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龍宮のお姫様のドロップ  作者: 八田硝子
6/9

☆☆☆☆☆☆

【女体】


大丈夫

切らないから

そんなことはしない


だって私には

女には

初めから

切れ目がある

たくさん血が出る


だからわざわざ

切る必要ない



神様に切りつけられた存在

女だから



【無花果】


無花果の実

庭の

無花果の実


もう熟したものかと

一つかぶりついてみたけれど

まだまだ青臭い味で


まるで君の味のようだと

舌に絡めては

喉に落としていく


無花果の実の青い青い味



【月に足跡】


風が吹くこの星では

足跡なんてすぐに

消え去ってしまうけれど


あの日君が確かに

自ら一歩踏み出した

その足跡は

未だ私の中で

形を崩さず残っている


昔宇宙飛行士がつけた

足跡が今も残るように



君は私を月にもできる


【ひとりでいくわ】


ひとりが平気になったのは

強くなったんじゃなく

慣れただけだけど


ひとりでいける気軽さは

強がりじゃなく

本当の話


私ひとりでどこへでもいけるわ


誰かが枷になることもなく

誰かに道を変えられることもなく


好きな時に休めるわ

帰りたくなったら帰れるわ


誰かがいたら通れない道

ひとりなら通れるわ


ひとりの道は寂しい道

だけど案外

楽しい道


知っていた?



【雪星】


暗い夜空に

街灯に照らされ

白く輝く雪が舞う




宇宙降り注ぐ幻覚を見た



【我が軍に勝利を】


口をついてでた言葉は

ささやかな宣戦布告



これから反撃を開始する



馬鹿にされるの

飽きたんだ


【君はオリオン】


月天心

オリオン腕を

伸ばせども

届かぬ姿

君に似ており



【愛をあげるわ】


この手のひらが

作る愛は

いつもいびつで

不恰好


そんななのに君は

それでもいいなんて

愛を欲するから


苛立って

愛なんか

投げつけたくなる



愛で額を割って死んだら?



【ひのかけらふるひ】


世界爆破させて降る空の美しさ


【みずのたびびと】


ああもはや

傷をつけるじゃ足りなくて


なにか薬品で


溶かして

溶かして


どろどろ

どろどろ


液体になって


川にでも流しこんで欲しい



汚水は

浄化されることなく

海を目指す



【くびくび】


くび

くびはくびれ

くびくびれる

くびくくり

くびる

くびくびれば

くびくくりか

くびれたくび

くびってくび

くびくびくび


首は括れ

首括れる

首縊り

縊る

首縊れば

首縊りか

括れた首

縊って首

首首首



【モノゴイ】


痛かったとか苦しかったとか

大袈裟に話せば

みんなもっと見てくれる


知っているよ

有効な手段


だけどそんなみっともない真似

とてもじゃないが

恥ずかしくてできない



君なんかみたいに

君がよくするみたいに


【そっくり少女のひみつ】


わ・わ・わ

わたしたち

そっくり少女

右がメアリー

左がミリー


同じ青い目してるの

同じ金髪巻毛なの

同じ真っ白な肌なの


わ・わ・わ

わたしたち

見分けがつかない

赤いリボンはメアリー

青いリボンはミリーよ


同じ家で産まれたの

同じ両親に産まれたの

同じ日に産まれたの


でもね

わたしたち

ふたごじゃないわ


わ・わ・わ

わたしたち

そっくり少女


なぜかしら

なぜかしら

こんなことってあるかしら


どうぞ答えて紳士さま

わたしたちのひみつ

どうぞ解き明かして



【そっくり少女のこたえ】


わ・わ・わ

わたしたち

そっくり少女


なにもかも

よく似てるわ

でもふたごじゃないの


紳士さま

紳士さま

わたしたちのひみつ

わかったかしら?



わ・わたしはメアリー

右側の

赤いリボンの子



わ・わたしはミリー

左側の

青いリボンの子よ



そして

そして



わ・わたしはアリー

真ん中の

黄色いリボンの子なの



わ・わ・わ

わたしたち

そっくり少女

ふたごじゃないわ

みつごなの



おわかりになって?

紳士さま

真実は紛れるもの

足元にお気をつけて

よい旅を

紳士さま



【すがる腕】


この腕

いくら切りつければ

千切れ落ちるの


大切なもの

すがりついたまま

離せないでいる

このみっともない腕は


腕を落とさなければ

どこにも行けないのに

何にも成れないのに


【白紙】


ひろげた用紙は

何も書いていないけれど

それ故に脅迫状だ



コーヒーカップに飛び込み自殺



【君に はなを】


君に花を


それは本当の花でなくていい

造花でいいという意味でなくて


花のように

心踊る何か


いつもの生活が

ほんの少しでも

楽しくなるような

ささやかで

けれど美しい

何か


それは華と言えばいいのかも知れない




君に人生に心からのはなを


いつか贈れたらいい

いつもそんなふうなことを考えている



【だって、戦争なんです。】


もう痛いのは長くって

何が痛いのかわからなくなった

ただ時折目眩がする

そのまま倒れてしまいたいけど



攻撃しなくては


多勢に無勢

体は弱りきって

勝てるはずもない


でも攻撃しなくては


攻撃されるから


誰かが正しいことを言った

その誰かを殺しても

自分こそ正しいと

主張しなくては




誰のため?


【蝕む】


むしばむ

蝕む


虫が食む


あの嫌らしい芋虫が

健やかな緑にかぶりつき

穴を空ける

侵す

台無しにする


そんなふうに


君の一言一言が

僕を蝕む




芋虫め



【空木】


建てる

建てる

塔を

建てる


人々は

歓声をあげる


建てる

聖書の民のように




だけど富士山に

かなわない


だけど太陽に

届かない



【墓標】


さよならと大きく振った

君のその腕は

そのまま僕の墓標となって

僕の心に刺さっている



あの日僕は死んだんだ

さよならに耐えきれなくて

ここにいるのは

ただの死体だ


【届かないけど】


届かなくても

いいの


この手がまだ届かなくても


手を伸ばしているうちは

手が届く夢を見られるから


それで生きていけるから


まだ届かなくても

いいの



【心配しないで】


「痛みますか」

なんて

心配かけて

ごめんなさい


あいにく痛む暇すらなくて

災いから逃れたというのに

ただひたすら

歩く道の途中で

うっかりと

死ねそうで



だから傷のことは心配ないの

そんなことは平気だから



【坂の向こうで待っていて】


この坂道越えればあなたにあえる


この坂道越えればあなたにあえる


駆け上る足取りは


下り坂より軽くって


【督促状】


あなた方は

私から

たくさん魚をとりました


そして私の土地で遊び


たくさん汚していきました



そろそろ代金をいただきます


たくさん

たくさん

いただきます



覚悟していてくださいね



【世界唯一の大切なあなたへ】


例えばあなたが今

何もしていなくても

あなたがそこにいる

それを想うだけで

私はうれしくなれる



いるだけで人を救えるのだから

あなたはとても希少な人



お元気で

どうかお元気で



健やかでありますように

心安らかでありますように


願っています

どんな時も



ほら、今も



【4月2日午前11時】


残骸の上では今日も

烏たちがたくましく鳴く


私も真似て我が家の

あった辺りに立ち尽くす



なんて素敵なロケーション!



あの烏たちみたいに

いくらだって

レクイエムが歌えそうよ!


【桜咲く咲く】


桜は咲くよ

もうすぐ咲くよ


何も知らないふりをして

すべて知っているくせに


暖かな陽射しを浴び

春の日を告げるため

約束を守るように


桜は咲くよ

また今年も咲くよ




何も変わらないと笑って



【ガムテ。】


みんなが私の

口をふさぐ


「あなたは優しいから」

って書いてある

ガムテープを貼り付ける



「悪いことするけど

黙っててくれるよね」



「あなたは優しいから」



「都合がいいから」

よりも

強力なガムテープ



だけどね

もういい加減

剥がしちゃうよ


剥がれないと思ってた?

ごめんね

私本当は

優しくないのよ




【こころ☆コーラス】


聞こえてくるのは

私を責める声だけ


「そんなこと言ってないよ」

でも私には聞こえるの


裏側で

そう言ってるんでしょ?


「いらない奴」

みんなして声を揃えて


否定ばかりが耳をえぐって

心凍らす

非難の合唱


空耳ふぁみれど

死し空見れど

こころコーラス

音の無い歌


【大勢に与える為薄められた言葉じゃ満たされない】


「独りじゃない」

と言うけれど

「皆仲間だ」

と言うけれど


寂しい時に

ここにいない癖に


今ここに

いてくれない癖に




何を



【むしムシ虫詩】


あなたに

あなたに

あなたに


たんすのひきだしいっぱいの

ヒメマルカツオブシムシ

贈ります


一匹一匹の命が

私の想い

どうか受け止めて



あなたに

あなたに

あなたに


米びついっぱいの

ノシメマダラメイガ

贈ります



あなたの暮らしに

そっともぐり込んで

密かにそばに居るような


ああ

そんな虫になりたい



やがて

やがて

行く末は



あなたの中に

入り込んで

中をいっぱいに

満たすくらいの



私は

私は

私は



回虫になりたい



【ふみーん】


眠れないは怖い

眠らないは怖くない

でも寝ないと辛い

どうしようもない


【いつか、お願い】


「かわいそうに」


そう言って

あなたが殺してくれる


そんなことを

夢みていたら

うれしくて

幸せで

泣きたくなった


どうか犯罪者にならないよう

上手に殺して


それだけが心配



【見ないで頂戴】


隠しているものを見ないで


引き出しの日記も

携帯の中身も


見ないで

寛容であるべきよ


見なければあなた達も

嫌な思いをせずに済む


プライバシーの侵害よ

入り込まないで


押し入れからはみ出している

手足なんて

見なかったことにして



【望まれるひと】


望まれる人と

望まれない人っていうのは

どうしてもあって


私は間違いなく後者で

あなたは前者


どこかの宗教の人が

「我々は選ばれし者だ」

なんて言っていたのを

酷く馬鹿にしていたけれど

あなたに会って思った

選ばれている人はいるんだなって



それは嫉妬もわかないほどの絶対



だからどうかまかり間違っても

「いないほうがいいかも」

なんて思わないで


そんなことを思っていいのは

私のような人間だけ



ええ

誰もがきっと

望んでいるわ


何より誰より

私が望んでいるわ



ここにあれ

ここにあれ

あなた

ここにあれ



幸いあれ

幸いあれ

あなたに

幸いあれ


【秘密だよ】


誰にも言えないこと

僕の(いりぐち)に流しこんで

(でぐち)には封をして

「秘密だよ」って


僕ら秘密共有しあえば

きっと離れることなどなく

運命に手足絡め

一つのものになれるでしょう



誰にも教えないこと

きみの(いりぐち)から詰めて

(でぐち)には鍵をかけよう

「内緒だよ」って


君にだけ伝えよう

僕の本当のところ

いつか見た夢の話も

傷跡が持つエピソードも



そうして与えあって

何かが軽くなったら

ここにいる意味があったって

ようやく思えるんだよ




「秘密だよ」

「誰にも言っちゃダメ」

「内緒だよ」

「君にだけ教えてあげるね」

「僕はこんなに醜くて」

「君はこんなに美しい」

「本当の話」

「絶対秘密だよ」




「君を信用している」



【雨の降る日は】


雨の日は好きよ

雨音を聞いていると

寂しさで胸がぎゅっとなって

そのまま

泣き疲れたみたいに眠るの



【持ち物】


「何もかも無くした」と

嘆こうとしたけれど

そもそも私は

何一つ持っていなかった



よかったね

悲しむ必要なんてないんだ

本当によかった


【やさしくないのよ】


「やさしい子だね」

なんて

そんなことを言わないで

的外れにもほどがある

私やさしくないのよ


私の嘘だらけの言葉に

ごまかされたりしないで

信用しないで

この口は簡単に嘘を吐くの


やさしいなんて

幻想を抱かないで

私の何を見ているの

この嫌らしく

薄汚い

私の


やさしいという理由で

愛したりしないで!

嫌なの

知れてしまったら

失ってしまう

そんなのは恐ろしい


早く気付いて

やさしくなんかないの

勘違いしてしまう

自分はやさしいって


愛される価値があるって



【覚めない】


手をのばして

もがいてもがいて

目が覚めて

それでもやっぱり

悪夢の中


けして覚めない

終わりなき悪夢



【たのしい世界】


神様は言いました


「全員の願い叶えるの無理(笑)」


だから幸と不幸があって

だから上と下があって

だからすべて不平等で



だから世界は面白い


【ココア】


なんでもないよ

たださ

帰ったら

ココアをいれてほしい


何にも言いたくないよ

君が優しいのを知っているから

言ったら僕以上に

悲しんだりするだろうから


心配させるなんて

趣味じゃないよ

全部ちゃんと

一人で終わらせてくるから



君のココアは

ちょっといいココアパウダーと

ミルクパンで丁寧に温めた

牛乳を使う

最後の仕上げに

マシュマロを乗っけるから

痺れるほどに甘くって

泣きたくなるほど

ほっとする



君に何にも

望んだりしないよ

僕のことは僕が

だけどただ一つ

ココアいれて待ってて



【ヒトとカラスと】


公園のヒト

ハトに餌を撒くけれど

カラスに餌は与えない



カラスは賢いから


自ら生きていけるから


ヒトに嫌われているなんて

とうに知っているのだから



【八木さんゆうびん】


大好きなひとに

お手紙書いた

だけど八木さん

出さずに捨てた

勇気をだして

も一度書いた

「メールのほうがいいかしら?」


八木さんの家に

お手紙ついた

青い封筒

あのひとの名前

開けたいけれど

開けられなくて

八木さん一晩

眠れない


ようやく開けたお手紙の

青い便せん綺麗な文字

「ごめんなさい」と

丁寧に

八木さん本当に悲しくなって

めえめえめえめえ

泣きました


【正しさは君に】


君の指差す道をいこう


その先が

例え地の底へ向かおうと

深い海へと沈もうと


君の思う所へいこう


世界の正しさじゃなくて

君の正しさで



正解なんて

本当はないんだ

それなら君が

選んだものを



君がただ望む行方を

どうか僕に示して欲しい




迷い無き声が響いた



【二丁拳銃アリス】


スカートの下から

慣れた手つき

鈍く光る拳銃

取り出してみせる


一丁はあの子のため

もう一丁は?

どうかこちらに向けないで

アリス

大事な帽子

穴あけちゃ困る



「ハロー、マッドハッター

なんでもない日おめでとう

紅茶とケーキを渡しなさい」



そんなこと言われても

銃口を口に入れられちゃね

手に持ったポットも

落としてしまうってもんさ

そうだろ?



不思議の国

迷い込んだ

不思議な娘

二丁拳銃アリス


昔のアリスはよかったよ

ただ翻弄されていただけ


起こしてくれる人がいないから

帰れない

二丁拳銃アリス


こんな世の中生きるには

力が要ると知ってしまったよ



ルイス・キャロルは

偉大な魔術師

知っているかい

数学は魔術さ

そんな拳銃で

撃ち抜けるかな

やって見せてよ

二丁拳銃アリス



僕らはにやにや笑いで見てる



【ヘヴィ】


ライトになんて

なれるはずない

口づけ一つの

意味すら重い


言えないけど

言わないけど

相当に重い歴史

抱えこんでる

人生だから


ライトになんて

愛せない

二人ぶんならなおさら



重なれば

地に沈むほど

重い

想い

重いよ


ライトなんかじゃ

感じられない

その重さの愛で

圧死させて



【不幸でさえ望みの内】


幸せに

なれるかなんて

どうでもいい

ただ傍にいたい

傍にいたい



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