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#4 エンジョイしすぎじゃない?

流れる町を窓越しに眺めながら、聞き慣れたプレイリストを再生する。

大学帰り。バスに揺られながら物思いにふける。いつも通りの帰り道。


ただ、いつもと違うのは。


ーティロン♪


〖お疲れ様デス!〗

〖そろそろパート終わるので、バス停で待ってて下サイ♡〗

【大好き❤を伝える犬スタンプ】


「…文字もカタコトになるんだ…」


普段鳴らないはずの通知音と、同居人からのメッセージ。



ーザクロと同居し始めて、かれこれ数週間が経った。


と言っても。

朝起きて、一緒にご飯を食べて、会話して…その間に挟んでくる求婚を断って。

各自学校やパートに出かけて。その後はまた一緒にご飯を食べて会話して、別々の部屋で寝る。

その繰り返しだ。


予想外にも、平穏に日々を送れている。


トーク画面を遡ると、休憩中であろう彼が送ってきたトークと画像が表示された。



〖職場のマダムに大量のリンゴを頂いたので、アップルパイ作ってみたいデス^^〗


そこにはコンビニ袋の中いっぱいのリンゴを見せびらかす彼の姿…

と、背景に頬を赤らめた笑顔(デレデレと言った方がいいんだろうか)のマダム達がピースをしながら映っていた。



人間をもっと理解したい、それに食費くらいは稼ぎたい。

そう言って彼はいつの間にかバイト先を見つけ、近所のスーパーで元気に働いていた。


マダム達の話を聞くうち、家事に興味を持つようになったとかで。

暇さえあれば料理、洗濯、掃除の研究をしている。

楽しそうに何かをしている存在が傍にいると、こっちの気分も晴れる。


…うん、楽しそうにしてるのはいい事。なんだけど。



(あんず)サァン…?まぁたコンビニ寄ってきたんデスか…?年頃の人間が、お菓子や菓子パンばっか食べちゃダメデスってば!!」


…なんて日々の不摂生をダメだしされ、今では彼が食事当番になっている。

なんなら他の家事も全部やりたがる。王子なのに。

マダム達の影響で、目の付け所がオカンっぽくなってきてる。

洗濯機に入れるときは靴下裏返さないでとか言ってくる。吸血鬼なのに。


…いや、それは私がズボラなせいでもあるんだけど。

…それにしても。


「人間界、エンジョイしすぎてない…?」


OK!猫スタンプを送ったところで、バスが停止する。

ちょうどバス停近くにあるスーパーのガラス越しに、ちらちらと見覚えのある白銀が映った。


(そういえば、初めて働いてるとこ見たな…)


今日は土曜。夜間部でも午前中から講義が始まり、夕方に帰れる日。

普段は21時過ぎまで大学に居るので、その頃にはもうスーパーが閉まっていた。


ザクロの方も新人だし慣れるまでは…と土日は休み扱いだった。

けど。人外特有の並はずれた身体能力を仕事で発揮し、この間店長に泣きつかれたらしく本日から土曜も出勤になった。

そんなわけで、彼のバイト中に鉢合わせる機会は今までなかった。


「…ちょっと様子見てみよ…」


バスを降りようと椅子から立ち上がり、出口まで移動する。





『ー見つけた』


「…?」


不意に後ろから声が聞こえた。…ような気がしたけど。

振り返ってみても、そこには誰一人いなかった。


「…気のせい?」


首をかしげながらも、バスを後にする。

そんな事より、人外である同居人が。人間に混じってどう働いているかが気になる。




____________________


近所のスーパーマーケット

【スーパー☆キワノ】にて




≪さぁ!閉店間近の大チャンスタイムセールです!!卵と牛乳は1家族2パックまでとさせて頂きます!!あー困りますお客様!!押さないで!!いやフリじゃないですよ!!押さな…あああああ!!!≫


拡声器を持った店長が、仕事帰りの人間とお母様方…いや、獣と化した集団になぎ倒される。

ショッピングワゴンの周りで繰り広げられる争奪戦。ルールを無視して大量購入する猛者。

お菓子を買ってくれない、早くお家に帰りたい不満で泣き喚くキッズ。

人の波に流されるままになっている、心身ともに疲れたおじさん。


そんな阿鼻叫喚の戦場の中を、白銀の男は颯爽と駆け抜ける。


「早”くがえ”りだあ”あ”あ”あ”ああ”あああ”あい!!!!」

「こら、暴れないの!あっ!!」

「おっと!!危ないデスよ!!」


子供が暴れた拍子にぶつかって落ちそうになる卵を見事キャッチし。


「がはははは!!!どけぇい若造共!!全部ワシのもんじゃ!!!!」

「残念、卵と牛乳は2パックまでデスよ❤」

「な、なにぃぃぃぃぃ!?こやつ、いつの間にッ!!」


爆買い爆走おばあちゃんのカートから、難なく商品を棚に戻し。


「ザクちゃん!!2番レジヘルプお願い!!」

「任せて下サイ♪」

「は、早い…!!早すぎて最早腕から先が見えないわ!しかも完璧よ…!!」


押し寄せる会計の列を一瞬で捌き。


「…はぁ…」


おじさんは…そのまま人ごみに流されていった。



…。



「ありがとうザク君!!お陰で今日も無事に一日を終えれたよ!」

「店長と皆サンの教育の…たま…え~ッ…タマムシデス!」


「んもう、タマムシじゃなくて賜物よ!」

「それデス!それ!」

「あら~嬉しい事言ってくれるじゃないの~♡」


「ふっ小僧…ワシを止めるなんぞ、中々やりおるわ。…明日は負けんぞ」

「…ええ、私も負けマセンよ」



キャッキャ…


______________________________



「…すっごい馴染んでる…」



和気あいあいと。人間達に可愛がられる同居人(吸血鬼王子)の手前。


いかにも宇宙猫を背負ってます。みたいな顔した私が、薄くガラス越しに映っていた。



「いや…人間界、エンジョイしすぎじゃない…?」



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