さんきゅー。
三月九日はサンキューの日らしいので。
3月9日=感謝の日らしい。
真偽は知らないが、テレビのなかのおっさん(小学生から見て。実際は30代。)がそう言っていた。
3月9日だからさんきゅーってバカだろう、とか思いつつ、私―――森本愛奈はあんパンをかじりながらテレビのおっさんが「ぼくも妻に感謝しないといけませんねー。」とかのろけるのを見る。お前ののろけはいらない。新婚だという情報もいらない。……何で祝福するケーキ出てくんの?このテレビ大丈夫?
けれど、愛奈はのんびりともぐもぐとパンを食べながら思う。
……感謝の日、かぁ……。
そもそも小学生で生活させてもらってるだけで感謝すべきではあるだろう。
……たとえ、両親が両方忙しくて、構ってもらえなくて、それに対して不満を覚えていたとしても。
愛奈の両親は二人とも医者だ。
だから、というわけではないが朝は何時も早く、夜は遅い。休みの日も突然呼ばれることも少なくなくて……だから、、愛奈にはあまり家族で遊んだ思い出はない。
……大切にはしてもらってるんだけど……。
もう少し構ってほしいと、そう思う。
友達が旅行に行った、と楽しそうに話しながら土産を配るのを、愛奈はいつも眺めるだけだった。
友達が家族で出かける、と楽しそうに話すのを、愛奈はいつも聞くだけだった。
両親の仕事は誇りだ。多くの人を救う両親にあこがれて、自分もいつかはああなりたい、と夢見る。
だから勉強もがんばってるし、人を思いやることも考えてる。うん。私かんぺきー。
……えっと、なんていうんだっけ?けんわけーだい?……まぁいいや。この話は置いといてっと。
それた話を戻す。本題は感謝の日だ。サンキューの日な気もするが。
何か、したいな……。
ぼんやり思う。小学生だから、大したことは出来ない。けど、機会がないときっと何もできないから……
「よしっ!」
愛奈はあんパンの残りを一気に食べ、テレビを消して財布を取るため自分の部屋に走った。
――――――――――
愛奈の両親である森本夫妻の帰宅は遅い。何時も夜の十一時を回る。
愛奈には九時には寝るよう言っているし、その時間には愛奈は自然と寝てしまう。
だから、帰宅する家はいつも電気が消えているのだけど。
「……ついてる?」
明かりがついたままのリビングを見て、母親は驚いたように言う。父親も不思議そうに首を傾げている。
まさか、消し忘れた?
そう考えて、それはないだろうと思う。愛奈は小学生にしてはしっかりしていて、今までそんなことは一度もなかったからだ。
頼りがいはあるが、もう少し子供ぽくてもいいと思う。親の勝手な意見だが。
中に入り、カギを内側からしめなおしてリビングに行く。起きていたら怒らないと、と思いながら。
そして、扉を開き―――
――――――――――
「寝て……る?」
リビングの机に突っ伏して眠る愛奈を見つけた。
両親が帰ってくるのを待って……けれど睡魔に勝てず、寝てしまったのだろうか?
「おい。」
部屋に移動しよう、と近づいた父親が、母親を呼ぶ。彼の指す先には愛奈の手作りだと思われるいびつなクッキーと小さな花、そして小さなカードがあり……
「今日……なんかの記念日?」
母親はそう尋ねながら、父親が見るカードを覗き込む。しばし二人でその内容を見て、その内容に頬を緩ませ……どちらともなく提案した。
「今度、ちゃんとした休みとろうか?」
「そうね。ずっと、何もできてないもの。」
二人は同意しあい、ぐっすり寝入ってしまった愛娘の頭を撫で、気持ちを込めてつづられたカードの返事をするように、言葉を重ねた。
「こちらこそ、いつもありがとう。」
―――――――――
お母さん、お父さんへ。
今日はかんしゃの日だってテレビがいってたから、クッキーつくってみたよ。お母さんと一緒に作った時みたいに上手にできなかったけど、上手くできてたらうれしいな。いつもいなくてさびしいけど、いつも色々気にしてくれてありがとう。うまく言えないけど、いろんな人をたすけるおしごとをしてるお母さんとお父さんが大すきだよ。
わたしも、いつかお母さんとお父さんみたいにいろんな人を助けるおいしゃさんになるから、そのときはいっしょにおしごとしようね。
まな
お付き合いくださりありがとうございました。
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