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前救世主が数年かかったことをわずか半年でやり遂げたとあって国中が大喜びでお祭り状態。
私たち一行が王宮に向かう帰路では、必ず人がいて感謝を述べられた。
文字通り、国中がお祝いムードだった。
でも、そうではない人たちももちろんいる。
この国の王様とその取り巻きのお偉い方たちだ。
帰ってきた時には、豪華な凱旋パレードが開かれ、出迎えられたお城の方々からご立派なマントを受け取ってそれに身を包み、同行してくれた騎士や魔術師たち、スケさんカクさんと沿道に集まった多くの人に手を振りながら王宮まで移動した。
その時に刺客がいっぱい来ていたみたいだが、もちろんシルバさんが処理済み。
魔術師たちは何重もの結界をかけてくれて、なんとあのマゼギルドさんが率いる私に従ってくれる魔術師たちも私に結界を張ってくれていて、今すごい結界だらけで空間が歪んでるよと空間魔法得意な魔術師くんにこっそり教えてもらったときは笑った。
王様の前まで行った時、王様は嬉しいことなんだけど素直に喜べないといった微妙な表情で私を出迎えた。
「王様、私は約束を守って瘴気を消して帰ってきましたよ。次はあなたが約束を守る番ですよね。さあ、答えを聞きましょうか。私を元居た世界に戻す方法は、もちろん探せましたよね」
「おかえりなさいませ。まずは心からの感謝を述べさせてほしい。この国から瘴気を…いや、この世界から瘴気をはらってくれたこと、国と世界を代表して深い感謝を」
そういって深々と頭を下げた王様。
湧き上がる観衆。ところどころから「救世主様ありがとー!!」って聞こえる。はいどうも。
その隣から、王妃であるイザベル様も一歩前に出た。
「私からも感謝の言葉を述べさせてくださいませ。この世界を救ってくださって本当にありがとうございました」
「イザベル様、あなたに対しては私からも感謝を。支援物資の調達や魔術師たちの配置に加えて、各地への清掃道具の配送手配から、様々なサポートをしてくださってありがとうございました。こんなに早くやり遂げられたのも、あなたのサポートがあったからこそです」
そういって、私はイザベル様を促して私の隣に立っていただき国民に見えるようにした。
「皆さん、王妃のイザベル様は惜しみない支援を私にしてくれました。こんなに早く帰ってこられたのは、皆さん自身が頑張ってくださったことが大きいですが、一番はイザベル様の支援があったこそです。イザベル様は文字通り、寝る間も惜しんでこの王宮で私たちの支援に全ての時間を使ってくださいました。彼女を称えましょう」
そういうと国民の声がまた沸いた。
イザベル様はちょっと驚いていたが、嬉しそうにふんわりと笑い、私を見てまた笑ったので私もにこっと笑った。
そしてどちらともなく、ハグをした。
「イザベル様、ほんとにありがとう」
「こちらこそですわ、ゆな様。あなたのお役に立てて本当に光栄でした」
イザベル様も感極まって涙を浮かべ、国民も涙を流すイザベル様と体を離し、次に王様をゆっくりと見据えた。
「では王様。当初の約束通り、私を元の世界に戻していただきます」
そうはっきりと言った途端、王様は笑みを浮かべる。
「それなのだが―――」
そういう王様の隣にはあの金髪残念王子。
「ぜひ、我が息子と結婚をしてこの世界に残ってはくれないだろうか」
「は?」
あ、しまった。心の中で言ったはずが声に出てしまっていたらしい。
言った途端、王様と王子の身体がびくっと震えた。
私が王宮にいる間に好き勝手パワハラしたことを身が覚えているらしい。
「王様、もう忘れたんですか?私には婚約者がいて、しかも結婚式の前夜にこの世界に飛ばされたんです。王子と結婚するわけないでしょう」
一瞬沸いた国民だったが、私の言葉でこの歓声は消えた。
「そうだとしても、そなたをまだ帰すわけにはいかないのだ。そなたは今やこの世界の救世主。今後、世界各国から称賛の声があがり、そなたを国に招きたいという招待も来るだろう。その時にそなたが不在だときっと悲しむ。どうかまだこの世界にとどまっていただきたい」
そう答えた王様。まるで私が聞き分けのない子供のように語ってくる。
それが私の神経を逆なですることを知らないのだ。
「ははっ」と乾いた声で笑うと、後ろにいたスケさんが「あーあ…」って呟いたのは聞こえていたが無視だ。
「それに他国に赴いた際に、そなたを抱え込む国が現れないよう牽制をしたいという思いもある。王子の婚約者でいれば下手に手を出す者はいないだろう。そなたの身の安全も確保できる」
「そんなご心配をしていただけるなら、今すぐ帰していただきたいです」
スパっとお断りを入れ、続けた。
「私がこの世界を救ったのはただの慈善活動だと思ってますか?なんの見返りも求めずに、瘴気に怯えながらただ掃除をしていたとでも?」
一歩前に出るたびに王様は顔色を悪くしていく。
私たちの声や姿は国全土に聞こえている。そういう魔法が使われているのだ。
「そんなわけないでしょう。早く世界を救えばその分早く自分の世界に帰れる。だってそういう約束だったもの。そうでしょう?」
「しかしだな、「しかしも何もない!王を名乗るなら約束を簡単に破るな!!私を元の世界に帰せ!!」
怒鳴ると、しーんとなった。
誰もが言葉を発しなかった。
「私を元の世界に帰す方法は調べたんでしょうね?」
「………き、救世主様…、今しばらく「質問に答えなさいよ!調べたの!?調べてないの!?どっち!!」
「し、調べておりません!」
「じゃあ3日の猶予期間をあげる。これが最後だよ王様。私は死ぬ気で世界を救って来たんだから、あんたも死ぬ気で調べてこい。分かったな!!!」
「は、は、はぃ…………」
真っ白な顔でへたり、と座り込んだ王様。
私はマントを乱暴に脱ぐと、王様の顔に投げ捨てた。
その隣に呆然と立ちすくむ王子に私は、ハッと笑ってやった。
「王子様、あんたも王妃様や私を手伝うことなく王宮でお茶飲んでご飯食べてゆっくり寝てたんだかさぞかし暇だよね、パパを手伝いなよ。ていうか、何もせずにいてよくもまあここに顔出せたね。恥ずかしくないのあんた。羞恥心はママのお腹の中に置いてきたのかなぁ~??」
「…っ」
かっと顔を赤くした王子を睨むと上っていた階段を下りる。
私の後ろには、当然という形でイザベル様、スケさんとカクさん、そして騎士団長と副騎士団長、魔術師たちがついてきた。
「は~あ、期待はしてなかったけど本当になんもやってなかったね。私の人生の代償としてあの何の役にも立たない王子をあてがってくるなんて頭おかしいんじゃないの。あ、イザベル様ごめん」
「いいえ、我が夫、息子ながら私も残念な気持ちでいっぱいですから」
「ゆなは一貫して元の世界に帰りたいと訴えてたからなあ。王族なら王妃様並みに働いて誠意見せるべきだったなあ」
「そうだよ。それにゆなを救世主として呼んだのは王様なのに、そのゆなやゆなの手伝いをしている王妃様に暗殺者を送るなんて本当にどうかしてるよ王様は」
そうカクさんが言った途端、すでに騒がしかった国民の声が一瞬にして静かになったが、私たちは気付かずに会話を続ける。
「ほんっとそうだよ。そもそもこうなったのも代々の王様が原因なのに。それを正すどころか隠蔽に走るなんてクズすぎるわ。怒鳴るだけに留まって物理的にぶっ飛ばさなかっただけ私偉いよね~てかイザベル様なんであの人と結婚したの?」
「幼い頃に決まった政略結婚ですわ」
「そこに愛はあるんか?」
「おかしなことをおっしゃいますのねゆな様ったら。政略結婚に愛など必要ありませんよ」
ああ……元の世界だときっと笑いが起こっただろう質問、というか台詞だったのになあと残念に思う気持ちが芽生えたのは致し方ない。
と、ここで、魔術師が爆弾発言をする。
「………あ。ゆな様。申し訳ありません。術を解くのを失念しておりました」
「ん?どういうこと?」
「……今までの会話全て国民に筒抜けということ、ですね………」
私たちもしーんと静まり返った。
少しして、私が恐る恐る声を発した。
「内乱勃発しちゃって国滅びちゃう感じ?てかまああの王様と王子以外の人が国王になった方が国民のためだと思うけど…」
「煽るな煽るなこれ以上煽ってどうすんだよ」
スケさんにつっこまれて口を手で覆ったが「遅いわ」とまたつっこまれた。
「いいと思いますわ。それに、こんなことを続けている王家など国民に必要ありません」
そうはっきり言ったのはイザベル様。
「滅びて正解です」
「やだイザベル様カッコイイ……というかイザベル様が女王になるのはダメなの?もう王妃様だし」
「いいえゆな様。私も王族の一員ですもの。責任は負わねば」
「責任取って継続して国を治める人も必要でしょ?王子は絶対やめといた方がいいよ。他に誰かいないの?ほら…宰相?とかさ」
「うーん。姻戚関係があるのですがあまりおすすめはしませんわ。彼も王子と同じ部類、といえば想像できますかしら」
「それはダメだね。じゃあ……王様の弟だったり兄妹関係はどう?」
「辺境伯がそれにあたりますが、そういう争いを忌み嫌って辺境に移り住んだ方ですの。説得に時間は必要ですわね。それと外交関係は特に疎いお方ですわ。今までの成果を見てもあまり世界情勢に目を向けてはいらっしゃいません。彼を王にするならば、そちらに専ら強いお方を味方につけるべきです」
再び階段を下りながら会話していると、上から何やらお偉いさんっぽい人たちが走って追いかけてきた。
「魔術師!はや、早く術を解かぬか!」
「き、救世主様!王妃殿下!それ以上はお話になりませぬよう!」
「「「どうか!!!」」」
そう懇願されて、私は魔術師たちに「まだやってたの?解いてあげたら」というと、「ゆな様のお言葉を国民に聞かせるのはいいかなと思いまして」「正論ですし」「この旅が終わるまで一体何人の暗殺者が送り込まれたかもいうべきでは」とか色々言い始め、スケさんが「いやだから内乱を煽るなよ」というつっこみを受けて魔術師たちはようやく術を解いたのだった。




