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#12 熱異常

ーあれから1ヶ月。


草木はもうすっかり新緑に変わり、夏の香りを纏った心地よい風が吹き抜けている。


まぁ、そんなこと私にとってはどうでもいいのだが。


愛しの婚約者(フィアンセ)はというと。心做しか、表情が柔らかくなったような気がする。以前より口数も、笑顔を見せてくれる回数も増えている。


…これでいい。このまま。この調子で。


彼女の私に対する好意が、日に日に少しづつ大きくなっていくのを感じる。同時に、私の計画も着実に進んでいる。内心浮かれずにはいられない。


あぁ。貴女の薬指に指輪を嵌める日が、待ち遠しくてならない。



全ては、あの日の約束を果たすため。


邪魔する者はこの手で、塵に変えて見せよう。


私と、貴女の幸せのため。



その為なら幾らでも、この身の限りを捧げよう。




…うん。




…まぁ、なんというか。





…それにしても。





「…蒸し暑ッ!」


起き抜けに、棺を思いっきり開けてしまった。


…暑い。暑すぎる。

今は6月。だのに、真夏のうだるようなこの暑さは一体なんなのか。


肺が外の新鮮な空気を求めて、荒く深呼吸を繰り返す。…体が汗だくで気持ち悪い。


(はぁー、昨日はせっかくいい気分で寝床に入り、(あんず)サンとの未来を妄想してたのに。…ってか、いつの間にか寝てて気づいたらもう朝デシタね…あまり寝た気がしない)


気持ち悪いのはお前だよ。

と脳内で死神の声が再生されたような気がするが、無視した。恋する男子の健全な感情デス、これは。


それはさておき。一昨日見た天気予報では確か、1週間くらい涼しい気温が続くでしょうとか何とか言っていたはずなのに。これが日本の風土というものなのだろうか。


(…魔界では大体地域ごとに気温が一定なんデスがね…実は人間界の方が環境的にハードなのでは…?)


…まぁそんなことはいい。先ずはいつも通り、朝食を作らなければ。


…いや、待て。



「…ゲッ!?」


棺の中に入れてある目覚まし時計を確認し、目玉が飛び出でるかと思った。


…思いっきり、1時間以上は寝坊している。



ーーーーーーーー



バタバタと着替えを済ませ、急いで居間へ向かう。


(今の今まで寝坊なんてした事なかったのに…!!)


「…ッおはようございマス!!」



居間の戸を開けると、そこには愛しの(あんず)サン❤

…と、にっくき死神、カリンの姿が。いや、呼んでないが?


「今呼んでないって顔したな。今日は週に一度の聞き取り調査の日だろ」


…そうだった。なぜ今日に限って。というかなぜ私も思い出せなかったのか。


「おはよ…珍しいね、寝坊するの。先に食べちゃってた」

「ってわけだから。お前もご飯食べたら外行きなよ〜(あんず)ちゃんのカウンセリング始めるから。…変なことしてないよな!」


「…してねーデスよ、あほ死神」


よく見れば食卓の上に、お茶漬けの素のカラと昨日のおかずの残り。…てかおい、死神。なにちゃっかりお前も一緒に朝食食ってんデスか。



「スミマセン…私とした事が…」


あぁ、この体たらくで。何が幾らでもこの身の限りを捧げよう、だ。


「えっそんな…、いつも家事任せっきりにしちゃってるんだから…気にしないで」


項垂れるしかない私に優しい言葉をかけて下さる我が婚約者(フィアンセ)、マジ天使。


「任せっきりなんて、私が好きでやってるだけデッ…げほ、けほッ…ッ?」

「…ザクロ?」


…一瞬視界がかすんだ。ような気が。

喉も、痛いような。身体が、だるいような。


…いや、そんな事は今どうでもいい。


「…あっ!そう!洗濯物!もう洗濯機止まってマスよね?干さない、と…」


そう。せめて他の事をやらねば。

少しでも、朝寝坊の失態を払拭したい。


「ちょっと、待てって。お前…もしかして」


…煩いな。死神風情が、気安く呼ばないで欲しいデス。


「…クロ?ザ…ロ!」


…どうしたんデスか?(あんず)サン。そんなに私を呼んで。

…あれ?でも、大きい声のはずなのに、ところどころ聞き取れないデス。


「…!…!!」


…死神も、なにか叫んでいるのに。まるで遠くにいるように、何を言ってるか分からない。



「…あ」



やっと理解が追いついたのは、気を失いかけてから。


真夏日のようなこの暑さは、気温などでなく。


喉のヒリつきや目眩は、気のせいでもなく。


声が遠く聞こえるのは、私の意識が遠くなっているからで。



「…私、風邪ひいちゃいマシタ…?」


「「今気づいたの!?!?」」


そこだけハッキリ聞き取った直後。一気に体の力が抜け、視界がブラックアウトした。



ーーーーーーーーーーー



ザクロが、目の前で倒れてしまった。


「…わ゛ーーー!!しっかりしろバカ王子!!救急車!?!?いや吸血鬼病院に運んじゃダメだ!国際問題どころの話じゃなくなる!!えーとえーと…どうすれば…!!」


…カリン君があたふたしている横で、私も固まることしか出来ない。


「…とりあえず、客間に布団、出すから。そこに寝かせ、る…?」


在り来りだけど、今はこれしか思い浮かばなかった。


「…う、うん!そうだね…一先ずそうするしかない…よね!…っよいしょ!…重っ!!」



自分の身長の倍ある男を持ち上げれず、カリンくんはズルズルとザクロを引きずる。私は急いで布団を敷いて、カリンくんを待つ。




…途中でゴン!ガン!と何かをぶつける音が頻繁に聞こえるけど、大丈夫…だと信じたい。


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