表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界から帰ると  作者: ひろゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/65

 第七章 10  ーー 強くない ーー


           10                      


 私が羨ましい…… か。


 すっと浮かび上がる声。

 きっとこれは影法師の言葉なんでしょうね。

 これまでの禍々しさは一切ない。

 どこか寂しく、悲しげな声なのに、なぜかそう受け取ってしまった。


 でも。


 私はやっぱりそんなに強くはない。

 それまで動こうとしなかった目蓋がピクピクと動き、視界がすっと開けていった。

 飛び込んでくる光景に、もはや驚きはなかった。

 そこはそれまでにいた公園とはかけ離れた場所。いえ、空間でしかなかった。


 真っ白で何もない虚無の空間。

 そこで立っているのか、浮かんでいるのかさえ不思議な状態でいた。

 現実離れした場所に、胸はずんと重くなってしまう。


 また幻なのね。


 諦めに似た寂しさが目蓋を閉じさせ、溜め息をこぼしてしまう。


 私が強いって、そんなの買い被りよ。

  

 影法師の言葉を整理していると、つい口角を上げずにはいられない。本来の自分の姿が惨めになってしまう。

 疑念に目蓋を開いてみるのと同時に、胸を詰まらせてしまう。


 ……だよね。


 と、つい同意を求めてしまった。目の前に現れた人物に向かって。

 目の前に現れた私自身の姿に向かって。


 ただ、今の私じゃなかった。


 突如現れたのは、小学校のころの私。ピンク色のランドセルを背負った私。一番胸を責められるころの私であった。

 まるで狼みたいに鋭い眼光で、蛇みたいに執拗に睨んでおり、私を軽蔑しているみたいだった。


 当然だよね。


 私の頬は引きつってしまう。

 懐かしさに暮れる暇もなく、ずっと叱責の眼差しを受けて黙っていると、急に竜巻が起きてしまったみたいに、黒い影が湧いてきた。

 影は幼い私の足元から渦を巻いて、幼い私を包み込もうとしたとき、幼い私は不意に右手を差し出してきた。

 あたかも私に助けを求めるみたいに差し出された腕にも、容赦なく影がまとまりついていく。

 幼い私はそれでも表情を一切変えようとせず、毅然としている。

 怖さを微塵にも出さず、私を責めたまま。


 つい拳を握りしめてしまう。


 恐れてしまった私にとって、この手を掴む資格なって…… ない。

 きっとこれは影法師が責めているんだ。


 ねえ、どうしたらいいの? 私は……。


 ―― 私は辛いのは嫌…… 誰かが辛くなるのも嫌…… ――


 唐突に浮かぶ言葉。

 

―― それは長いトンネルよ。どれだけ進んでも、暗闇だけが自分を支配していく。それが辛いのよ ――


 言葉がより響いていくと、それに呼応するみたいに影も濃くなり、より幼い私を取り込もうとしていた。

 トンネルか……。

 このまま影に覆われるべきなのかな。

 でもさ、でもね。一言、言われてほしい。


「でもさ、トンネルっていつかは通り抜けれるじゃん」


 ―― ……通り抜ける ――


「そう。あんたがいるところはトンネルなんでしょ。そこが洞窟だったら行き止まりにぶつかったり、迷うかもしれない。けれど、トンネルならどれだけ長くても、いつかまっすぐ進めば抜けられる。そんな気がするんだけど」


 ふと目の前の幼い私に笑いかけてしまった。

 影に覆われ、顔の半分が取り込もうとしていた私に、変化が見えた。

 それまで冷ややかだった眼差しを丸くして、戸惑っているように見えた。


「私はそう思うよ」


 そんな幼い私に私は優しく語りかけ、右手を差し出した。


 ―― やっぱり、あなたは ――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=786867997&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ