主人公 アリス
恋愛要素はまだです
馬車に揺られること数時間、とある庶民宅に到着してしまった。
しまったというのも、落ちこぼれの私に対して、マリーの父親がしびれを切らし、巷で噂のブリーダーに私を教育されると言い出しやがりましたのでした。
おそらくここが主人公宅なのでしょう。
「アンナ?どうしたの?」
えぇ、はい。前世が前世ですので、言葉だってわかりますとも。
何故か日本語で語られては居ますが、舌は人間語をうまく発音できなければ、足でも字を書くことが出来ないので、私の気持ちは伝わらないのです。
ねぇ、にわとりさん?
私は近くにいるにわとりさんに話しかけますが、
コケ?
としか返しやがりません。
そんなわけでマリーには
「はじめての場所で緊張してるのかしら?」
等と思われてしまうしだい。やりにくいのです。あぁ、人形になれたなら。
そう思う日々を幼いながら幾度と繰り返しました。
そうこうしていると、親父さんと禿げたオッサンが何かと話を始めてしまっています。残念ながらこの距離では聞こえないので、腹話……いや、読唇術を使うしかありません。
『(中略)では、一ヶ月後の試験に向けてアンナ様を娘のアリスが教育をいたします。』
一ヶ月後の試験?一ヶ月後の試験といったら、主人公とカイトが出会う日だ。
アンナの落ちこぼれ度をよく知っているカイトが、アンナの成長っプリをみて、ブリーダーに何故か恋しちゃった日。
そこからいろいろ合って主人公はカイトと結ばれてしまう。
それを回避しなければ……そうだ!全く成長しなければ、誉められることは無い。私ってば天才!
こうと決まったら遊び呆けるしかありませんね!
「アンナったらもう。」
・・
学んだ30日間を詰め込めれば、【かなり長いゴールデンウィーク】だ。
遊びに遊び、遊びまくった。
勉強は少しした程度で、絵本を読み聞かせて貰っただけなのに、意思に反して様々な知識が襲いかかってきました。
で、何故か印象に残るお話は、【魔王】の絵本と【魔女】の絵本。【魔王】の絵本は、勇者が魔王を封印するお話。
【魔女】の絵本は、魔女が起こした奇跡のお話。
それが多かったが、一冊だけ魔王と魔女の絵本があった。
むかしむかし、まじょとよばれていたしょうじょがいました。
しょうじょはまもののひがいにあっているひとびとをすくうため、たちあがりました。
まじょはしょくりょうのないまものたちのために、のうさくやらくのうをおしえました。
まものたちはおおよろこび、それまでめいわくをかけていたひとたちにあやまりました。
そして、まものとよばれていたものたちは、まじんとよばれるようになり、ちかくにいたにんげんときょうぞんし、おうこくをつくることになりました。
いつしかそこはまかいとよばれるようになり、くにのおうをまおうとよぶようになり、ひとびとはしあわせにくらしました。
そんなお話。
他のお話と違い、魔王が悪と語られないお話だ。
数ある絵本の中からこれだけが異彩を放っているというか、真実を語っているようなものだ。
あの物語に心惹かれた。
「アンナ!」
やはり、アリスは怒っている。
遊び呆けていたからだが、人間としてはブリーダーが至らないという評価に繋がるからだ。
私がもし、人形になれるというのならば、ゲス顔で計画通り。と笑うのだろう。
第一印象を下げることに成功したとも言える。
「このバカ鷹!」
むしゃくしゃしているようで、荒れている。窓も開きっぱなし、檻も開けっ放し。
出るしかないでしよ?
あの窓から出てしまえば、私はマリーの元に帰れるのだ。
試験を受けずに。
▶まどからとびだしますか ?
▶はい。
疑問などありません。後悔などありません。
私は翼を広げ、窓から外に飛び出しました。