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騎士団の副団長を務めるグレンは闘志を燃やしていた。

魔物や瘴気に侵されていくこの世界をどうにかしたい。その一心でここまで奮闘してきた。


そしてついに救世主が召喚されたと聞いた時は、感極まったほどだ。

しかし、救世主はなぜかすぐに魔物討伐に出発しようとはせず、そればかりか、国王陛下を罵っていると聞いて呆れていたし、絶望をしていた。



――なぜ、そんな奴が救世主なのか。自分ならすぐにでも出発するのに。



そう思って悶々とした日々を送っていると、その救世主が城内で口論しているのを見た。

ローブを着ているので魔術師と口論をしている。というか、救世主が魔術師に食って掛かっている感じだった。

バカだな、魔術師に楯突いたらあとが面倒なのに。



そう思っていたら、聞こえてきた内容に目を見張った。



「こんな非常時に薬を転移させない?なぜ?」


「なぜと言われましても。我々魔術師は忙しいのです」


「へえ。何してんの?」


「何って…あなた様には到底理解できない研究ですよ」


「何の研究をしているの?」


「それを言ったところでご理解されるかどうか…」



卑下するようににやにや笑う魔術師たち。

そうだ。こいつらはこういう奴らなのだ。当然魔術師が上だと見下してくる。

助け船を出そうかと思ったが、意外にも救世主は毅然としていた。



「それは今のこの世界の現状を打破する研究?」


「そんな小さな規模ではありませんよ。今後の世界のための研究です」


「じゃ、私が言っていることの方が優先順位髙いですね。薬の転移お願いしますね」


「いやいや…ですから、我々は研究で忙しいのでそんなものに人員は避けませんよ」


「えっ薬を転移させる魔法ってそんっっっっっっなに時間がかかるし人もかかるの?一人でできるって教わったんですけど。あなた………もしかして魔術師の中でも相当なポンコツですか?」


「んなっ!?」


「あら~ごめんなさいね。対応できない理由も誰でも言えるような曖昧な理由しか話せないのもそのせいですね。すみません頭空っぽで全く使えない下っ端のあなたに頼んでしまって。上の方はマゼギルドさんと聞いてますので、その方呼んでいただける?」


「失礼な!私がマゼギルドだ!!」


「えっまじ!?こんなバカが上司でいいの?!あっはっはっは!転移魔法も使えない、仕事もできない人が上司だなんて笑いしか出てこな~~い!」



周囲で聞き耳を立てていた俺を含める騎士たちや、メイドや執事たちも隠れて笑った。

当然激昂したマゼギルド氏に、救世主は静かに怒った。



「薬不足で病気が蔓延している地域に薬を送る。それよりも優先順位が高い研究の内容を今、ここで、分かるように説明してみろこのバカが。本当に頭がいい人は専門外の人にもわかりやすく説明できるなんて常識だからな?ていうか私の人生をめちゃくちゃにした分際で、何悠長に自分の趣味続けてんだよ。なんでこの世界のために異世界から呼ばれた無関係の私だけが働かないといけないの。お、ま、え、が!働きなさいよ。自分の国だろ?何してんだよこのバカ」



その言葉に、自分もぶん殴られた気がした。


そうか。俺は今まで自分のことしか考えていなかったが、救世主は…この方は、いきなり呼ばれたのだ。そして救世主だと言われた。この方だって呼ばれるまでは自分の人生を歩まれていたはずだったのに。


家族も、友人も、恋人だっていたはずなのに。



俺はなんて独りよがりな考えをしていたのだ。



尚も激昂するかと思ったマゼギルド氏だったが、同じことを思ったのか押し黙った。



「さっさと転移させる人員を寄越せバカギルド。薬を切望している地区には時間がないんだよ」


「………私が行こう」


「転移魔法使えない人はいらないわ。使える人を寄越せっつってんの」


「っ、バカにするな!それくらい使える!」


「じゃあ最初からそう言えよバーーーカ。ったく、時間を無駄にしたわ。その分きっちり働いてもらうからな。さっさと行くよ」



そういってマゼギルド氏を引っ張っていった救世主に、恐らくその場にいた全員が拍手を送ったことだろう。

こんなに気持ちがスカッとしたことがあるだろうか。

いつも傲慢で、人を見下し、自分が上だと豪語していた集団の一番ひどい人物がマゼギルド氏だったのだ。


この時から、俺は救世主のお近づきになりたいとずっと思っていた。

だから、討伐の旅に同行できると聞いた時は跳ね上がる程喜んだし、実際に会って俺よりも先に救世主と並んでいる者たちへ嫉妬した目まで向けた。


だがこの旅で俺はこの方(救世主)の信頼を勝ち取り、おそばに置いてもらうのだ。



そう意気込んでいた。

意気込んでいたのに。





「おーい、そっち終わったかー?」

「いや、まだだ!ゴミの分別が終わってない。手伝えるか?」

「誰か、こっち人寄越せるかー?腐敗した木の撤去を手伝ってくれー!」

「魔術師ー、手が空くなら回って!」



これは、一体なんだ。

俺たちは今、何をやらされているんだ。


剣を持つわけでもなく。

ゴム手袋やごみ袋、雑巾やモップなんかを持って町の清掃を行っている。

瘴気は吸い込まないように魔術師が浄化魔法と空間魔法を使ってくれているが、そういう問題ではない。


救世主を見ると、あの方も自らゴミの分別を行い、それが終わると魔術師に最大高温で燃やすように指示している。高温でないと"かんきょうおせん"に繋がるらしい。なんだそれ。



「副団長さん、手止まってるよ。はいはいはいはい、日暮れまでに終わらせたいんだから手動かす!」


「は、はい……」



じっと見ていたのがバレて、続きを促されたのでとりあえず手を動かした。

本当に、俺は、何をやらされているんだ?




日暮れまでに小さな町全体の掃除が終わり、野営をする。

このあたりは空気がまだ瘴気に侵されていないので、みんなリラックスしていたし、なんなら掃除で疲れていた。とはいえ、魔物退治に比べると問題ないが。



「瘴気が消えるのは清掃後、どれくらいだっけ」


「翌日には消えているみたいだよ」


「じゃあ明日一度確認してから次に移動しよう」



食事を摂りながら、救世主は同行者であるカクリ殿、そしてスーケン殿と話していた。

掃除をすることで瘴気が消えるらしいので、まずは清掃をすると話されたのは今朝だ。

魔物と戦うよりも平和的な解決策だというので、我々騎士団も魔術師たちも力を貸している。

みんな、戦わなくて済むならそれに越したことはないと思っているのだ。なぜなら、魔物の報復を恐れているから。


この救世主の言葉に魔術師たちは全面的に支持した。奴らは攻撃魔法は使えても、戦いになると邪魔になるだけだ。

対して騎士団は救世主からこの話があったすぐは俺も含め、不満だった。

国のために剣を振るう。もちろん、この討伐の旅も全員死を覚悟して参加したのだ。掃除をするために参加したわけじゃない。


そう不平不満を言った兵士に、救世主は「あんたたちが汚したものを異世界の私が掃除する方がおかしいと思わないの?」といった。もちろん口を閉ざした兵士。

救世主は更に戦う気満々だった我々に追撃する。



「翌日が結婚式でめちゃくちゃ楽しみにしていた私は、ドレス着ることなくお前らが汚したものを清掃しに行くんだぞ。考えてから発言しろよバカ。死ぬ気で来たんなら死ぬ気で掃除しろよ…サボったら絶対に許さないからなぁぁぁ………」



般若の顔で言った救世主を、同行者のスーケン殿、カクリ殿が宥めてくれた。

恐怖だった。ありがとう二人とも。


召喚の儀に出席した騎士団長は、正論で国王陛下をも黙らせている光景を見て以降救世主に傾倒しているが、自分も同じだった。

恐怖だが、この方が言っていることもやっていることも正論なのだ。

そしてちゃんと実行し、人を動かしている。尊敬の念しかない。



その翌日。

救世主の言う通り、瘴気に溢れていた町から瘴気が消えていた。



それを見たとき、まだ騎士団の中にも半信半疑だった者もいたが、全員が救世主を本物の救世主だと思っただろう。


中には涙を流して喜ぶ者もいた。

そんな我々を見て、救世主は一緒に喜ぶわけでもなくパンパンと手をたたく。



「はいはいはいはい!さっさと次行くよ、先は長いんだからね。はいちゃんとゴミは持ち帰るよ。来た時よりも美しくして帰るの常識だからね。――おいこらそこ!ゴミの分別しろよ!!昨日教えただろうが!」



この先、しばらく我々は剣ではなく掃除に奮闘することになる。

そう思いながら、俺は少し笑った。

たしかに、戦うよりも数倍平和な解決策だな、と。

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