第六章 2 ーー 敵意 ーー
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あれ?
あれ?
瞬きをしたとき、一瞬だけ頭が真っ白になった。
今、とてつもなく大事なことを耳にしたはずなのに、なんで?
なんか、何もかも見えなくなってる。
ただ、
ただ、圭一が指を鳴らす音が耳鳴りみたいに、頭の中心を駆け回っている。
目を閉じ、指の音が静まるのを待ってから目蓋を開いた。
「……消えろよ、クソが……」
さっきまで聞こえていた威勢のいい声ではなく、弱々しい圭一の声に瞬きを忘れてしまう。
あれ? さっきまで公園にいた、よね。
それなのに、私は学校の廊下に立っていた。
思い出したみたいに瞬きすると、ガチャンッと大きな音がした。
どこか重い金属が床に落ちるような鈍い音が。
音の方向に顔をむけると、面食らってしまう。
床に落ちていたのは一本の剣。
見覚えのある剣は、影法師を模していた坂口が手にしていた剣。
ーーえっ、と驚きが治まる間もなく、足元には倒れ込む圭一。
そして、落とされた剣のそばでは、立ち尽くす坂口がいた。
……倒れてる圭一って、斬られたの。誰に? えっ? 坂口に?
そんな、だって坂口は逃げたじゃん。それなのに……。
圭一が動かない……。
「どういうことなの、ねえ坂口…… 本当にあんたが殺したの……」
肩をすぼめ、手を眺めている坂口。
じっと見詰める手から全身に震えが広がっていく。
「……坂口」
壊れそうな私の声に、坂口が顔を上げた。
目が合ったときに気づいた。
坂口は脅えてる。
「……そんな、僕が…… 殺…… 」
「違う。こんなの絶対に違う。こんなのーー」
「それがお前の本当の姿だろ」
こんなの信じたくなくて大声を出そうとすると、後から圭一の蔑んだ声が通り抜ける。
私の横で倒れていたはずなのに。
怖いはずなのに、確認せずにいられない。
ゆっくり振り返ると、薄暗い廊下を風が突き抜け、勢いに負けて目を瞑る。
……これって幻、だよね。
「幻? 違う。これは違う」
指されて倒れていたはずの圭一の声が耳を通る。
目を開くと、横には平然と立っており、憎らしく坂口を睨んでいた。
「それがお前の姿だ。お前が影法師だ」
肩をすぼめ、脅える坂口に罵声を上げ高笑いする。
「お前はそうやって苦しめっ。すべてを消さないっていうなら苦しめっ。俺からすべて奪おうなんておこがましいんだっ。もっと苦しめっ」
不快な笑い声に坂口は耐えきれず、数歩下がる。
「そうだ。お前は人殺しなんだ。それに変わりはないんだっ」
追い打ちをかけるように、圭一は声を荒げる。
まるで石をぶつけられたみたいに坂口は脅え、震えていく。
圭一の声を拒んで耳を塞いでしまう。
しばらくして、追い詰められたのか、不意に床に落ちていた剣を掴み、ゆらゆらと立ち上がる。
「なんだよ、やるのかよ」
顔を伏せる坂口を挑発して、両手を大きく広げる圭一。
坂口も誘われるように顔を上げて圭一を睨んだ。
しばらく睨んだ後、坂口は手にした剣を構え直し、剣先を圭一に向ける。
坂口は口を開き、猛々しく息を吐き捨てる。
それまで子供みたいだったのに、獣みたいに血走った目を吊り上げた。
以前、影法師に対して露わにしていた感情を剥き出しにしていた。
あのとき、敵意や殺気に似た空気があり、危うかったのだけど、今も同じ雰囲気を漂わせていた。
「ーー違うっ」
危うさに肌がヒリついていると、坂口は叫喚した。
瞬間、体が動いた。
ーーダメッ。
坂口に誰も傷つけてほしくない。
構えていた剣が突き抜け、私の体を貫いた。
坂口の前に出たとき、目が合った。
じっと私を見詰める眼差しに、疑いたくなる。
坂口自身が脅えている。
本当に話に聞いていた影法師とは懸け離れていた。
絶対にこいつが影法師じゃないって信じたい。




