厨二病王者決定戦
熱い太陽が照りつける中、今、ここ鋲丹柱ビーチで、少年少女の熱い戦いが始まろうとしていた!
「はい! 私実況の田中と!」
「ツッコミ役の山田です」
「が、お送りする、厨二病王者決定戦を! お楽しみください!」
広い砂浜の一角、日光遮断のための白いテントの下で、実況者である田中と、ツッコミ役の山田はマイク片手にそう言った。
テントの横には、ちょっとしたヒーローショーがやれそうな舞台がそびえたっていた。
「しかし、何故厨二病の王者を決める大会を、ビーチでやるんですか?」
「良い質問だね山田くん! それには三つの理由ぅぅが! ある!
一つ! ビーチという、リア充やカップルが集う場所で、孤独に耐え、かつ、いつもの痛い妄想くらい出来なくては王者とは呼べなぁい!」
「成程、確かに、真の厨二病ともなれば、友達いないでしょうしね」
「ふたぁつ! 真夏のビーチだろうと、黒いコートや、自作の痛い衣装を着ていられる耐久力がなければならなぁい!」
「水分補給はこまめにと、伝達しなければいけませんね」
「そして三つ、この私、田中は水着のお姉さんが大好きだからです」
「私欲!?」
早速ツッコミ役が自分の役割を果たしたところで、ついに舞台から音楽が流れ始め、一人の赤い水着を着た派手な男が現れた。
「えー、レディースアンド野郎は帰れー……あ、間違えた、レディースアンドジェントルマァーン、ようこそ、厨二病王者決定戦へ」
「本音漏れてるーっ!?」
「山田さんは自分の責務を果たしたようですねぇ、では、自己紹介しましょう、司会の鈴木です、どうかよろしくお願いします」
観客から拍手が漏れる。
子連れの人、カップルの人が多いようだ。
「さて、まどろっこしいことは無しにしましょう、早速始めていきますよ! エントリーナンバー1番! 【漆黒の翼】ホワイト・オブ・ブラッディの登場だぁー!」
勢いよく吹きあげられたドライアイスと共に舞台袖から現れたのは、片目を髪で隠した少年。
黒いコートに身を包み、首には赤いマフラー、手には黒い穴開きの手袋をしている。
「漆黒なのかホワイトなのかどっちだよ!」
「山田さん落ち着いて、この程度に突っ込んでたらこの先身が持たないよ!」
「田中さん……」
「しかし、これだけでは、ただのビジュアル系バンドを間違えちゃったZE的な感じですね……もう一つインパクトが欲しいところですが……おおっと!?」
しばらくカッコいい(?)ポーズをしていた少年が、突然マフラーを取り、コートを脱ぎ始めた。
「突然脱ぎ始めたぞー!? 一体何をするつもりなんだー!?」
少年の奇行に、観客からざわざわと声が漏れだした。
「何をする気だ?」
「ふ、邪気眼を持たぬ者にはわかるまい……」
「身体細いなー」
等と、様々な期待に満ちた声の中、舞台の上の少年は、澄んだ声で、言い放った。
「暑い無理」
「――あたりまえだぁあああああああああああ!」
「山田さんのツッコミ冴えわたるぅうううう! しかぁし! 期待外れだホワイトなんちゃら君! 君は失格! 帰れ!」
「扱いひでぇ!?」
こうして【漆黒の翼】は舞台から降りて行った。
そして、彼はもう二度と夏場に黒いコートは着ないと誓った……。
観客たちの白ける声が聞こえる中、司会の鈴木は、この空気を変えるべく、マイクを握った。
「さて! 最初からハプニングもありましたが! 続けていきましょう! エントリーナンバー2番! 【漆黒の魔眼】! 大魔王ルシファー!」
吹きあがるドライアイスと共に舞台袖から出て来たのは、水着姿の女の子。
水玉模様の水着が可愛らしい女の子だが、左目の眼帯が異様さを醸し出していた。
「えー、これまた正統派な「フォォオオオオオオオオオ! 女の子キターーーーー!」」
「その眼た「イヤッホオオオオオオオ! 水着女子ペロペロ! ペロペロ! くんかくんかすーはーすーはー! 眼帯もぺろぺろしたいお! ルシファーたん可愛いよぉおおおおおお!」」
「田中さんうるせぇ!」
数分後……。
両手を縄で後ろ手に縛られ、目隠しと猿轡をされたまま実況席に座る田中の姿がそこにあった……。
「えー、ではルシファーさんの審査の方を……」
「もごもご」
「あれ? ルシファーさんは? え? 帰った? 田中さんに怯えて?」
「もがもが」
「……えー、と」
チラっと山田は鈴木を見た。
それで察してくれたのか、鈴木は親指を立てると、再びマイクを握り締めた。
「不幸にも最初の二人が居なくなってしまったものの! まだまだ盛り上がってまいりましょう! 次はエントリーナンバー3番! 【漆黒の赤い瞳】……え? 3番さん帰った? じゃあ4番さんを……え!? 熱中症で倒れた!?」
「おっとぉ……? 不穏な空気が流れ始めましたねえ、どうしたのでしょう」
「もごもご」
「そうですね、田中さんの言うとおり、どうにか続けれたらいいのですが……」
観客はもう大半が帰ってしまっている。
残っているのは飲んだくれのおっさんと、爆睡中のお父さんだけだ。
「えー……誠に残念ながら! 参加者が皆いなくなってしまったということで、厨二病王者決定戦! 幕を降ろさせてもらいます! 誠に申し訳ございません!」
「あーっと、存続は不可能のようです、残念ですねぇ、田中さん」
「もがもが」
「田中さんも残念に思ってるそうです、仕方ありませんね、田中さんはこの企画を楽しみにしていたようですし」
「もぐもぐ」
「あ、こら、猿轡食べちゃ駄目でしょう? 田中さん」
ティッシュを丸く筒状に包み、田中さんの鼻の穴に突っ込む。
これで呼吸も困難になった筈だ。
さらにヘビメタ最大音量のヘッドホンを耳に付け、椅子に座ってる田中さんが立てないように、念入りに縄で縛り付けた。
着ていたアロハシャツを左右に分け、乳首を洗濯バサミで挟む。
「……よし!」
最後の仕上げに時限爆弾を設置、あと一分で爆発するようにセットする。
白いテントから離れ、晴れ渡る青い空を見ながら、山田は考える。
どうしようもなくオチが思いつかない時は、お約束だが、爆発オチにしておこう。
そう思いながら、山田は爆風で空へ飛んでいく田中を見て、大爆笑した。
終わり。