第六章 7 ーー 圭一の器 ーー
7
「なら聞くが、お前は本当にあの女のことをずっと覚えているのかよっ」
負け惜しみに聞こえる圭一の挑発。
それなのに、坂口の動きは少し重くなる。
顎を上げて鼻で笑う圭一。坂口は悔しさを噛み殺している。
「図星みたいだな」
黙り込む坂口を追い込み、剣を振り回す様は、バットを回すみたく楽しんでいる。
「忘れかけていたくせに、よく偉そうなこと言えたな」
「お前にカガミの何がわかるって言うんだっ」
負けじと吠える坂口ではあっても、急にこれまでの勢い失われる。
坂口が攻められているみたいに。
二人がどんな格好をしていても、私には教室でイジメている光景に似ていた。
「言っただろ。俺はお前がミラに行く前に飛んだってな。だから、お前がカガミに会っていたんだって」
「………つ」
「本当はお前も忘れたかったんじゃねえのか? 自分自身がカガミの存在を消したくて、殺す幻想を見たんじゃねえのか。あいつの存在を消すことをお前がな」
「ーーダサッ」
肌に刺さる雰囲気が漂いなか、私はポツリと吐き捨てた。
独り言のつもりが思いのほか通り、二人の動きが止まる。
二人ともこちらを向いた。
「んだとっ」
敵意が容赦なく飛ばされた。
それでも怖さはない。
「あんたがダサいって言ってんのよ、圭一」
胸に竦む思いをすべて吐き出した。
圭一は苦虫を噛み潰すように頬を歪める。
「さっきから何? 話を聞いていたら、一方的に坂口を責めてるけど、内容が全然じゃん。黙って聞いてる方が情けなくなるわよ」
吠えながら一歩前に出て、腕を振り払う。
「最近、ずっと感じてた。あんたの態度が気に入らないって。それがなんだろうって思ってた。それがやっとわかったわ」
「んだよ、なんだって言うんだよっ」
「器が小さいってことよ」
どこか圭一が滑稽に見えてしまい、わざと挑発してやった。
顔の前で小豆を掴む仕草をして。
本当に癇に障ったらしく、髪を掻くと苛立ちを隠そうともせず、剣先を私に向けた。
それでも怯まず、腕を組んで嘲笑した。
「俺が器が小さいだと?」
「そう。自分が大きいんだって見せたいだけで、でかい声で威張って威厳を守ろうとするけど、それだけ反抗したり、気に入らなければ怒鳴って従わせようとする。ほんとバカげてる」
より癇に障るよう、大誤差にかぶりを振ってみせた。
「いい加減にしろよっ。黙って聞いていれば、お前だって容赦しねえぞ」
私を拒絶したいのか、剣を振り払う。
これだけ罵倒するってことは、かなり限界なんでしょう。
まるで体から湯気が沸いているみたいに、わなわなと体を小刻みに震わせている。
でも、同情の余地もなく大きく溜め息をこぼした。
今にも爆発しそうな姿に、つい顎を擦ってしまう。
「テレサさんだっけ。今思えば、彼女ってすごいのね。あんたを一目見ただけで、性格を当ててしまうんだから。本当、あのときに指摘していたのがそのままだわ」
以前、城の広間で圭一を一蹴したテレサを改めて感心してしまう。
ふんっと最後に鼻で笑ってやると、圭一はより肩を震わす。
トドメを刺せた、と胸を張ると、「ははっ」と圭一の渇いた笑い声が広がった。
笑い声が不気味に木霊していくなか、圭一の握った剣先が小さく揺れていく。
揺れが大きくなるほどに、笑い声が激しくなっていく。
耳障りな笑い声が止まるのと同時に、剣先が止まる。
顔を上げた圭一は、私を物々しく睨んだ。
「どいつもこいつもバカにしやがって」
「ーーはあっ?」
憎しみがこもる声に、眉をひそめた。
「どいつもこいつも、黙って従ってろっ。お前らみたいなゴミがバカにするな。俺に従ってれば、いいんだよっ」
耳障りに近い怒号に肩をすぼめていると、圭一は右手を横に振り上げた。
刃が右肩と真横に並んだとき、圭一は地面を蹴った。
鬼気迫った圭一が距離を詰めたのは私。
でも、こんな奴、もう怖くなんか……。
待って、確かこいつ、坂口と常人離れした動き、してなかった?
アニメやマンガにあるようなデタラメな動きを……。
「危ない、池内さんっ」
坂口の驚愕が私の視線を動かした。視界の隅で手を伸ばし、こちらに近づこうとしていた。
面食らった表情で。
噓、と首を傾げたとき、視界を影が覆う。
痛みはない。
視線が落ちると、私の胸に圭一の握る剣が突き刺さっている。
「ーーえっ?」
遅れて声が漏れる。
「調子こいてんなっクソ女っ。俺の女にしてやってるのに」
これは…… 現実、なのね……。
胸元が血で染まっていく。




