第七章 1 ーー 助けてあげようか? ーー
第七章
1
目の辺りが熱くなっていることに気づいた。
何かが見えてくる。
これって走馬灯なのかな?
視界に広がる荒野。
あれは本当に幻だったの?
ルーンやテレサの遺体が痛々しく横たわる残虐な光景。
坂口は言っていた。
幻かもしれないけれど、自分らが知らない時間軸での出来事なのかもしれない、と。
そんな荒野に気づけば立っていた。
目が熱くなり、涙がこぼれそうになる。
ただ、あのときみたいに、遺体はない。
風が岩の間を通り抜ける殺風景ななかに立ち尽くしている。
遺体はなくても、無数の槍や剣が地面に突き刺さっている。
あたかもこの地で命を堕とした者を弔う墓石みたいに。
視界に広がるすべての剣に胸が詰まり、体が震えそうになっていた。
正直、私がこの地に想いをはせるほどの時間をすごしたわけではない。
それでも、胸を突くものがある。
私でこれほどなのだから、あの幻を見た上での坂口の苦しみは計り知れない。
誰もいないなかで、余計に苦しくなった。
「これも幻だって言うの?」
指で目元を擦った後、誰もいない荒野に向かって投げかけた。
「こんな光景をずっと見て、苦しまなければいけないってことなの?」
……なんで?
怒りに似た感情が胸で爆発するのだけど、苦しくて声に出すことができない。
そもそも、なんでまた私はここに……。
ーー 助けてあげようか? ーー
残虐な光景から逃げたくて、また目蓋を閉じたときである。
漆黒の脳裏に、真っ白な文字が浮かび上がった。
声が聞こえたわけではない。直接文字が浮かんだ。
マンガの吹き出しみたいに。
文字に導かれるように、目蓋を開いた。
すると、私の前に一人が立っていた。
影法師が。
急激に胸が痛み、胸の辺りを強く掴んだ。
逃げるわけにはいかない。足に力を込めた。
「……圭一なの?」
恐る恐る聞いてみるが、影法師に反応はない。
静かな姿に眉をひそめると、不意に一歩下がってしまう。
……圭一じゃない…… 誰?
肌にへばりつく気味悪さ。ヒリヒリとさせる圧迫感は、蔑んだ圭一が放つものではない。
でも、この圧迫感は体が覚えている。
「ーーあんた、もしかして」
目の前にいる影法師は以前、美月といたときに襲ってきた奴だと察した。
圭一でないことに、急激に強まる恐怖心は、逃げようとする体を硬直させた。
足元てま植物がのツタがまとまりついたみたいに。
ーー 助けてあげようか? ーー
まただ。
また頭に直接文字が浮かんでしまう。
「何が言いたいの?」
無視もできず、問い返してしまう。逃げられないのなら、向かうしかない。
ーー 辛ければ、忘れればいい ーー
「忘れる? 何を忘れろっていうのよ」
反射的に叫ぶと、影法師はおもむろに体の向きを変え、道を譲った。
広がる荒野。
影法師の意図が掴めない。
わかるのは、以前みたいな殺意がないということだけで。
ーー これはお前の世界なのか ーー
「……私の……」
違う。私はこんなことを望んではいない。
ーー なぜ、干渉する ーー
……干渉。
「それは私だって」
ーー 干渉しなければ、その苦しみから解放される ーー
「だからーー」
ーー 忘れてしまえば、楽になる ーー
忘れる……。
なんだろ、どの言葉よりも、深く染み込んでしまう。
胸をむしられるみたいにざわつき、唇を噛んだ。
「……忘れてどうするの?」




