終 2 ーー 惨め ーー
2
ほんと、変な夢。
夜中に見た数分の出来事だったけれど、長い数日間に及ぶ時間を費やしたような、不思議な緊張感に襲われた。
でも、トンネルって、別の場所でも聞いたよね……。どこだったっけ……。
変な疑問ばっかり。なんなの、これ……。
変な感覚のせいで、学校にいても体は重い。
休み時間、少しでも体を休ませたくて、教室のざわめきが心地いい子守唄になりそう。
なのに、
「遥香、お前今日暇だろ。ちょっと付き合えよ」
目蓋を閉じようとすると、癇に障る声に反応し、椅子に凭れた。
机の前に圭一が立っていた。
顔を見られず、顔を背けた。
「なあ、いいだろ」
なんで、こんなに命令口調なんだろ。
「ねえ、もう終わりにして」
「なんだよ、それ?」
鈍い反応に嫌気が差し、圭一を睨んだ。
「そういうこと。別れたいの」
胸に竦む不信感。耐えきれず吐き捨てた。
圭一に対してなぜか嫌悪感しかない。
「はあっ? ふざけんじゃねえよ。何、勝手なこと言ってんだよ」
一歩も引かずにいると、圭一は机に両手を突いて身を乗り出してきた。
「そういうとこ。気に入らなかったらすぐにキレて、従わそうとするのがもう嫌なのよ」
教室に響く私の叫び声。周りにいた生徒らの視線が一気に注がれるけれど、気にはしなかった。
「意味わかんねえんだよっ。んなの知るかっ」
「何? 怒鳴れば謝ると思ってんの。バカじゃない。そんなのあるわけないでしょっ」
「はあっ? 誰にそんなこと言ってんだーー」
耐えられなかった。このまま恫喝で流されてしまいそうで、我慢できない。
圭一の頬を勢いよく叩いた。
短い破裂音の後、教室に静寂が広がる。
「お前っ」
刹那、圭一は私の胸元を掴み、自分の方に引き寄せた。
私も一切引かない。
「何、殴る? ダサッ。フラれた腹いせで女の子を殴るの? 最低」
圭一は右拳を振り上げていた。今にも殴りかかろうと。
「調子に乗るなよ。お前っ」
「ほんと、惨めね。そうやって暴力で自分を大きく見せようとするなんて」
負けずにいると、圭一はより虚勢を張る。
「はっきり言ってあげるわ。そういうのがもう嫌なのっ」
「なんだとっ」
「そういうの、幼稚園の子と一緒。子供が自分の意志が通らずに、駄々をこねて騒いでいるみたいなのが」
なかば挑発的に言うと、見る見るうちに圭一の顔が紅潮していく。
「あ、ごめん。言いすぎた。子供はまだ可愛げがあるけど、あんたは惨めでしかないわ。ほんと、器が小さいからね」
「お前なあっ」
胸元を持つ手に力がこもり、頬が引きつっていく。
「自分の力を誇示したいからって、弱い者をイジメてるだけだもんねっ。それで自分は凄いって勘違いしてる。お気楽な人ね、ほんと。あんたの嫌がらせに耐える坂口の方が立派よっ」
教室がざわついた。
誰もが触れようとしなかったことに触れると、多少の動揺が走った。
構えた右手がわなわなと震えている。必死に怒りを堪えているように。
「わかってんのかよ、お前っ」
「何? 今度は私を標的にするつもり? それこそ惨めよね。フラれた女に腹いせでイジメようなんてさ。別にいいわよ。殴っても。でも、殴ればそれだけあんたの惨めさが晒されるだけなんだから」
「ああ、そうかよ。だったらーー」
「止めろっ、圭一っ」
勢いに任せようとする圭一を、幸太郎が叫んで制止した。
ざわめき気になり、ふと周りを見渡すと、教室にいた生徒の数人がスマホをかざし、この状況を撮っていた。
「いいんじゃない。あんたの惨めさを拡散されるのも」
挑発的に吐くと、わなわなと圭一は体を震わせる。
「バカにするなっ」
怒鳴りつけ、掴んでいた手を放した。それでも私を睨み続けてくる。
「ーーバカらしい」
もうこの場にいることも嫌になった。
好奇の目が注がれているなか、私は荷物をまとめ、教室を飛び出した。




