第一章 5 ーー 恋人 ーー
5
「何やってんだよ?」
気持ちがスッキリとしないなか、強い口調の問いが頭に降り注いだ。
どこかバカにしたような口調にげんなりとなりながら、かぶりを振った。
学校の帰り道。
久しぶりに恋人の圭一と一緒に帰ることになったけれど、気持ちは晴れてくれない。
本来なら楽しいのに、朝の美月の反応もあり、どうも上の空になってしまう。
執拗に髪を撫で、返事を躊躇してしまう。
ーーそれに。
数歩前を歩いていた圭一。
遅れる私に振り返り、首筋を掻きながら仰け反る傲慢な態度を目の当たりにすると、私だって心は歪んでしまう。
悩んでいるんだから、少しは慰めてくれてもいいでしょ。
圭一は背も高く、傲慢な性格も相まって、よく人を見下していた。
人を蔑み、大きな目を細める姿は、どうも威圧感があり、胸をえぐられる。
私も唇を尖らせてしまう。
昔はそうじゃなかったのにな。
不機嫌なのか、気に入らないのか、圭一は髪をグシャッと掴み、苛立ちを隠せないでいた。
なんでこんなことになるんだろ。
思っていたこととは正反対な空気に嫌気が差し、足が止まってしまう。
なんだろう、どうも圭一と目を合わすのが嫌で、視線を空に逃がした。
私の気持ちとは裏腹に、晴れ渡った青空に目を細めた。
「なんだよ、それ。坂口みたいなことすんなよ。気持ち悪いな」
「何よ、それ?」
面倒そうに吐き捨てる圭一。
ぞんざいな言葉が胸に突き刺さり、頬を歪めて睨んでしまう。
「そんな空なんかじっと見るなよ。バカじゃねえのっ」
なんで、こいつはどうしてここまで自信過剰なの。
私の姿が気に入らないのか、腕を組んで乱暴に地面を踏んでいた。
坂口 彰。
クラスでイジメの標的にされている男子生徒のこと。
イジメの相手と比較されたことでムカついたのでもなく、簡単に人を蔑む態度に舌打ちをしてしまう。
なんで、そこまで……。
そこまで傲慢な態度を取れるのも一つの才能かもしれないと、皮肉を込めたくなる。
今もダルそうに首を捻っているのだから。
圭一は私の恋人。
普通だったら、傲慢な態度も「うるさいな」と茶化していたはず。
それなのに、ズンッと胸の奥にのしかかってくる。
……私が疲れているのかな。美月のこたもあるし。
次第に強まっていく息苦しさをごまかそうと、胸を強く擦っってしまう。
「何やってんだよ。バカじゃねえのっ」
誰のせいで苦しんでると思うのよ。
体を軽くしたくて深呼吸すると、そこをまた乱暴に責めてきた。
圭一を睨むと、心外だと睨み返され、声がこもった。
どうも、一言一言が鋭く刺さる。
どうして?
なんかモヤモヤが取れない。
バカにされたのが嫌なのかな……。