第五章 10 ーー 争い ーー
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顔を晒した影法師。
そこには寂しげに立ち竦む坂口の姿があった。
坂口は私の声も聞こうともしない。
いえ、私も冷たく睨まれると、何も話せない。
坂口は無言のまま剣を抜く。
「なんだよ。遊んでやってる俺に向かって、そんな剣を向けんのかよ。やっぱ、変質者の気持ちはわかんねえなあ」
距離を詰めようとする坂口に対し、平然と挑発を続ける圭一。
坂口は黙ったまま。
「どうした、人殺し」
刹那、坂口は両手で剣を握り直すと、廊下を蹴って襲ってきた。
なんでっ。
声に出ない疑問をよそに、私の横を影が通り抜ける。
風が髪をなびかせた。
坂口は通り抜け、剣を振り下ろす。それを圭一は軽々とかわし、ステップを踏みながら、後ろに下がっていく。
その間も坂口の剣は空を斬る。
「どうした、人殺し。みっともねえな。無抵抗の人を見境なく殺すってか?」
耳障りな圭一の声が酷く木霊する。
「そんなの、簡単にかわしてやるよ。どうだ? お前の実力だよ。調子こくなよ」
さらに畳みかけ、圭一は高笑いをする。
こんなの嫌。
気づけば振り返り、二人の後を追った。
何がなんなのかわからない。
でも、このまま坂口が圭一を殺そうとするのは黙っていられない。
詰め寄った坂口が両手で剣を振り上げる。
「見てみろ遥香っ。これがこいつの姿なんだよっ。なあ人殺しっ」
「うるさいわよっ」
咄嗟に回り込み、坂口の前に立ちはだかった。
「止めなって、坂口っ」
圭一を守るのは不本意でしかない。けど、坂口にこいつを殺させたくない。
「止めてっ」
無我夢中で必死に叫ぶと、坂口の動きが止まる。
じっと坂口の顔を見詰めた。
やっぱり坂口の目は脅えているように見えた。
小さくかぶりを振り、「ダメッ」と黙りながらも訴えると、坂口は剣を下ろす。
剣先が廊下に触れようとして、ふと安堵した。
坂口の瞳孔が左右に激しく揺れたけど、唐突に背中を向け、この場から逃げ出してしまった。
「逃げんのかよ、人殺しっ」
耳障りな圭一の声が廊下に轟いた。




