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もう居ない

「あっ・・・!」

颯斗は、背中に紅を背負っていたことをトウジの騒動ですっかり忘れていた。「ごめん!」と凛花に謝り来た道を引き返していく。凛花はその場で休むことに。


重い紅を引きずるような形になりながら、森の中を抜けてあの場所へ帰っていく。するとそこには、なぜかトウジと翠の姿があった。


「さっき、逃げたんじゃねぇのかよ」

と小声でしゃべりながら、地面に紅を下す。

「颯斗っ!それ!」

翠は駆け出していた。紅に向かって。そして紅の前に立つとその場に崩れ落ちていた。


「・・・・・」

トウジは俯き、黙り、颯斗も近くの岩の上に座っていた。

「紅、お前、なんで____」

動かない魂の入っていない人間の形をした人形マリオネットに、翠は話しかけ続ける。煤だらけの顔に涙を落としながら。


「紅、先に逝くなよ・・・」

「まだ、勝負の決着ついてねぇよ」

「なんで、お前逃げなかったんだ。意地か?」


などと話しかけ続ける。

しかし、答えは返ってこない。


「凛花、に聞けば紅の最期も知ってるかもな」

颯斗が膝を抱えた格好で、ボソリと呟く。しかし、翠は首を振った。予想外の反応に颯斗は戸惑いの色を隠せない。


「ライバルの最期は、みたくねぇのか?」

「あぁ、紅が見せたくないと思う」


「そうだよな」と颯斗はつぶやくと、岩の上から飛び降り茂みの中に消えていった。一人になった翠は、また紅に話しかける。


「絶対、生き残って故郷へ一緒に帰ろう。、のはずだったんだけど、もう「故郷へ帰ろう」でいいか」


そういって、翠は紅の横にゴロリと寝転がった。翠の瞼の裏には、故郷の映像が流れていた。そこには碧の姿もある。

____________


紅と、翠と碧の3人で田圃道を走る。稲の刈り終えたオレンジ色の畑が広がっている。


虫の音が耳に聞こえてくる。


また、場面が変わり3人は釜倉の中で蜜柑を食べている。おいしそうな夕食の匂いが漂い始めると、全員家へ帰っていく。


3人の走って行ったあとには小さな足跡が出来た。


春が来ると、土手でフキノトウを摘んでいる。そこで碧が滑りながらもフキノトウをカゴに詰めていた。


また夏がやって来ると今度は、崖の上から3人で飛び降り川に飛び込んでいた。


「だれが、一番水しぶきが上がった!?」

碧が顔をTシャツで拭いながら皆に話しかける。

「俺だな!」

と、紅が手を挙げた。翠はただ、ニコニコと笑う。

「これじゃ、決着つかないよ」

碧が不満そうにしていると、翠は川の中から顔を上げ、

「魚がいるよ!」

と叫んでいた。すると碧はいきなり笑顔になって水の中に体を沈めた。


水中には、たくさんの魚が泳いでいる。


「うわぉ!あれピラルクじゃねーか!」

「紅、ピラルクはこんなところには居ないわよ」

「んじゃ、雷魚かな?」

「どうせ、鯉でしょーが」


碧が水中に顔を付けた時、目の前を体に赤い斑点のある巨大な魚が通って行った。

慌てて碧は水面から顔を上げ、


「伝説の魚が、とおったぁ!」

と興奮していた。




______________


「おっもしれーな。なぁ、紅!そう思う・・・」

翠の笑顔は、固まってしまった。

「喋って、くれね~のか」

頭を掻きながら、翠はもう一度目を閉じた。


出来れば、あの世界に住みたいよ。

俺も、お前のいる世界に連れて行ってくれ。

碧に会わせてくれよ。


翠の頬には涙が伝っていた。

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