立てガラスが粉砕し、ゾンビの姿は消えていった。
残り、2体。
翠はその頃庭を歩いて大きな白い渡り廊下の下を通り、右手の窓から中へ入る。
そして城内を歩き、敵を探す。
なぜか、翠が通る時だけ兵士は現れない。
シーン、と静まった廊下に砂埃が舞うだけ。
「誰もいない……」
刀を抜いて歩いていくが、使う場面は一切ない。
何なんだ、俺は敵運がここまで無かったのか。
その時、パラパラ、と天井から砂埃が落ちてきているのが見えた。
次第に砂埃の量は多くなり、天井にヒビが入り始める。
「落ちる!」
翠は刀を横に振り、天井の部分に空気を集めたネットを作り出す。
すると、天井はあっという間に崩れ落ち、黄色い天井は跡形もなく消え去った。
丸く空いた天井から覗く上の階。
翠はネットを消して、刀を仕舞い、瓦礫の山を登って穴から顔を出す。
シュンッ………
いきなり頭の上を斬撃が飛んで行った。
水色の光は消え、砂埃が舞い上がる。
「誰だよ、そこに居るのは」
白い煙が立ち込める部屋に誰かが立っていた。
まだ、子供のようだ。
色は確認できないが帽子を被っており、濃い紫色のマフラーを首に巻いている。
足元は裸足で足枷が付けられていた。
鎖は切れており、歩くことは出来るよう。
砂埃が消えていくと、姿は見え出した。
整った顔立ちの短い短髪の緑色の髪をしている。
頭にはやはり、白い帽子を乗せて。
帽子には猫耳が付いている。
紫のマフラーは風になびき、数メートルもある長いもののよう。
「そこで何をしている」
少年は翠を見て険しい表情で話す。
翠も眉間に皺を寄せ、天井の下で刀を抜く。
少年には頭だけが見えているはずだ。
「お前らが天井を落としたから、頭出して何があったのか確認しただけだ」
そうか、と少年はつぶやきイキナリパシンッと両手を合わせ、何かを呟き始めた。
「お前は王国軍か?反乱軍か?」
少年はそう翠に問い掛けた。
翠はどちらでも無い、と答え上の階へ体の方も上げる。
「私は反乱軍だ。どちらでもないならば、危害を加えることはない」
少年は両手を話し、体の横でブラブラと揺らす。
見た目は10……5.6歳辺りだろうか。
「そうか、良かった。俺は翠」
「名前を名乗る必要があるのか?まぁ、良いだろう。茜だ」
アカネ、か、女みたいだけど見た目は____どちらにも見える。
女でも、男でもどちらでも通用する美形だ。
猫耳の茜はどういう戦闘方法をするのだろう。
まぁ、反乱軍で良かった……。
王国軍であればすぐに襲って来るからな。
「そうそう、俺は刀で戦う」
茜は興味深そうに大きく頷く。
そして茜も、
「私の戦闘方法は、こうやって両手を合わせて______」
茜が両手を合わせて何かを唱え始めると、硬い床から紫色の炎が放出され、その炎に茜が手をつけると茜の腕が紫色に変色する。
すると、ブワッと音がなり、茜の腕はマグマのようにブクブク、と音を立て、泡を出す。
「こうやって、腕に毒を纏わせこれで相手を殴る」
「すげぇな」
ハー、と大きく口を開いて茜の腕を見る。
ドロドロ、としている毒は紫色の炎によく見れば包まれていた。
そのため、腕からは毒ガスが出ている。
「これ以上このままであれば、翠に被害が及ぶ_____」
ブンッと茜が腕を振ると、毒は消えて無くなり華奢な腕が袖口から伸びていた。
そして先程毒を纏った腕とは反対の腕を翠に差し出した。
翠もその腕を掴み、握手する。
「私は君に協力する」
「おう!俺もお前に協力する」




