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#1 吸血鬼の王子様

挿絵(By みてみん)

それは大学の帰り道、やけに紅い満月の夜の事だった。


夜間部所属の私は普段通り、我が家を目指して一直線に歩みを進めていた。

夜遊びするタチでもないし、第一友達もいない。コンビニに寄るくらいしかしない。


今日もこうして、つつがなく。穏やかに平穏に一日が終わる。はず。

そう心の中で思いつつ、夜空に浮かぶ不気味な色が、妙に胸をざわつかせた。


(…子供じゃないんだから)


自分の未だ幼い感性に呆れつつ、道すがらさっき買った菓子パンを頬張る。

どうせ人気(ひとけ)のない夜道、誰も見てなんかいない。

家に帰ったらレポートを進めて、歯を磨いてお風呂に入って、早く寝たいし。



そう、私の家は滅多に人も車も通らない、そんな場所にあった。




「大人しくしろ」


そう聞こえたのが先か、口をふさがれたのが先か。パンが地面に落ちたのが先か。

いつの間にか背後に迫っていた気配に気づかなかった。


抵抗すると痛い目に遭う。そのような事を言われてしまっては、大人しく従うしか無かった。

三人くらいだったと思う。あれよあれよという間に男達のワゴン車に乗せられ、手足を縛られ、目隠しをされてしまった。


学校帰りで気を抜いていた、今まで何事もなく帰り道を辿れていた私はすっかり失念していた。

滅多に人がいないというコトは、そういう(やから)が蔓延る場所でもあるという事を。


無情にもエンジン音をたてて、車は発進する。




______




…どれくらい経っただろうか。


しばらく走った後、ゆっくりとブレーキを踏む気配がした。


ゴソゴソと忙しなく衣擦れの音が近づいてきたかと思ったら、唐突に上着を捲られた。


「!!」

「動くな」


驚愕で大袈裟に身をよじれば、首に手をかけられ牽制される。

荒い吐息に囲まれ、抵抗もできず、ただ全身を複数の手でまさぐられていく不快感に、ただ耐える。


この絶望的な現状に怯えつつ、私はどこかで冷めている…というよりも既に諦めていた。


もういい、どうせロクでもない人生だ。無駄に痛いのは嫌だし、好きにしたらいい。

今までだって、こうやって諦めてきた。そんな感情が次第に大きくなっていく。


あと三枚…あと二枚だけ。剝ぎ取られてしまえば、生まれたままの姿になってしまう。


私の諦めも頂点に達してきた。



ーその時だった。





『こんばんは、美しいお嬢さん(レディ)




声が、頭の中に響いた。




『助けを、お望みで?』




なんて都合のいい幻聴だろう。





『もしそうなら、助けて差し上げられマスよ』




…なんかしゃべり方に癖あるな。

でも




『さぁ、貴女の答えを聞かせて』





…どうせ幻聴なら、答えてもいいかもしれない。

その方が諦めつくし。




「…たすけて」




…ほら。誰も来ない。

とうとう最後の砦。ブラとショーツも脱がされかけているのに。

もうおしまい。



乾いた笑いを遮るように、また声が聞こえた。





『勿論、喜んで』





次の瞬間、辺りを包む轟音と、誰かに抱き上げられたような浮遊感に包まれる。


晒された素肌に夜風が思い切り当たり、その寒さに思わず自分を抱き上げた何かに必死でしがみつく。




「…もう大丈夫デスよ」


パチン、と指を鳴らす音と共に。何故かスルスルと目隠しと手足の拘束が外れた。


目の前に現れたのは、白銀の髪に尖った耳。紅い月より紅い目をした青年の顔。

その人間とは思えないような、端正な顔立ちと異様な雰囲気にゆっくりと目を逸らす…。


と、同時に、今置かれている自分の現状に気づく。

遥か上空に舞い上がり、町中を見渡せる位置にいる現状に。



「~~~~~!!!!!!!!!」


反射で青年にしがみつけば、彼はクスリと可笑しそうに笑う。

わらいごとじゃない。



「いけマセンねぇ、淑女(レディ)が一人で夜道を歩くナンテ」


気になって追いかけて正解デシタ。とこっちの気もお構いなしに彼は話しかけてくる。




「…あなた、誰…何者…?」




混乱した頭では、この一言を絞り出すのが精いっぱいだった。

彼はうっかりしていた、と言わんばかりの表情で続ける。


「失礼しマシタ!私とシタ事が。大した自己紹介もせずに…では改めマシテ」



ひとつ咳払いをすると、彼は私に向き直る。



「はじめマシテ人間のお嬢さん(レディ)。私は吸血鬼。名は”ザカライアス・ブラッディハート”」

高等吸血鬼(ヴァンパイアロード)ザカライアス家の次期後継者…まぁつまり、平たく言えば王子デス」



吸 血 鬼 。 王 子 。


…ベタだけど、ほっぺを引っ張ってみる。普通に痛い。

素肌にあたる夜風の寒さも、どう考えても現実のそれだ。


…コウモリのような翼で彼が空を飛んでるのも、ありえないけど事実と認めるしかない。


そこまでは、どうにか無理にでも納得できた。でも



「本題はここからなんデスが…」



深紅の瞳が、泳いでいた私の目を捕らえる。

真剣で吸い込まれるような眼差しに、嫌でも目を逸らせない。



「本題…って?」


恐る恐る尋ねると、彼は意を決したように、口を開く。






「ー今宵、貴女を私の(きさき)としてお迎えしたく、馳せ参じマシタ」








はい…?





「…一先ず今は、貴女のお家へ。その…寒いデショうから」



完全にフリーズしてしまった私を気遣うように、話題を逸らされる。


横抱きにされたお腹の上に、彼が回収してくれたのであろう服がかかっているだけだった事を思い出し、唐突に気恥ずかしさでいっぱいになった。



「運びマスので、道案内を」

「あ、うん………あっち…」




気まずい空気の中、彼に抱えられ。お互い無言のまま家まで飛んで行った。

煌々と光る紅い月の不気味さなんて、今となっては最早どうでもいい。



后って、何だよ。

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