第五章 6 ーー 幻と現実 ーー
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あのときに見た坂口の寂しげな顔。影法師と対面し、感情を爆発させる様子につい蘇ってしまう。
「そんなの絶対に嫌っ」
光に包まれる瞬間、本音を抑えられなかった。
光が治まり、坂口を止めに入ろうとすると、足が止まる。
ふと、頬が冷たくなる。
不意に上を見上げると、またポツリと冷たい。
「ーー雨?」
雨が次第に顔を濡らしていき、これで戦いが終われば、と唇を噛むと、私が置かれた状況に悪寒が走る。
世界はまた変わっていた。
「……なんだったの。あれって夢? 幻?」
荒れ果てた荒野にいたはずの私たちは今、坂口が空を眺めていた公園に戻っていた。
「影法師…… なんだったんだ、あれ?」
隣で頭を抱える坂口。
坂口も事態が掴めず混乱しているみたいだ。
「影法師って、あんたもあれ、見たの?」
ルーンとテレサが倒れる残虐な光景。
口に出すのもはばかり、ごまかしてはいるけれど、坂口の見た光景も同じだったのか、焦りが見えた。
「あれは幻なの?」
小雨が髪を濡らすなか、やけに現実味のある光景を素直に受け入れられない。
気持ち悪さから、坂口に詰め寄ってしまう。
坂口は頭を抱えるだけで答えてくれない。
「……わからない。どっちとも言えないんだ。幻ならいいんだけど、ある意味、未来の出来事かもしれないし」
「未来って、そんな」
「時間軸とかが違っていて、僕らの帰ってきた後のことかもしれない。実際、僕は池内さんより後に帰ったけれど、現実では、大して時差はなかったから」
「じゃあ、あれは現実で、それを知っているのは影法師だけってこと……」
「影法師…… あいつだけは許さない」
まただ。また坂口の表情が強張った。きっと奴に対する感情は解消されていないんだ。
それでも、多少は安心してしまう。
ここで怒っているならば、奴を殺してなんていない。人を殺してないんだから。
「落ち着いて、坂口」
今にも飛び出してしまいそうな坂口を宥めた。
「あれは幻。私はそうだって考えたい」
本音を言えば怖いから、そうであってほしい。
でも、今は少しでも平静を保ちたい。
「幻って、でも……」
「私たちは現実にいるのよ。もし、あっちに行ったのなら、こんなに簡単に帰れるわけないでしょ。だからあれは絶対に幻。幻なのよ」
動揺する坂口に強く放つけれど、半分は自分に言い聞かせていた。
そう。あれは幻。
「大丈夫。あの二人は生きてる。絶対に生きてる」
「そうか。そうだよね」
なんで、坂口を励ましてんだろ。
あそこで坂口を励ましていなければ、とんでもない暴挙に傾くかわからない。
だからこそ、止められて安堵した。
でも、疑念は残る。
だったら、なんで影法師は私たちを襲ったの?
あのとき、「忘れろ」と忠告してきたはず。
ミラでのことを忘れなければいけないの?
坂口を止められたとしても、新たな疑念が不気味に足元に渦巻いていた。




