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翌日になって目が覚めると、自分の部屋でも婚約者の部屋でもないことにびっくりして起きた。

というか、結婚式当日なのに!という焦った気持ちも大きかったが、昨日のことを唐突に思い出して、落胆した。


ベッドから抜け出して、カーテンを引いても知らない場所。

それにまた大きな大きなため息が出た。



準備する気にもならないが、とりあえず顔は洗いたいなと思って、昨夜渡された呼び鈴を鳴らすとすぐに2人のメイドさんが入ってきて、身支度の準備に必要なものを揃えてくれた。

そして軽食と紅茶まで用意してくれたのはありがたかった。


服はいつ帰ってもいいように着替えないでおこうと思ったけど、昨日のままの格好(無地の半袖Tシャツにスウェットパンツ)をお洗濯しますと言われて、でありがたく。と、服(簡易ワンピース)をお借りした。



そうしていると、昨日ホテルの大広間のような場所にいたんだろう男の人がやってきた。



「救世主様、大広間にお越しください。国王陛下と皆様がお待ちです」


「帰る方法が見つかったんですか?」


「い、いえ、違います」


「じゃあ、前回の救世主が世界を救った方法がわかった?」


「いえ………」


「じゃあ、前回の救世主と一緒に旅をしたという縁者が見つかった?」


「そ、それも違います……」



どんどん声が小さくなる男性にイラッとした私は真顔で聞いた。



「じゃあなに」


「あ、あの…それは自分の口からは申し上げられません………とにかく大広間にお越しください」


「私が知りたい情報は2つ。その1、帰る方法。その2、前回の救世主がどうやって世界を救ったのか。まもの、しょうきを一体どうしたのかも詳細に。そのために一緒に旅をした縁者を探し出して一緒に詳細を調べて報告して欲しい。それ以外でいちいち呼び立てする時間があるならその無駄な時間を調査に当ててさっさと世界を平和に導く行動をとりなさいよ。そして私を呼び出そうと決めた張本人の王様が直接報告しに来いって伝えてくださる?」



と言うと、あんぐりと口を開けたまま動かなくなったので、放ってそのまま扉を乱暴に閉めた。


メイドさんたちもびっくり。目を大きく見開いていたが、目が合うとにっこり笑われてしまった。



「すみません。乱暴なことをしてしまいました」


「お気になさらず」


「ありがとうございます。気持ちを落ち着かせたいので、何かあったかい飲み物をいただけますか?」


「もちろんでございます。すぐにご用意いたしますのでお待ちください」



シゴデキ女子たちだ。



「今更で申し訳ありませんが、お名前を伺ってもいいですか?私はゆなといいます」


「まあ、ご丁寧にありがとうございます。私はリンス=ヴァランと申します。こちらはシェンナ=モーデル。ゆな様の身の回りのお世話は私共がさせていただきますので、何なりとお申し付けください」



2人がそれぞれ頭を下げてくれたので、私も立ち上がってぺこりと頭を下げた。



「少しの間、どうぞよろしくお願いします」


「まあそんな!私共に頭を下げなくて良いのですよ、ゆな様」


「私は異世界人ですから、私のやり方でやらせていただきます。それに人は心から尊敬できる人に対しては自然と頭が下がるものです。あなた達の配慮、気配り、仕事に対する姿勢は十分尊敬するに値します」



そういうと2人ともびっくりしていたが、本当のことだ。私は人様のお世話などできないからね。


リンスさんが入れてくれたお茶を飲んでいると、部屋にノックの音。

シェンナさんが対応してくれたのだが、その人物はどんどこ部屋に入ってきた。金髪残念王子だ。



「救世主殿!!頼むから、母上に休むように伝えてくれ!あなた様のわがままに付き合い、睡眠もとらずに食事もしていないのだ!!」



カップをソーサーに戻し、それをリンスさんに手渡す。

リンスさんは何かを感じ取ったのか、テーブルの上にあったものを全てささっと下げてくれた。


シゴデキ女子だ。



「たしかにあなた様には無理を言っているのは承知の上です。しかしそれほど我々にも後がないのだ。こうしている間にも瘴気がどんどん侵食を広めている。この王都に来るのも時間の問題なのです!」


「ふーん。…で?」


「で、て………貴様っ……!」


「きさま?」


「ぁぐ、いや………」



もごもごとしているので、机をバン!と叩いた。

いい音がして、王子はそれだけでびくついた。



「で?なんですか。この10年間、何もしなかった分際でよくもまあ後がないからどうにかしろだの私に我儘だのなんだのと」



立ち上がると、王子は後ずさった。



「じゃあ、あんた私の代わりに仕事行ってきてよ。朝、7:50発の地下鉄に乗って。線の乗り換えもしないといけないから気をつけてね。バスでもいいよ。どっちにしろ乗り換えあるけどターミナル内の移動は面倒だから地下鉄の方がいい。大体8:15くらいに駅に着くから、あとは地下から上がってセンタービルの50階まで登って。ビル5個あるけどセンターだからね。コンビニでコーヒー買うといいよ。オフィスに着いたらまずはメールチェックから。決裁書や決裁会議は外せないから、担当者とよく打ち合わせないといけないよ。あと支店長打ち合わせもあって、その資料は佐々木さんにお願いしてるんだけどちゃんとできてるかな〜?前期との数字は要チェック。あと、午後からは客先に打ち合わせ行かないといけないから、その前に「ちょっと待ってくれ!なんの話だ!!」



ペラペラと話し始めた私の言葉を遮った王子に、私は笑った。



「なにって。私の世界の私の仕事について話してました。それにこうしてる間にも結婚式も始まってるし、結婚式をドタキャンだなんてしたくないですし」


「そ、そんなもの!我々の命と引き換えには「ならないって思ってるんでしょう?分かりますよ~会話の節々に感じてます」



言葉を遮った私に、王子様は黙った。



「私の仕事の話を聞いてどう思いました?」


「は?……い、意味が分からないとしか思えない」


「でもやってもらわないと」


「なぜ私が。私は関係ない!」


「そうです。それが今の私の気持ちです。どうして自分のことは棚に上げて人には強要できるんですか?」


「い、命が、かかってるんだぞ!」


「命がかかってるから何?じゃあ、あなた今のこの状況で私の世界にいきなり飛ばされて、さっき話した内容の一つも理解できないのに、世界を救ってください!このままじゃみんな死んでしまう!と言われたらやるの?ごめんなさい、今自分もそれどころではない、早く元の世界に戻してくれ!てならないの?」


「そ、それは………」



やっと理解したのか、王子は押し黙った。



「あなたのママはちゃんとその点を理解してやってくれてるんだよ僕ちゃん。分かったら僕もママを手伝いなよ」



そういって胸をどんと押すが、王子は口を紡いだまま微動だにしない。



「………せめて、母に休めと言ってくれないか」


「あんたは寝たの?」


「……少しは」


「ご飯は?」


「…食べたが」



そう答えた王子を、私は問答無用でぶっ飛ばした。



「お、ま、え、が!王妃様と代わればいい話でしょうが!私の人生をめちゃくちゃにしておいて何悠長に寝てんだよバーーーーーーカ!出て行け!」



シェンナさんが扉を開けると、外に王子の部下のような人たちがいた。

王子を蹴り出すと、慌ててみんなが王子を支えた。



「き、貴様!無礼だぞ!」



そういって剣を抜いた人に私は笑った。



「無礼?私に無礼だって?あなた、私がどういう状況でここにいるのか知らないの?知らないなら教えてあげようか?10年前、あんたらが住んでるこの世界に155年前と同じ危ない兆候が見られたのに何も対策をとらずにいたバカ共が、自分たちの命が危ないからと私を呼んだのよ。10年、10年よ?どうやって世界を守るかという手段も調べず、情報がないままに私だけを呼んでどうにかしろと丸投げしている状態なわけ!あなた、本当に私が無礼だと思ってんの?脳内お花畑なの?」



ずずいっとその人に近寄ると、一歩後退する男。



「あなたが脳内お花畑なのは、上司がこんな救いようのないバカだからだよ」



そう王子を見ると、王子は顔を真っ赤にした。

それを気にせず、剣を抜いた人をもう一度見ると頭を撫でてあげる。



「部下ってよほど出来た人じゃないと、上司のバカって遺伝しちゃうんだよね。かわいそうに。せめて聡明な王妃様の下に付けていればもっと出世できただろうにね~かわいそうでちゅね~上司に恵まれなさ過ぎて本当にかわいそうでちゅ~~~」


「なっ!な、!」



剣を持っている人から言葉にならない声を聞きながら私は踵を返して部屋に戻った。


完全に煽りである。

しかし仕方がない。これくらい人を馬鹿にしても許されることをされていると思おう。

あとで一人大反省会を行おう。



「はあああああ…………」



扉を閉めてため息をつくと、リンスさんがお茶を淹れなおしてくれていた。



「ありがとうございます」



シェンナさんもリンスさんも、絶対に思うことはあるはずだが絶対に口にしない。

やはり彼女たちはシゴデキ女子である。

そんなシゴデキ女子が淹れた紅茶はやはりめちゃくちゃ美味だったので、気持ちはすぐに落ち着いた。


気持ちが落ち着くと、考えがまとまる。

しばらく休憩とばかりに無言でいたあと、リンスさんに声をかけた。



「私にこの世界のこと。…そうですね、歴史、地理、制度、そして今起こっていることと、地域の状態など諸々を詳細に説明できる人を手配いただきたいのですが」


「承知いたしました」


「ペンやノート…ああ、いえ、勉強に必要な筆記用具をお借りできますか?」


「はい、手配いたします」



すぐに部屋を出ていくリンスさん。

更にシェンナさんに筆記用具を頼むが、彼女は言われる前に動いてくれていたようだ。

振り返ってにこりと笑って答えてくれた。


ああ、シゴデキ女子たちだ。

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