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龍宮のお姫様のドロップ  作者: 八田硝子
7/9

☆☆☆☆☆☆☆

【すずらん】


すずらん

すずらん

可憐な花よ


小さな白い花

風に揺れ

愛らしく


君を囲んで

美しく咲く


すずらん

すずらん


その身に毒を潜め

なにくわぬ顔で

「愛して」と


すずらん

君の如し

すずらん


【出かける時は忘れずに】


僕がどっか行く時は

君が追っかけたりしないように

君の靴

全部持ってくから

「そういう趣味だったの」って

誤解しないでね


君がどっか行く時は

僕が追っかけたりしないように

人知れず

土にでも

埋めて

埋めて

埋めて



それでサヨナラ!



【情熱の青】


観客席は

うねる海


どよめきと

悲鳴と

歓声と


音渦巻く様

怒涛のごとく


そこに波たつは



情熱的な

青がある


【路地裏少年】


レンガとコンクリート

肩寄せあうように

ひしめきあってるここじゃあ


ウエからのヒカリは

屈折してうっすらと

そんなのなら無くていい

僕らにはライターがある


ゴミ箱のネズミも

物欲しげな野良犬も

僕らと同じさ

でも仲間じゃない

だからパチンコの標的にもなる



オトナと違う

友情だから

切れないものと

思っているよ


(儚いものと知らずに)


路地裏少年

隙間から見える

海と空

本当は

憧れているのに

飛び出して行きたいのに



【げったうえー】


どこまで逃げれば

安心できるの


振り返るのも

恐ろしい


きっと逃げ始めたあの日から

ずっと呪いのように

追いかけられてる

休むことなく

追いかけてくる


だって

あんなものは欲しくなかったの

そういうふうにしたくなかった

嘘を吐き続けられなかった

でも本当も言えなかった


ねえお願い

逃がして!

逃げるのを許して!

逃げたい!

逃げたいの!


そんな所にいられない

遠くへ行かせて

逃げさせて

お願い



【二丁拳銃俺】


拳銃は二丁

ぱんつ一丁

豆腐一丁の

角で死ぬ


【プリン】


あの子はいなくなったよ

あの子はもう帰ってこないよ


そう言われても私には

なんだかちっとも

わからなくって

ただただぼんやり

一日が過ぎました


朝がきても

まだよくわからなくて

いつも通り

台所に立つと

テーブルに

プリンがありました


プリン

私が昨日作ったもの

あの子が大好きで

きっと帰ってきたら

「おいしい!」

って

笑顔が返ってくるのを

楽しみに作ったもの


すぐに帰ると思っていたから

冷蔵庫から出していて

そのままで

すっかり形が

崩れていた


何故だろう

あの子がいないことには

まだ全然悲しくなかったけれど

食べてくれる人がいない

プリンが酷く悲しくて

緩く溶けた黄色い液に

「大好き」と言ってくれる

あの子がいなくてかわいそうで


初めてそこで

泣けました



【水葬水槽】


熱をもった体が

眠ることを許さない


苛立ちと汗が

にじむ不快感


いっそ水に沈みたくて

水槽の魚に嫉妬


溺れたい

溺れたい

深く深くに

沈みたい


中途半端に息苦しくて

それならもう息の根止めてよ


眠れない

暑さに

こんなにも

苦しむなら


ひんやりとした

死体になって

起きないくらい

眠りたいよ



【初夏想詩】


蒼い草いきれは

そのまま夏の匂い


暑いのは嫌いよ

日焼けも

だけどこの匂いは好きだから

夏を嫌いになれない


夕闇

蛙の合唱


星座はいつの間に

描きかえられたの

こと座ヴェガ

待ち遠しげな光


花終えて緑

初夏は今ここに


【さよならプラクティス】


さよなら

さよなら

また会えるけど


さよなら

明日にも会えるけど

さよなら


いつか本当に

会えなくなる日のために

何度も

何度も

繰り返し


練習しよう

さよなら

その時に

きちんと言えるように


さよなら

さよなら

本当のさよならの日まで

さよなら



【シンデレラ・シューズ】


真面目に良い子に

がんばっていれば

いつか誰かが

持ってきてくれるの


シンデレラ・シューズ


「真面目だね」って

馬鹿にした顔

そうね確かに

あなたより真面目だわ


「真面目に生きると

馬鹿を見るよ」って

そんなはずない

正義は勝つもの


適当に生きてる人

楽そうでいいわね

だけど最後に

笑うのは私


シンデレラ・シューズ

きらきら

透明で綺麗ね

いつかは私のもの


みんなみんな

うらやましがるといいわ

ごめんなさいね

これは努力の賜物



待ってるわ

シンデレラ・シューズ

いつかきっと

いつかきっと

まだかしら

もうすぐよね

三十路も越えたけど

シンデレラ・シューズ



【桐紫藤紫】


伸ばした枝の

高くにあって

薄紫に

けぶるように咲く

高貴な花

桐の花


しだれたように

鈴なりに

濃紫の

房で咲く

鮮やかな花

藤の花


どちらもとても

美しいけれど

まるで申し合わせたよう

同じ季節に咲くのは


どちらがより美しいかを

人に問うているのかも


【オレンヂ・サワー】


偉そうな講釈

ご苦労さま


だけどそんなの

飲みたくないわ


あんたのは

ロックじゃない

せいぜい

気の抜けた炭酸ジュース

温くて甘ったるい

刺激すらない


理屈並べ立て

ラベルに書き込んだって

中身は味気ないジュース

おいしくないの


そんなもの

飲めたもんじゃないわ

帰ってよ

あたし酔いたいの

薄甘ジュース


あんたじゃ酔えない



【がんばーれ】


がんばれば

なんとかなります


がんばれば

大概のことは

どうにかできます


がんばれば

最悪の状況は

逃れられます



わかってるけど



疲れるから

めんどくさいから

がんばるなんて

やーだよ!



【彩】


君が言葉を無くしたら

世界はたちまち色を無くす


咲く花の白も

果実の橙も

飛ぶ鳥の翠も

空と海の青も


そこに有る意味を失って

ただどこまでも透明になる



言葉紡げ

君よ

世界彩るため


その指で

口唇で

詩をうたえ


鮮やかさ

取り戻せ

形にするため

表すのだ



流れる血の紅も

果てなき深淵の黒も


【親愛なる糞ッタレ様】


前略

 私を相手にして勝てると思っているのが気にくわないのでぶっ潰してさしあげます。

 お元気で。

             草々



【もーもーさんのおうた】


もーもー

もーもー


かわいいね


ちゃいろのけなみ

うつくしく


かろやかにはね

たのしそう


もーもー

もーもー


あいらしく

ないては

おかあさんをよぶよ


もーもー


おかあさん

どこ?


もーもー


だれかのおなかのなか



もーもー

かわいいこども


もーもー

おいしいおとな


もーもー



【カエレ!】


かえれ

かえれ

かえれ

かえれ

お前マジかえれ

うっとぉしい


何で居んの?

はやくかえれよ

誰も望んでねーよ



還れ

還れ

還れ

還れ

本当マジ還れ

土になってしまえ

ここに居んな


皆の希望が

「還れ」なんだよ

お願いしまーす

還ってくださーい


おウチでママにも

言われてんでしょ

「お還りなさい」

ってさ



還れ

還れ

還れ

還れ

今すぐ還れ

不必要な存在

居なくなれよ


お前還れ



【確実すぎる願い】


最期に望むこと


君のこと好きなまま死にたい



叶わないはずがないけど



【あなたは知らない】


私が

こんなにも

あなたのことが

好きで好きで好きで

こんなふうに泣いていることを

あなたは何も知らないで

世界のどこかで今日も

笑っているんだろう


悔しくて

恨めしくて

だけどとてもうれしいの



【青の記憶】


波音が呼んでいる

遠く遥かから


知っているよ

懐かしい声


両眼から溢れるものは

そこにいた証


誰も皆いつしか

海に帰る日を

望んでいるのだろう



細胞が覚えている

昔、昔の

青の記憶


満たされていた

思い返せば

切なくて


取り戻したい

その青

だからこんなにも

海に会いたい


【ぎゅって!】


ぎゅっ

ぎゅっ

ぎゅー


君のこと

君のこと

ぎゅってしたいな


ありったけの

想いこめて

力いっぱい

ぎゅってしたいな


ぎゅっ

ぎゅっ

ぎゅー


私のこの手で

君を

強く



握り潰したいな



ぎゅーっ



【私が起こした嵐の中で私が言ったこと】


価値の否定


私の大切なものが

あなたには大切なものじゃないと

それはわかるけど

だからってそんなふうに

卑下される覚えもないの


くだらないとか

馬鹿みたいだとか

笑うのを止めて


その笑い声で息も止まりそう

呼吸がうまくできなくなる

私の宝物たちに

酷いことを言わないで


私がそれらを愛することを

悪とみなすのを止めて!


それを認められなかったら

私は何も愛せない!


私の中の素敵な世界を

勝手に持ち出して

捨てるのを止めてぇ!


それがあるから私なの!

それは私の一部なの!

止めて!

返して!

泥棒! 泥棒! 泥棒!


返せ!



【夏の雪】


耐え難いギャップ

「当たり前」になんてなれない

ただ「まとも」であること

それだけなのに



夏の空に

雪を望んだ

「世界は異常だ」と

怯える声を


世界が狂っているなら

私の狂気も

紛れるだろう

見えないだろう



【嵐の記憶を探りあてた時に私が言ったこと】


昔、(わたし)が言っていたこと

今掘り起こして

眺めているよ


張り裂けそうな想い

手のひらに


(わたし)がとても

悲しかったこと

誰よりもわかるのは

私だから


遠い時間越えて

(わたし)を慰められるのは

私しかいないのだから



だから(わたし)はそんなふうに

「誰もわかってくれない」と

泣くことなんて

ないんだよ



(見て! こんなに大きな傷が!)



ああ、見てるよ

とてもわかるよ

酷く痛むこと

私も同じ傷があってね

今でも時々痛むんだ



【あなたを目指す者のうた】


裏手の山の

背の高い一本杉

あなたのようにありたいと

背筋を伸ばして

立っている


庭の花壇の

咲き誇る百合の花

あなたのようでありたいと

気高く凛と

咲いている


あなたの傍で

見上げてる私

あなたのようになりたいと

真似してみても

足りなくて

ため息ばかり

ついている



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