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例えばバケツを被った男

作者: 東條みかげ

そこの人はそれぞれが大きさは異なるものの、みんなバケツを持っていて

それが1日で満杯になる人もいれば、10日経ってもスカスカの人がいる。


大抵は、1日の終わりに溜まった水は精算されて、次の日には空の状態になる。

ただし、それが出来ずに日に日に溜まっていく人もいる。


ある日絶対的な権利を持つお偉い方から、もはや溢れんばかりのバケツを持った人に

これから何があろうと、そのバケツの水を溢れさすことは許さん、と告げられる。


隣にいた人は、そんなのムリムリ。と、早々に命令に背きバケツを引っくり返した。

逆隣にいた人は、バケツの底をくり抜いた。これで溢れることはない、と。


どちらもとても賢い、というわけではなかったが

確固たる自分を持っている人種なんだとは思った。


残された彼はどちらをする勇気もなく、ただひたすらにバケツの水が溢れないように

1ミリたりとも動かないように神経を研ぎ澄ます。


そんな風に怯えて震えていた時、向かいにいた子が声をかけてくる。


「どうしてそんなに1人で怯えているの?」

「だって零しちゃいけないんだよ。こうしているしかないもの」


そう言うと、その子は彼の手からバケツを奪おうとする。

「こぼれちゃうよ!」


「零さなきゃ良いんでしょう?なら簡単だよ。2人で分けて持てば良い」

「そんなことしたら君が重くなっちゃうよ!」


「大丈夫。僕が受け取る水の重さは、きっと君本人の抱える重さの半分もない。

 これの本当の重さを知るのは君自身しかいない」


それでも納得しない彼に


「僕のバケツがもしもいっぱいになったら、その時は少しで良いからもらってくれない?

 それで分かるだろうし、お相子でしょ?」


頭の堅い彼は、1人でどうすれば溢れさせないのか考えていた。

そんな誰かの手を借りるなんてスマートに出来るその子が羨ましかった。


その子の言うことはひどく納得出来るものだったが、

自分には到底マネ出来ることではなかったので、彼はバケツを頭に被った。


水がバシャバシャと容赦なく降り注ぐ。日に日に水は増しているようだ。


溢れ出る水をどうすれば良いのか、投げ出せもせず

人に助けを求めることも知らず、ただひたすらに水を浴びる。


聞こえるのは、バケツの中でくぐもった自分の叫びだけである。


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