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02 恋愛とは“信じられるかどうか”

「そうか、振られたのか……」


公園で晩酌をした後、俺は中高の同級生であり、現在同居人の駒沢 健二に今日の顛末を報告していた。


健二は、昔から妙に器用貧乏なやつで、

運動も勉強も、飛び抜けてはいないが、そこそこ出来きていた。

料理も掃除も、なぜか無難にこなす。


そのくせ、どれも「俺が本気出せばもっといけるんだけど」みたいな顔をしてるから腹が立つ。


でも、クラスで困ってるやつがいれば自然と手を貸すし、それが会社になって変わらないのだろう 


場がシラけてるときは必ず笑いに変える。

所謂、愛されキャラってやつだ。


今は家賃が安くなるからという理由でシェアハウスをしている。普段から恋愛相談も乗ってもらっていたこともあり、言わないわけにいかない。


「まぁな。帰りに公園でシャイニング・ウィザードしてる女にも出くわすし」

「なんだそのワード。お前酔ってんのか?」

「いや、マジだって」


正寿は半笑いで缶を掲げる。健二は「はぁ?」と首を傾げつつも、興味を持った様子。


「にしてもひでー振られ方だな」

「だよなぁ」


どストレートな物言いだが、

だからこそ、こいつと話すだけで、なんとなく気が紛れる気もする。


「話聞いてるだけだったし、直接会ったことないからなぁ。さすがに俺にも向こうの心理は分からないな」

「さすがに恋愛マスターの健二様にも無理ですか」

「よせやい」


軽口を叩きながら、健二は缶を口に運び、わざとらしく肩をすくめてみせる。


「ま、でもお前……顔は悪くはないんだよな」

「は?」


その後、良くもないって付きそうなんだけど


「いや、ほんと。身長も平均、顔も普通。あ、でも365日眠そうなのはマイナスか。で、髪も寝ぐせ率高め」

「……おい」

「でもな、その“どこにでもいる感”が逆にお前を影薄くしてんのよ」

「……お前、それ褒めてんのか?」

「褒めてるつもり。ただ“普通すぎて損してる男”って、俺の中でジャンル確立してるから」

「なんだそれ」

「ただ……今回振られたのは容姿とかじゃない気がするんだよな」

「どういう意味だよ?」


振られた理由など、心当たりありすぎて逆に分からん。

……なんで告白したんだ?俺。


「二人きりで複数回、飯行くってのは、そこそこ脈があった気もするんだけどな、しかも仕事帰りだけじゃなくて休みの日も行ってただろ

「まぁそれは……」

「そこで告白してダメだったのは……お前がどうこうってより、向こうに“引っかかるもん”があったんじゃねぇの」

「……引っかかるもん?」

「そう。たとえばタイミングとか、過去の誰かとか。そういうの」


健二は空き缶をコツンと合わせるように机に置いた。


「なんにしても、少なくとも“異性から好意を向けられると引く”ってやつは、俺には理解できんわ」

「そういうもんなのかね」

「そういうもんだろ。好きって言われて嬉しくない奴がいるのかって話だ」

「……いるんだよ、ここにな」

「お前じゃねーだろ」

「俺じゃないけど、俺が被害を受けたんだよ」


ボヤかずにはいられない。


「まぁ、人それぞれだな。俺なんかは真逆だし」

「真逆?」

「好きって言われたら……たぶん一発で落ちる」

「それはそれでチョロすぎるだろ」

「もちろん、ストライクゾーンだったらな。でもそうじゃなくても、うれしいとは思うぞ。『あぁ……俺モテてるっっっ!!!』ってな」


胸に手をやる姿がなんとも鬱陶しい。

よし、刺してやることにしよう。


「そんなんだと彼女に怒られるんじゃないか?」


俺が茶化すと、健二は肩をすくめる。


「大丈夫大丈夫。あの子はそういうの気にしないから」

「……ふーん」

「それにな、彼氏がモテてるってことはそれだけ魅力的だってことだろ?プラスだと俺は思うんだけどな」

「さいですか」


鼻につくくらいの自信。

けど、そこに迷いはなかった。


「まぁ、信じてるからこそだな」

健二はそう言って、グラスを軽く掲げる仕草をした。


「俺は浮気もしないし。真面目一本、安心安全」


胸を張ってそう言う姿がやたら誇らしげで、逆にちょっと不安になる。


「まぁ……信じられるならいいけどな」

「なんだよその言い方。お前は人間不信か?」

「さっき振られたばっかの人間に言うセリフじゃねぇだろ、それ」


俺がジト目を送ると、健二は「ははっ」と笑った。


「でもさ、正寿。恋愛なんて最後は“信じられるかどうか”だぞ」


健二はそう言って、どこか達観した顔をしていた。

……その言葉を、この先の自分に向けて言ってやりたい。


けど今は、ただ安っぽい慰めにすら救われてしまう自分がなんだか悔しかった

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