第七章 9 ーー 羨ましい ーー
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ーー どうして?
どうして、あなたはそんなに強くなれるの? ーー
意識が空に彷徨いかけたとき、力強い問いかけが頭に激しく轟いた。
あたかも眠りに陥る私を拾い上げようとするみたいに。
なんだろ。それでも胸が痛い。どこか叱責されているみたいで、息苦しくなってしまう。
目蓋を開こうとする前に、つい笑ってしまう。
私が強い? どこがよ。
浮かび上がった問いかけに、なぜか恥ずかしくなってしまった。
私は何をやっているんだろう。
それより、ここってどこなんだろう。
―― だってそうでしょ。どうしてあなたは辛い過去を受け入れることができるの?
どうして心が壊れないのよ ――
誰も、疑問に答えてはくれない。
悲壮な言葉は笑う私を羨むように見えてしまう。よく見るフォントでありながらも、言葉は震えているみたいで。
そっか、私の心ってまだ壊れていないんだ。
ふと、奇妙な安心感に包まれる。
だったっら、
「受け入れてる? そんなことないわよ」
そこに誰がいるかはわからない。けれど、目を開かないまま声をこぼしていた。
私はただ逃げただけよ、辛い過去からね。
だって、そうでしょ。私は何か、自分に危険が及びそうになると、目を背けていたのだから。
もう、あんな辛い思いはしたくない。
だから、いろんなことから逃げてきた。
仮に背中を向けた先で不幸なことが起きていたって、振り向かなかった。そこで誰かが声に出さない助けを求めていたって、気づかないふりをしていた。
もちろん、坂口にしたって、そう。
…………。
―― それが羨ましいのよ ――
……え?
―― だって、私はそれすらできなかった。逃げるって考え方もあったのね。それが羨ましい ――
そう、かな?
―― それで、あなたは、あなたの心は助かったのでしょ ――
……そうでしょうね、きっと。
―― それができなかった。その辛さを乗り越えられなかった。だからこそ、忘れるべきだって決めつけて。必死になってすべてを消してしまおうとしていた。
バカみたい ――
悲壮な言葉が胸を突き抜ける。
―― あなたが羨ましい ――
「……そうかな」
―― だから、その気持ちを忘れないでほしい。お願い ――
「――何よ、それ……」




