社交界
社交界。
華やかだが、愛欲金欲権欲にまみれまみれた泥沼のような場所だ。
男子はお目当ての女子に声をかけたり、女子は目当ての男子に気づかれようと着飾ったり。
私には似合わない、そんな場所。
骨折して数日が立ち、全快したらこの仕打ち。なんと隣国の王と王子がくるというので、強制的に参加させられた。
が、なかなかいいもの。
料理が美味しく、挨拶が終われば庭に遊びにいってもいいとのこと。
早く終わってくれないかなぁ。
生演奏の音楽に合わせ、男女が真ん中の方で踊っている。
その回り、いわゆる壁の花を決めている婦女子は、カイトを、みてはキャーキャーと騒いでいる。
「はぁ。」
まだ終わらないのか?そう問いただしたくなるほど、社交というものはつまらない。
「アンナ。そんな顔をしていちゃダメですよ?」
不意にカイトが近づいて、私のほっぺをムニムニと揉み始める。
「病み上がりに対して、随分酷くない?」
「不満かい?」
「当然。」
「もう少しの辛抱ですよ。」
そう言われるが、いつになるかわからないものを待ち続けるのも、苦痛と感じる体たらく。
あまり、散策をしてこなかった城内を探検するのも悪くはないだろう。
「アンナ様、どちらに?」
会場を出ようとして、ケビンにとめられる。
「暇潰しに探索するのよ。」
「探索ですか?」
「えぇ。引きこもってたばかりで構造をよく知らないからね。もしもの時、備えてあれば役に立つから!」
「それなら、お供します。」
あら、嬉しい。一人のパーティーじゃ、心細いものね。
「テッテテー魔術師、ケビンが仲間にくわわった!」
「ゲームのやりすぎでしょうか?」
・・
この世界は、科学が進みこの国ではガスや電気、水道が整っているので、夜の城内は暗くない。
しかし雰囲気造りのため、食堂や応接間では蝋燭を使ったシャンデリアが使われている。
「ここは窓が大きいねぇ。」
「えぇ、ですが窓と言うよりドアですね。」
バルコニーに足を踏み入れ、手すりから下を見下ろす。
2階なのでそれほどの高さは感じないけれども、今日は夜でも噴水が稼働していて、庭には数組の男女がいるのがわかる。
「あまり、身を乗り出すのは……危ないですよ。」
「わかってる。ライトアップされた噴水も綺麗ね。沢山の花は遠くから眺める方が私は好きだわ。よし!次。」
それから謁見場などをまわり城を見回ってあのバルコニーに戻ってきた。
そこには、アンネがおしゃれにワインを飲んでいた。
「サボり?」
「勤務終わりだ。」
「あぁ、勤務終わりの一杯っての?」
「はは、もう少し年取ってたらビールでも似合ったのにな。」
「そーね。」
「ケビン連れて散策か?いい男は見つかったか?」
「別に。」
「ははは。」
「酔ってるのね。」
「兄さんや父さんに似て、酔いは早い。」
バルコニーから見えるのは、庭だけじゃなく城下町も見える。
おとぎ話のようなものでなく、それこそそこから見えるのは高層ビルから遠くの夜景を見るようなものであるにしろ、どこか此方側の照明で幻想的に見えている。
そんな光輝くビル群を見つめアンネは一口ワインを飲む。
「ふふ、アンナ。こんなに世界は美しい。」
「ふふ、アンネ。これがこの国の格差よ。」
アンネはワインを飲み干す。
それを見ていたのは私だけでなく、他の人間や獣人もいる。
「夢のないことを。」
「はは、夢がない……か。いい娘は見つかったの?」
「まだだな。」
「肩書きが邪魔する?どうせヤるんだから―」
「ちょ、なに?俺ってお前のなかでそんなイメージ?」
「え?男はそんなもんってカイトの中身からして判断してるんだけど?」
「主人のやなこと聞かされた感満載。」
アンネが白っぽくなりかけてるのを見てから中に入る。
「ねぇ、ケビン。」
「はい?」
「アンネは違うのかしら?」
「興味がおありで?」
「まぁ、異性の生態を知るのも良いものでしょ?」
「生態……まぁ、種が違いますからね。」
「ふーん。そんなもの?」
「さぁ?」
「まぁ。社交会でなにもないといいけれどね。」
「?」
完全なるフラグであることは知っている。
社交会イベントで主人公はカイトと急接近るのだ。
主人公は会場でチラッと見かけていた。
「随分嬉しそうですね?」
「ふふ、私って性格が悪いからね。邪魔するものは叩き潰す。それが一国の王であれ、選ばれたものであれ、変わらない。カイトとマリーが結ばれて始めて、クリア条件の一つが達成される。」
「アンナ様?」
「ふふふふふふあははははははは!」
そして私は会場のドアを開け、ターゲットをロックオンした。
貴族の養子となったアリスを地獄に落とさず、この世に彷徨いつづけるような苦痛をどう味あわせてやろうか?
ただそれだけだったのに。