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追い詰められた時に、その人の本性が出る。それはそれとして

作者: 椎名正
掲載日:2026/03/13

 追い詰められた時に、その人の本性が出る。

 そんな言葉がある。

 その言葉が事実かどうかは、私にとってどうでもいいことだ。

 私はなるべく追い詰められる状況に陥らないようにするだけだ。

 それでも、追い詰められる状況になることがある。

 その経験で、私は知った。

 私は追い詰められたら、奇声をあげるタイプだ。

 「きゃはーん」




 私は王子に婚約破棄宣言をされた。

 その時の私は、まだ余裕だった。

 と言うより、反撃の闘志がみなぎっていた。

 「私の代わりになる女は、さぞかしお肌がぴちぴちなのでしょうね。十年後もそのぴちぴちが続くならいいでしょうけど」

 私は真実の愛をみつけたとほざく王子に、まず軽い嫌味をぶつける。

 「僕が愛しているのは、フレア・カートリックだ」

 私の頭が一瞬真っ白になった。

 きゃはーん。

 どこかで変な音がした。

 それが自分の口から発せられたものだとは、その時は気がつかなかった。

 「フレア・カートリックって、この王国の聖女ですか?」

 「そうだ」

 意識は戻ったが、目の前が一瞬真っ暗になる。

 「十年前にこの王国を救った、フレア・カートリックですか?」

 「そうだ」

 「二十年前に世界を救った、フレア・カートリックですか?」

 「そうだ」

 「もう四十すぎているじゃないですか」

 「わかっている」

 「一度、結婚しているじゃないですか」

 「夫とは死別だ。法的には何の問題もない」

 「私の実の母親じゃないですか」

 「そうだ」

 今度は自分の口から奇声が漏れているのがわかった。

 「あぴゃーん」


 きつい。

 二十を過ぎて、自分の母親が、頬を染めて自分より一つ年下の男に寄りそっている姿を見るのは、きつすぎる。

 「何しているんですか、お母様」

 「ごめんなさい。でも、私も女だったのです」

 その母親の言葉に、私は吐きそうになる。

 「どうして、そんなことになったんですか?」

 「それは、この前の聖女祭の夜に、王子に子供のときから好きだったと押したおされて。私も本気では抵抗できなくて、私は王子をうけいれてしまったのです」

 「あの、お母様、すみません。性的な部分は除いてくれませんか」

 「ですが、そこが大事な部分ですから。後日、顔を蒼白にして謝罪する王子が可愛くて、私の方から誘ってしまい」

 「本当に勘弁してください」


 「よく考えてください、お母様。このままじゃあ、私もお母様も世間のいい笑いものですよ。私は四十すぎたばばぁに男をとられたバカで、お母様はいい年して若い男に入れあげたバカですよ。バカ親子ですよ」

 王子が、私の母親をかばうように前にでる。

 「君の母親は、僕が守る」

 「そんな口先だけの奴に、私の大事なお母様を任せられないのよ!」

 怒鳴ってから、私はあわてて口を押えるが遅かった。今の言葉で、二人の関係をもう認めてしまったことを知られてしまった。

 「あなたは強い子です。だから、私はあなたにざまぁされることを覚悟してました」

 「そんなことできるわけないじゃないですか。お母様は、この世界を救った聖女で、みんなから愛されていて、でも、私にとってはそんなことはどうでもよくて、私にとっては大切なお母様なんです」

 「ありがとう」

 「幸せになってください」

 私の言葉に、お母様は自分のおなかをさする。

 その動作を見て、私は吐き気がして、自分の口を手で押さえる。

 「あなたに報告があります」

 お母様が次に何を言うのか予想はできた。

 絶対に聞きたくなかったが、私の両手は口を押えてしまい、耳をふさげなかった。

 耳は、目と違い閉じることはできない。

 「私は子供を授かりました。あなたに弟か妹ができます」

 私は口を開く。

 「あべぎばばぼぎゃあががががががぴゃごごごごご」


   おわり


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