終 3 ーー 空はどこかに繋がっている ーー
3
きっと私はまた扉を開いてしまったんだろう。
それでも後悔はしていない。
ここ最近、ずっと胸の奥に押し込んで、ごまかしていた感情を我慢できなかった。
明日、私の居場所はないかもしれない。
教室に入った瞬間、深い海の底に沈められたみたいな苦しさが待っているかもしれない。
でも、どうでもいい。
考えるのが億劫になってしまった。
明日のことを考えたくないほど、イラついていたのかもしれない。
原因がなんなのかは理解している。
今朝見た夢。
目蓋の奥に強く刻まれた光景にずっとモヤモヤしていた。
この気持ちを晴らしたくて、公園に逃げていた。
ベンチに座り、膝の上に手帳を乗せ、表紙を指でなぞりながら眺めてしまう。
午前の公園に、自分が不釣り合いなのを痛感していた。
辺りを眺めれば、砂場で小さな男の子と、お母さんが砂の山を作って遊んでいた。
微笑ましい光景を眺め、顔は綻ぶけれど、気持ちは晴れてくれない。
手帳を指で突きながら、ややあって動きが止まる。
姿のない誰かが開けろ、と指示しているみたいで。
「……あれ?」
どこか背中を押された気がして、手帳を開いてみるけれど、数ページめくったところで手が止まってしまう。
手帳が乱暴に破かれていた。
首を傾げてしまう。
私がやったの?
覚えはない。けれど、私以外にこれを触る人はいない。
じゃあ、いつ?
気持ち悪さに苛まれながら、残されたページを指でなぞってみた。
「あれ? 何か書いてた」
微かに残る筆圧の跡。それをゆっくりとなぞった。
何を書いたんだろう?
目蓋を閉じ、文字を追った。
なんなの?
……坂口?
……影……。
親子しかいない公園にどこか、口論する声が聞こえた。
一人は私の声。それに圭一。
学校での喧嘩とは違う口論。
私にとってはこっちの方が重要な気がしてしまい、胸が苦しくなる。
そのとき、
不意に長いトンネルを抜け出したイメージが膨らんでしまう。
咄嗟に目蓋を閉じた。
何気ない公園の景色。
でもどこかからか、声が聞こえる。
寂しげな女の声が。
ーー 彰をよろしく ーー
深いトンネルのなかで、黒ずくめの人物とすれ違ったとき、聞こえた声。
小さく頷くと、ふと笑った。
「あんただって本当は忘れてほしくないんでしょ」
破れた手帳を撫で、
「言ったでしょ。私は忘れないって」
どこか勝ち誇った思いで顔を上げると、公園の入り口に、一人の姿を捉えた。
……坂口?
坂口は私を見つけ、目が合うと、恐る恐るそばに駆け寄ってきた。
私は屈託ない笑みを献上した。
しかし、坂口は不安げに眉をさげた。
「大丈夫、なの?」
「何が?」
「その、学校で」
「何? 心配になって来てくれたの?」
「いや、その……」
ちょっと茶化してやると、坂口は照れくさそうに顔を背けた。
なんだ、意外と可愛げあるじゃん。
「大丈夫。私は気にしてないから」
と、何気に空を見上げた。
「ーーきれい」
思わずこぼしていた。すると、釣られた坂口も空を眺める。
空は一変の雲もない、澄んだ青空が広がっていた。
くすみのない空に、頬が緩んでしまう。
「なんか、この空見てると、ちょっと思わない?」
つい聞いてしまう。
「なんか、遠い国に繋がってそうだなって」
「遠い国?」
「ーーそう。どこか、ここじゃない世界に繋がってる気がしない?」
なんだろ、胸が軽くなる。
「きっと繋がってるよ、うん」
了
無事に最終話を迎えることができました。
今回はファンタジー作品としながらも、大半が現実世界の話で進んでいたので、正直なところ、不安もありましたが、なんとか完結となりました。
また、これまでの作品では、数人の視点で描いていたことが多かったのですが、今回は久しぶりに一人の視点で進められました。
もちろん、不安も多かったのですが、僕としては楽しかったのです。
この物語を読んでいただいた方々に、少しでも面白かった、と楽しんでいただければ幸いです。
本当に、ありがとうございました。




