怠け者の能力
翌日、太陽が空に登る前。早朝に凛花達は起床した。
外を見れば、霧があり鬼が姿を隠してしまう為、霧が無くなるまでは倉庫で待機することにした。
「紅・・・もう独りぼっちにしないで……」
屋根の穴から顔を出し、外を見渡す。地上より数十メートル高い屋根からの景色は全く違う。普段は見えない景色を見ることができた。
「お前なら、何回も一人ぼっちなんだから大丈夫だろ?」
足元から紅の声が聞こえた。冗談半分のセリフでも頭にくる。
穴から顔を抜き、下を見下ろす。そして叫ぶ。紅より偉くなった気がして、その日は一番滑舌が良かったと思う。
「んな訳ないじゃん!大丈夫じゃないから言ってんのに!」
口からスルスルと言葉が出て行った。
あり得ないほど、言葉が溢れてくる。
紅はスッカリ怯んでしまい、顔のパーツを中心に寄せて感情を表現していた。
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「おっ鬼が来た!」
いきなり、紅が凛花の目の前に飛び降りてきた。
あの穴から外の景色を覗いていたのか…
「本当に来たの?」
「本当にきた」
紅は額から汗を流しながら、慌てている。
ドスン、ドスン、ドスン_____
地面が揺れ、体が跳ねる。
あの音が耳に入り、今までの音との一致して、脳に伝達された。
「鬼だ……」
凛花は、ピタリっと停止してしまった。(なんで、動かないの!?)
足が地面に吸盤のように吸い付けられて動かない!
(これを、足がすくむって言うの?なんで、こんなときに)
自分に苛立ちながら、足を動かそうとするが全然動かない。
動けない。まるで、石になったかのように。
メデューサに石にされたかのように。
「しっかたね~な」
その声とともに、凛花の体は浮き視界の位置が高くなった。
紅がおぶってくれたのだ。
紅の首に腕を回しながら、その景色に目を輝かせた。
空気中のチリが朝日に反射して、煌めき空へ登っていく。
「うわっ、お前重い!」
紅は顔を顰めた。そう言いつつ、軽々と背負い走り出した。
その足取りはウサギのように軽快で、楽し気。
「んなわけないじゃん!重いわけないよ!」
紅から笑みが溢れる。頬が緩み、楽しそう。
「鬼の見張りはお前な、お前がやれよ」
紅はタタタタ、と道路を走り路地に入って行った。
用水路に石を蹴散らし、波紋を作りながら走っていく。
「うん、鬼は・・・すぐ後ろ」
凛花は振り返しながら、声を震わせて話した。
「えっ・・・」
紅の顔が蒼白になった。口元が引き攣り、走るスピードがやや落ちる。
「お前、さっきなんて」
「ん?真後ろ」
紅は気絶しそうになった。
首だけを動かし、後ろを見ると____
大きな巨体でこちらへ歩いてきている。
踏まれてしまえば、ひとたまりも無いだろう。
「鬼だァァァァ!」
鬼はもう数メートルしか離れていなかった。
(なんで、俺、能力が働かなかったんだ?)
まぁ、そんな事どうでもいい。