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Reverse Side Story  作者: 雀祭
2/2

②語られるべきではない物語

身代わりの政略結婚。

愛らしい妹の代わりに差し出されたのは、凡庸な姉。

最初はぎくしゃくする二人だが、次第に惹かれ合い、幸せになる。

そんな王道な物語。


けれど、これは残された妹の物語。

身代わりとなった姉を心底慕い、「お姉さまは死んでもわたさないわ!!!」という空回り王女のお話。


これは裏側ストーリー

語られない物語

それでも確かにそこに、存在していた





②語られるべきではない物語





わたくしには二人の姉がいました。

一番上のカトリシアお姉様は、とても勇敢で強いお方でした。

二番目のフィリシアお姉様は、妾腹でしたが、とても聡明で優しいお方でした。


ですが、二人のお姉様はわたくしがまだ七つの時に、戦火に巻き込まれ亡くなられました。


表向きにはそういうことになっていたのです。


ですが、その実。

本当に亡くなれたのはカトリシアお姉さまだけでした。

フィリシアお姉さまは半身に大火傷を負いながらも、生き残られたのです。

燃え盛る城の中で発見された時、お姉さま達は重なるように倒れられていたそうです。

カトリシアお姉さまがフィリシアお姉さまを庇うように。

カトリシアお姉さまはフィリシアお姉さまを守り抜いたのです。



ですが、父はあろうことかフィリシアお姉さまをその場で亡くなったことになさりました。

カトリシアお姉さまをいたく可愛がっておられた父は、カトリシアお姉さまではなく、妾腹で、しかも王家の色を継がないフィリシアお姉さまが生き残ったことをひどく憎み、その手で本当に殺そうとまでなさりました。

それを食い止めた周りの人間がなんとか説き伏せて、フィリシアお姉さまを死んだものとし、辺境の地へと幽閉することで納得させたのです。


フィリシアお姉さまはそれにいっさい逆らうことなく、それを甘んじてお受けになられました。






そして、それから9年後。そのお話が上がったのはわたくしが十六の時でした。


「お義兄さま! どういうことこですの!!」


バンッと、淑女にあるまじき勢いで執務室の扉を開け放ったわたくしは、開口一番そう尋ねました。

今亡きカトリシアお姉さまの夫で、この国の首相であるお義兄さまは、わたくしが来ることを予想していたのか大して驚いた様子もなく、わたくしの素行を見て苦笑います。


「とりあえず落ち着きなさい、パトリシア。」


そう言ってお義兄さまは、わたくしに執務室の机の前のソファーに座らせました。

人払いをして、側近のエフィにお茶を入れさします。

エフィの入れるお茶は男手ながらとても繊細な味でわたくしのお気に入りでした。

いつもなら、ほわっと湧き立つ香りに勢いを削がれてしまうところでしたが、今回ばかりはこれで機嫌をとられませんわ!


「いいえ! これが落ち着いていられるものですか! どうしてお姉さまなので

す!」


ちゃっかりとお茶を受け取りつつも、わたくしはお義兄さまに猛抗議いたします。

わたくしがこんなにも怒っている理由。

その発端は一週間ほど前にさかのぼります。





「クトラが同盟を申し出てきた。」


昨年の改革で退位した父が、苦虫を噛み潰したようなお顔で、そうわたくしに言いました。

わたくしは父に話しかけられるだけで、同じような顔になりそうになるのですが、なんとか堪えます。

クトラとは、この大陸で圧倒的な領土と強さを誇る国です。

片やこちらはわずかな領土を持つばかりの小国。

この申し出にこちらの拒否権がないのは、わたくしにもわかっていました。

そして、この同盟の証しにと、クトラ国王との婚姻を提示してきたのです。

婚姻と言えば聞こえはいいですが、実質体のいい人質です。

もちろん逆らう余地などありません。

わたくしは父を死ぬほど嫌っていますが、父はカトリシアお姉さまに似たわたくしを、それはもう吐き気がするほど溺愛しております。

そんなわたくしを手放すのが、よほど嫌でしたのでしょう。

苦々しい表情で父はわたくしにそう告げました。

ですが、わたくしも元とは言え、王女。

結婚に理想を描くような教育はされてません。

幸い、クトラの現国王は若くして即位なさった方で、まだ30になられていなかったはず。

同い年でよぼよぼの老人に嫁いだ友人を思えばずいぶんとマシなものだと割り切りました。



ですが、それは唐突に覆られたのです。

人質として差し出されるはずだったのが、わたくしからお姉さまに代えられていたのです。

それがわたくしが非常に憤怒している原因でございます。



「どうして、と言われてもね。クトラの王が直々に所望なさったんだよ。」


セディエお義兄さまは苦いお顔でそう答えます。


その理由は少し考えれば、明確でした。

フィリシアお姉さまが生きているという事実は我が国の最高機密の一つで、知るものは身内のわたくしと父。それから、一部の上級官僚しかしらないはずの情報なのです。

そして、これを突き付けてきたということは、つまり、この国の機密など簡単に握れるのだということを意味しているのだ。

それでも


「納得できませんわ!」


どうして、たかだかそれだけの理由でお姉さまが人質にならなければならないのか。


「だが、彼女ももう了承しているんだ。駄々を捏ねると彼女を困らせるだけだよ。」


お義兄さまは突き放すようにそういいましたが、そこで引き下がるわたくしではありません。


「じゃあ、せめて直接お姉さまに会わしてください。」


渋るお義兄さまに無理を言って、わたくしはお姉さまに会いに行きました。

突然のわたくしの訪問にもお姉さまは快く迎えてくださいました。

憤るわたくしをなだめて、特製のカフェオレを入れてくださいます。

お姉さまのカフェオレはとても香り高く、まろやかな甘さが後を引く絶品でした。

落ち着いたところで、わたくしは本題を切り出します。


「お姉さま、クトラのお話、どうしてお受けになられたのですか?

お姉さまならしらを切り通すこともできましょう?

それに、お姉さまは腹がたたないのですか?」


父はお姉さまから身分どころか、人権まで取り上げておいて、こんな時にだけ王女扱いし、わたくしの身代わりにしようとしているのですから、そんな都合のいい話があっていいわけありません。

この婚姻は王女として育てられたわたくしの義務です。

お姉さまは自由に恋をして、本当に想い合う方と結ばれるべきなのです。


「もし、このままクトラに嫁げば、お姉さまは今以上に行動を拘束されてしまうことぐらい、わたくしにだってわかりますわ! もしかしたら、ずっと一つの部屋に閉じ込められてしまうかもしれないのですよ?! そんなこと、絶対に許せません!」


お姉さまがこの9年間与えられたのは、辺境の地の小さな村のそのまたはずれの小さな小屋だけ。

それでもお姉さまは文句ひとつ言わず、さらに城で王女として暮らすわたくしにも以前までと変わらずに接してくれました。

お姉さまは本当に慈悲深く、健気で優しいのです。

わたくしはそんなお姉さまが大好きで、大好きで、大好きで、大好k…(ry

とにかく! 絶対に不幸になるとわかっているこの話をなんとしても阻止したかったのです。

ですが、お姉さまは憤るわたくしにふわりと笑いかけました。


「心配せずとも大丈夫ですよ、パティ。すべて上手くいきます。お姉様にまかせなさい。」


やわらかい物言いなのにどこか芯の通った声は、いつものお姉さまの声でした。

お姉さまが“上手くいく”と言った時には必ず何事も上手く運びました。昨年の改革の時のように。

いつもなら、わたくしはこの時点で安心して引き下がったでしょう。

お姉さまは約束を違えたりはしません。

ですが、今回ばかりはどれほど信頼していても何もせずにはいられないのです!

その後がお姉さまの言う通り上手くいっても、お姉さまを盗られることに変わりはないのですから!

お姉さまはわたくしのものですわ!

どこぞの地位を笠に着ただけの野郎になどわたすものですか!!!





わたくしは意気込んでお姉さま婚姻阻止計画を開始しました。

一番手っ取り早いのは、クトラ国王にお姉さまを諦めてもらうこと。

嫁入り前のわたくしが直接会いに行くことはクソ親父が絶対に許さないので、書簡を送ります。

そちらとこちらの力量はよく理解していること、こんなことをしなくても逆らったりしないことを書き、お姉さまを諦めてもらえるように書きしたためました。

ですが、王家の調印を押した書簡は確実にかの国の王まで届いたはずなのに、一向に返事がきませんでした。


「どういうことですの! 手紙には返事を寄こすのが常識でしょう?! そんな常識も持ち合わせておられないなんて、ますますお姉さまをわたすわけにはいきませんわ!!」


こうなったら正攻法はあきらめましょう。

常識のない方に常識的な方法で当たっても埒が明きませんわ!

わたくしは、クトラ国王にまたしても手紙を書きます。

その内容はお姉さまの悪口です。

これは心臓がよじれて血を流すほどに心苦しいことですが、お姉さまを守るためです。わたくしは心を鬼にいたします。

それでも手を震えるのはどうしても抑えられず、少し文字が歪な形になりました。

ですが嘘でもなんでも、クトラ国王にお姉さまなんて御免だと思わせればこちらの勝ちですわ!


ですが、それからさらに数日が経っても、良い反応は入ってきませんでした。

それどころか、輿入れの準備が秘密裏に着々と進められているではありませんか!

なんてことでしょう。

これはもう、呪いの手紙しかありませんね…。これは最終手段だったのですが、致し方ありません。


わたくしは執務もほっぽりだして、部屋にこもり徹夜で呪いの手紙を書き続けました。

その一方で、侍従のロニに命じました。


「お姉さまを落としてきてちょうだい。」


クトラ国王がダメならばお姉さまの方に働きかけるしかありません。

こちらも最終手段でしたが、もうなりふり構ってられませんわ。何としてもこの婚姻を阻止せねばならないのです。

ロニは何か言いたそうな顔をしていましたが、わたくしの必死さに根負けしたのか、「まぁ、やってみるだけはしますけどね…。」と言って下がりました。

こんな時、お姉さまに想い人がいればよかったのですが、残念ながらお姉さまの浮いた話はこの十六年間ひとつも聞いたことがありません。

クソ親父が原因でしょうか、村の人たちとも常に一定の距離を取られてました。

ロニは年齢的にもお姉さまと釣り合いが取れます。お姉さまにふさわしいかと問われれば、それはなんとも言えませんが、彼はわたくしが幼いころから仕えてくれている信頼できる男です。少し生意気なところもありますがなかなかに使える人間でもあります。何度かわたくしに付いてお姉さまにお会いしたことがありますけど、特に合わないといった風もありませんでした。

付け焼刃の当て馬ではありますが、クトラ国王よりはずっとマシですわ。

わたくしは、そう自分に言い聞かせると再び意識を呪いの手紙に戻します。

さて、今日はあと80枚は書かないと。


「何が何でもお姉さまはわたしませんわぁあああああああ!」










コンコンッと扉を叩く音に、フィリシアは向かいに座る客人に断ってから席を立った。

玄関に向かい扉を開けると、妹の侍従であるロニが一礼する。

彼の訪問に驚きはしなかったが、妹の姿がないことに首をひねった。


「こんにちは。珍しいですね、おひとりですか?」


フィリシアの当然の疑問にロニは苦笑う。


「こんにちは、突然お邪魔してすみません。そうなんですが、来客中でしたか。」


目聡く玄関の靴を見つけたロニに、フィリシアは大丈夫ですよと微笑んだが、彼は首を横に振る。


「いえ、大した用ではないのです。姫さまにフィリシア様を落とせと命じられたもので、もちろんそんな気はございませんが、形だけでもと思いまして。」


「落とす? 殺すということですか?」


「まさか、恋に落とせ、とのことです。」


それを聞いたフィリシアはすべてを察したのか申し訳なさそうに笑った。


「貴方にも苦労をかけますね、すみません。」


「いえいえ、フィリシア様が悪いのではないです。姫さまが勝手に暴走してるだけです。今では呪いの手紙まで書きだす始末で。」


あきらめたように笑うロニにフィリシアはお茶を出そうと言ったが、彼はかたくなに首を横に振る。

玄関にあった靴は男物で、かなり質がよくデザインから若い男と推定出来た。

その時点で自分はお役御免だとロニは悟る。


「今日のところは失礼します。」


きっとこれが最後になるだろうことはロニもわかっていたが、主であるパトリシアを少なからず大切に思っている彼には、フィリシアが身代わりになってくれることに反対を唱えることは出来なかった。

ただ、彼女の淹れるコーヒーはとても美味しかったので、もう飲めないというのは残念であった。


「フィリシア様、本当にありがとうございます。私情ではありますが、感謝してもしきれません。」


腰を折り、深く礼をするロニにフィリシアは首を振る。


「頭を上げてください、そこまでのことを私はしていません。これは私のわがままなのです。」


「ですが…。」


パトリシアの言う通り、フィリシアがクトラに嫁いで身の上が好転する可能性はほぼないに等しかった。


「私は大丈夫です。ですから、貴方はパティのことだけを考えてあげてください。」


穏やかに笑う彼女の瞳には、確かに不安は一抹もなかった。


「わかりました、この命に代えても。」


言って、去ったロニを見送ったフィリシアが席に戻ると、客人の男は先ほどまでの話を聞いていたのか、おもしろそうにくつくつと笑っていた。


「そんなにおかしかったですか?」


「いや、失礼。姉妹思いな姉妹だと思って。妹君は、まさか貴女も自分と同じように手を回してるとは思っておられないだろう。」


「そうですね、彼女はよくも悪くも素直で、人を疑うことを知らない子です。そんないい子を貴方のようなわるい人に渡すわけにはいきません。」


「おやおや、手厳しいな。もうすぐ夫になるというのに。」


男…クトラ国王はフィリシアの冗談にも気を悪くする様子はなく、逆に楽しそうに笑った。

そんな彼にフィリシアは先ほどロニの口からこぼれた単語について尋ねる。


「それよりも、呪いの手紙とか?」


「ああ、届いているよ。最初の方はマトモなものだったが、なんの好転も見られないからなりふり構わなくなったんだろう。」


「…申し訳ありません。しかし、そのような内容のもの、よく制限されませんね。」


「なに、おもしろいから届けさせてるだけだ。最初の方には貴女の批判が書かれたものあったぞ。最後には結局貴女を褒めるものになっていたが。」


思いだしたのかまたくつくつと笑う男をフィリシアは困った顔で眺める。


「で、俺の方に反応が見られないから貴女の方にはたらきかけるとはな。手紙の内容もそれこそ知る人が読まなければわからないように巧妙に書かれていたが、それでも貴女の策には遠く及ばないな。貴女の方が何枚もうわてだ。」


「そうでなくては困ります。」


「こんな風に俺が貴女に興味を持ったことすらも、貴女の策かな?」


「それは買いかぶりすぎですよ。」


ほがらかに笑うフィリシアにクトラ国王も食えない女だと笑う。



パトリシアは知らないところだったが、この花嫁の変更はクトラ側だけでなく、こちら側にも利益がある。

存在しないはずのフィリシアを差し出すことで、表向きはクトラと代償なしに同盟を結ぶことになる。それは、クトラと同等に取り引きしたという証にもなる。

また、こちらは王女を失わずに済むのだから、パトリシアが足掻いたところで覆るはずがないのは明らかだった。


そして、その数日後。

パトリシアの必死の抵抗むなしく、フィリシアは人知れずクトラへ嫁いでいった。

しかし、パトリシアをあきらめることをせず、猛勉強してこの国の首相にまでのぼりつめました。


後に史上初の女性の最高権力者となる王女のその快挙の根源は、「大好きな姉を取り戻す」そんな妄執(シスコン)にございました。


これは、彼女の沽券のために語られるべきではない物語






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