正義と悪の果てしないバトル、の裏側
「とうとう追い詰めたぞ、悪の首領デスダーク!」
火花を散らした爆発が起こる、悪の組織シャドウクロスの要塞──その最深部。
原色の戦闘スーツを装着した、善行戦隊ジャスティレンジャーの5人。
彼らはこれまで命をかけて激闘を繰り広げてきた組織の首領に、今まさに迫ろうとしていた。
足元に霧がただよう不気味な部屋で、首領は玉座から立ち上がった。
やたら肩幅が広く、機械化された体を漆黒のマントで半分覆っている。
頭部には威圧的な突起が並び、その瞳は無機的で冷酷な光を宿していた。
「よくぞここまでたどり着いた。決着のときが来たようだな」
「お前を倒し、世界の平和を守ってみせる!」
レッドが前に出ると、握りこぶしで打倒を誓う。
後ろのメンバーも互いを信頼し合うように頷いた。
「フッ、たしかに我が倒れればこの組織は壊滅するだろう。だが、それで世界に完全なる平和が訪れるわけではない」
「……たしかに俺たち人間は些細なことでいさかいを起こし、日々争っている、だがいつの日か分かりあえる日がくると」
「誰もそんな話はしておらん」
「!?」
「我が倒されたとて、それは終わりではない。新たなる悪と善の戦いが始まる、この世界を司る者の力によってな」
「どういうことだ!? まさか、お前よりもさらに力を持った真の首領や、別の組織が存在しているとでもいうのか?」
「そんな者はいない。新たな戦いが始まるのはこの世界の真理である「ス・ポンサー」によるものだ」
「ス・ポンサー? なんだそれは!? それが新たな脅威となる悪の組織の名前か」
「ス・ポンサーに善や悪などといった概念はない。いうなれば、そう、すべてを創造した神よ」
「神?」
「お前らを生み出したのも、我々を作り出したのもス・ポンサーの力。こことは違う世界にいる、バイクに乗ったり乗らなかったりする戦士たちや、お前らのようにカラフルな衣装をまとった年端もいかぬ若い戦士たちもすべてス・ポンサーが生み出した。そして、ス・ポンサーの意思には誰も逆らえない──たとえ、この我であろうとな」
「悪の首領を服従させるほどの者がいるなんて、し、信じられない」
「そうか。では、なぜ今まで怪人1体と数十の戦闘員のみがお前らのもとに派遣されるだけだったか、不思議だとは思わぬか?」
「それは……それがお前たちの戦力の限界で」
「我々の軍団の組織力を侮るな。我を頂点に四天王と呼ばれる大幹部たち、怪人も性能差はあれど1度に十数体を製造可能、戦闘員も総勢数千体。それに比べて、お前らは5人がかりでようやく怪人1体を倒す程度だろう」
「そ、そんなに力があったのか」
「圧倒的な戦力差、覆しようのない兵力差だ。おそらく、作れる限りの怪人と戦闘員を配下にした四天王を日本各地に派遣すれば、お前らは手も足も出せなかっただろう」
「だ、だが正義の力で抵抗すれば」
「ああ、多少はどうにかできよう。しかし、数ヶ所でこちらが倒されようとも優位は変わらん。それに手段を選ばず、人質や無差別な破壊工作でお前らの行動をとどまらせることも十分に可能だ。あるいは、もっと単純に全戦力をお前らの基地に送り込めば、司令官を含めて容易に皆殺しにできただろうな」
「う、うう……それは認めなければならない」
「なぜそれをやらなかったか分かるか?」
「なぜだ?」
「それをやったら、我々がその1回で勝ててしまうからだ」
「勝てて、しまう?」
「それでは駄目だ、1年間続けなければ駄目なのだと、ス・ポンサーによる強迫的な観念が我にそうさせた。幹部たちも植え付けられた観念により、足の引っ張りあいはしても、誰一人として作戦に疑問を持つ者はいなかった」
「1年間続けなければ? なんなんだ、その決められた期間は」
首領はあえて無視し、
「お前らは我々が新たな技術で作り上げた強化怪人に敗れ、その後に新たな武器を手に入れ、これを撃ち破ることに成功したな」
「そうだ。ネオ・ジャスティ光線銃が俺たちの新たな武器となった」
「所有するロボットも、巨大化した強化怪人に大破させられたと思ったら、知らぬ間に建造されていた新型が助けに来ただろう。いつの間にか数々のサポートメカも増えて」
「あ、ああ、そうだが」
「それも、すべてはス・ポンサーの力だ」
「ス・ポンサーの力だと? 俺たちの武器や新型のロボやメカは司令官が後々のことを考え、秘密裏に開発していたと言っていたぞ!」
「そうさせたのもス・ポンサーの力、大いなる意思に気付かぬうちに影響されたということだ。そして、それらの新要素が現れたのはいつだ?」
「し、新要素? いつだと言われても、暑かったり、寒かったりした時期だったような」
「そう、厳密にはボーナスやクリスマスの前だ」
「ボーナス、クリスマス? それがなんだって言うんだ」
「みなまで言わん。すべては経済のシステムによるもの」
「どういう意味だ、まさかそのス・ポンサーとやらは世界中の財界にも多大な影響力を持っているとでも」
「そこまで大規模な話はしていない、あくまで家庭という単位での話だ」
「家庭? ボーナスでは家庭に大きな収入がある。クリスマスは子供たちがプレゼントを欲しがり、親はそれを買ってやるだろう。だが、だからそれがなんだというんだ! 俺たちが新しい武器やロボットで強くなることと、何の関係がある!?」
「そのタイミングでお前らの武器やロボットが新調されると、いろいろとス・ポンサーに都合がいいのだ。むしろ、ス・ポンサーはそれこそを求めていると言っても過言ではない。別世界の戦士たちにも大なり小なり、同様のことが起こっている」
「都合がいい? さっきから何をわけの分からない話をしている! 戦うつもりがあるのか!?」
「おいレッド、要塞の各所で崩壊が始まってる! こいつはきっと自爆装置か何かで、この要塞ごと俺らを吹き飛ばして全滅させようと企んでいるに違いないっ!」
「そうか、時間稼ぎのために大いなる意思だなんだと、でっち上げた壮大な作り話をしていたのか!」
悪の首領はゆっくりと虚空を仰ぎ、
「作り話か。そうだ、すべては「作り話」なのだ」
「やはりそうだったか! もう騙されないぞ!」
「…………お前らには、いや、誰にも一生分からぬことだ。ス・ポンサーの存在を……。第4の壁と呼ばれる概念に触れ、世界を形作る理を偶然にも知ってしまった、我以外にはな」
デスダークは決意したように、努めて、その顔に世にも恐ろしい形相を作ると、
「この戦いが悪の首領として生み出された我の最期の役目、もう覚悟は決まっている! さあ、ジャスティレンジャー、全力でかかってくるがいい!」
「みんな、最後の戦いだ!」
「おうっ!」
まさに死闘であった。
四天王とは比べものにならない戦闘力。
片手で殴り付けられただけで、ワイヤーで引っ張られたように壁まで飛ばされて叩き付けられる。
目から照射されるビームや両手から放たれる電撃は、かすめただけで頑丈な戦闘スーツから火花が飛び散るほどの破壊力を持っていた。
そんな恐ろしい力にひるむことなく、ジャスティレンジャーはライフル型やバズーカ型のジャスティブラスターを手に、果敢に攻撃を仕掛ける。
互いにダメージが蓄積され、動きが鈍り出す。
だがデスダークは、要塞からパワーを供給されていることを明かし、自らの有利を誇った。
そこに生じた一瞬の隙を逃さず、ふところへと躍り込んだレッド。
彼の渾身のジャスティソードが胸を貫いた。
「グ、グオオ!」
花火を仕込まれたような、真っ直ぐな火花を胸と背中から撒き散らし、よろめく首領。
「お、おのれぇ、ジャスティ……レンジャー!」
「いくぞ、みんな!」
レッドの合図でそれぞれが持つジャスティブラスターを組み合わせ、必殺の大型火器へと合体させる。
そして全員で担いで構えると、
「とどめだ、ジャスティグレートキャノン!」
砲口から尾を引くエネルギーの弾が発射された。
「ヌゥ、グオオオオオオ!」
直撃し、エネルギーの奔流に灼かれたデスダークは全身をスパークさせながら、
「あぁ、物語が、終わる……」
誰にも聞こえない呟きを倒れぎわに残し、大爆発と火柱の中に消えた。
永遠の愛を誓い合ってチャペルから出てきた2人を、結婚式の参加者たちが出迎える。
白いタキシード姿のレッドとウエディングドレスのピンク。
激しい戦いの日々の中で仲間という関係を越え、秘かに愛を育んでいたのだ。
戦闘スーツはもう必要ない。
2人の姿は平和の象徴そのものだった。
「今日は派手にやるか」
いつもは冷静沈着でクールなブルーも意気揚々としている。
「悪の組織を倒したお祝いもかねて、酒とごちそうでパーッとな、パーッと!」
ムードメーカーのイエローが豪快に笑う。
貫禄ある制服姿の司令官も穏やかに、おめでとう、と祝いの言葉を述べた。
ひねくれ者のブラックは今日もやはりひねくれていたが、離れたベンチから祝福を贈っていた。
幸福の中にあるレッド。
その頭に、何かの拍子に決戦の記憶がかすめた。
デスダークが最後に言っていた、ス・ポンサーとは一体何だったんだろうか?
いくらその場しのぎの作り話にしても、不気味な迫力と雰囲気を漂わせていた。
そもそもあれは本当に作り話だったのか?
最終的に要塞は吹き飛んだが、奴の死に連動して作動する自爆装置のようだった。
なら、時間稼ぎの必要はないはずだ。
そこでレッドは頭を振った。
いや、あの悪の首領すら無視できない、すべてに影響を与える強大な力を持った者など存在するわけがない。
そんなもの、この現実世界にあるわけがないんだ。
「俺たちの戦いは終わったんだ。もう戦い、傷付くこともない。これからは平和な日々を送ろう」
彼の言葉に仲間たちが、最高の笑顔で祝福の場を飾る。
こうして地球は、悪の組織シャドウクロスの魔の手から救われた。
ありがとう、ジャスティレンジャー。
ありがとう、心優しき勇敢なる戦士たち。
~fin~
そして始まる、新番組予告
自分が作り話の登場人物であり、玩具を売りたいス・ポンサーの方針は絶対なのだという事実も知ってしまった、首領の悲哀。
実際の番組スポンサーがどれくらいの力を持っているかは定かではないので、この話に出てくるスポンサーはあくまで想像です。