第一章 2 ーー 美月の話 ーー
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なんだろ?
「……の奴、また空見てる。キモ……」
胸に竦む得体の知れない違和感に唇を噛んでいると、廊下側にいた男子生徒のグループが一角を眺め、一人に対して陰口をこぼしていた。
陰口にしては教室に響くほどの声量であり、バカにした口調であった。
しかも指を鳴らし、遊んでいた。
このクラスでも、イジメは起きていた。
また、このグループに彼氏である圭一が加わり、指を鳴らしているのだから、恥ずかしさしかない。
……またやってる。
身近な者がイジメに加担していることを、私は傍観していた。
そう。何が扉を開かすか知っているから。
これが普通なんだと思う。
美月も一度圭一らを眺めたけれど、何事もなかったみたいにすぐに視線をこちらに戻した。
これまでもそう。すぐに笑顔になり、たわいのない話になるんだろうな。
さて、今日はなんだろう。有名な店のケーキが食べたいって、すぐに子供みたいにクシャクシャに頬を緩めてくれるんでしょ。
ま、私も今日は用事もないし、それもいいなって目を細めていると、思いのほか表情を曇らせた美月が机のそばで立ち尽くしていた。
うつむいた表情は影に覆われ、追い詰められたように見えた。
「……どうしたの、美月?」
そんな暗い顔を見ていると、放っておけないじゃん。こっちまで声がこもってしまう。
美月は一度頷き、隣の席の椅子に座ると、そのまま椅子を引きずり、そばに寄ると背中を丸めた。
「何? 何があったの?」
どうも深刻な様子に、こちらも眉をひそめ、前髪を掻き上げた。
すると、それまでの暗さが噓みたいに美月は顔を上げると、目を細めた。
「大したことじゃないんだ。ただ、ちょっと相談したいことがあって。その、今日一緒に帰れないかなって思ってただけなんだ。でもあれでしょ。井上くんと帰るよね、ごめんね」
……何、言ってんだか。
美月は意外と感情を表に出す子。見るからに隠しているのは明白。
無理してんじゃないっての。
溜め息がこぼれそうなのを堪え、額を擦っってしまう。
「別に気にすることないわよ。話って何?」
ちょうど圭一と話す気分でもなく問い返すと、一瞬頬を綻ばせると、またすぐに眉をひそめた。
美月はどこか躊躇しつつ教室を見渡すと、
「なんか私、誰かに後をつけられているみたいで怖いのよ」
脅えた声に私も頬を歪めた。
「それってストーカー?」
困惑する美月は首を傾げた。